作戦変更
「ただいまー!」
遥が元気な挨拶と共に部室に入ってくる。
私は焦ったように朱天君から離れると、「遥、せんぱい……!おかえりっ!」
と裏返った声で遥と先輩を迎えた。
「あれ?鬼丸もいたんだ!さっきはありがとね。」
「まあ……その、だ、大丈夫だったの?先輩。」
朱天君が立ち上がり、遥の後ろでしょぼくれている加賀魅先輩に尋ねる。
「一応ねー。悪質な嫌がらせだって話に落ち着いて、そんなに怒られなかったよ。」
「……じゃあ、なんで加賀魅先輩はそんなしょぼくれてるの?」
私が尋ねると、遥は呆れ笑いをしながら
「途中先輩が泣いちゃってさ〜。先生に『ごめんなさーい!俺、友達とか後輩を騙しておけなくて、夢魔だって言っちゃったんです!』ってわーわー子供みたいに……」
と言う。
「え!?大丈夫!?退学になったりとか……!」
焦りながら問う私に、遥はバツが悪そうに
「先生、なんかもらい泣きしちゃって……謹慎期間の延長と奉仕活動の追加で許して貰えたよ。」
と呟く。
(処分は一応されるんだ……)
しかし、退学を免れてよかった。加賀魅先輩の父性を刺激する才能に救われたようだ。
「これからどうする?もう加賀魅先輩が夢魔とバレた以上隠せないよね。」
女子の反応を見るに、1部で情報が共有されている可能性だってある。
「うん、だから先輩が夢魔なのは公開しておくことにしたんだ。先輩もそれを望んでたし、隠してる方が確実に印象悪いだろうから。」
遥は困ったように頬を掻く。
確かに、バレた以上黙っておく方が問題は大きくなりそうだ。
「幸い、これまでの加賀魅先輩の行動は『女子を避ける』『力を悪用しない』だったから酷いことにはならないと思う。魅了された女子も時間が経過すれば戻るんだよね、先輩。」
「うん、1ヶ月から半年くらいで消える。」
「であれば被害が出ないように動いてたんだし、イメージダウンは少ないんじゃないかな。反省の色が見えていれば問題ない……と!考えたので。」
遥は言いながら、スマートフォンを操作し始める。
「先生にお願いして、1連のことについて掲示板で説明してもらった。退治済みであること、本人に夢魔であることを口止めしたこと、処分の一環としてミスターコンに参加していることとかね。」
そう言って、遥は携帯の画面を見せてくれた。
「わお、掲示板のレスやっばいね……」
本人が女子を避けていたこともあり、大多数は「重い処分が降りてるなら」と納得する回答がほとんど。
しかし中には否定的な意見もちらほら散見された。
「思ったより反応は悪くなかったけど、これじゃもう朱天君には勝てないかも……」
呟くと、私はすぐに失言したと後悔する。
「俺に勝つって何の話?」と朱天君は怪訝そうな顔をし、遥はジトりとこちらを睨んでいた。
……
「はあ!?轟鬼解体の為に俺に勝とうとしてた!?」
全てを説明した後で朱天君がそう声を上げる。
「何でそんな大事なこと、俺抜きで進めるかなー遥くん。」
鬼丸ら遥の頬をぷにぷにとつつきながらそう口にした。
「轟鬼解体には、『本気の鬼丸』に勝たなきゃいけないと思ったの!手を抜けばあっちにバレるし、まともに勝負して朱天鬼丸に勝てる人間がいるって証明しなきゃ取引が破綻するでしょ。あとほっぺ触らないで!」
遥は説明してから朱天君を威嚇する。
「それにしても困ったな。せっかく加賀魅先輩を出場させたことで轟鬼を辞めるよう相談するって約束を取り付けたのに、こんなことになるとは……」
遥はそう言ってむくれながら頬をさすった。
「というかそもそも轟鬼って奴らが俺の暴露をしたんでしょ?なら辞める辞めないって話が出た時に『加賀魅なんかに勝たせてたまるか!俺が鬼丸を倒すでゲス!』ってなった可能性高くない?」
加賀魅先輩が独特な語尾で浩平さんの心理を推理してみせる。
「そうだね。だから鬼丸より先に加賀魅先輩を妨害しようとした、って感じか。」
遥が顎を抑えながら言うので、私は「どうしますか、遥P……!」と判断を煽った。
「作戦変更!加賀魅先輩と鬼丸で協力し、茨木浩平を倒す!」
遥はアニメに出てくる司令官のように、手を突き出しながら作戦を告げる。
「協力して……!?」
「今日の2人を見てたでしょ?加賀魅先輩と鬼丸は俺と出会う前から仲がいい。
2人はバチバチにやり合うより途中まで協力して、最後にどちらかが折れる形の方が合ってると思う。」
遥がそう述べた後で、「それって、俺が協力したいって言うの前提で話進めてない?」と朱天君が口にした。
「え」
「遥ぁ〜?俺に協力して欲しかったらまず『鬼丸ごめんなさい』と『協力してください』が先だよね……?」
朱天君は遥を見下ろしながら、頭をぐりぐりと押さえる。
本来ならそんなことをされればブチ切れそうなものだが、普段優しい朱天君に威圧されたこともあってか遥は真っ青になって固まっている。
「鬼丸……ごめんなさい……」
「それから?」
「協力してください……」
遥が小さくなって震えている姿を見て、私は日頃のストレスを密かに発散させた。
「こほん……それじゃ、今後の動きを説明するよ。ゴールデンウィーク明けまでは鬼丸と加賀魅先輩でビラ配りと投票のお願いを継続!茨木浩平が何か仕掛けてきたら退魔部で作戦会議だ!」
遥は朱天君に詰められたあと、テーブルに部員を座らせそう言い放つ。
「……そもそもさぁ、俺気になるんだけど……轟鬼って何がしたいの?暴れてるって噂だけでいまいち目的が謎じゃね。鬼丸に嫉妬してる奴らと憧れてる奴らが一丸になって迷惑行為する理由がふわっとしてたらそのうち仲間割れしそーなもんだけど。」
加賀魅先輩がお菓子を頬張りながら言う。
「……SNSで見た感じでは、不法侵入常習に、それを止めた人に対し暴力を振るうから注意って書いてあったね。」
遥が上を向きながら答えた。
「かなり悪質だな。不法侵入なんてリスク犯してまでやりたいことでもあったんか?」
「さあ……どうせ何も考えてないと思うけど。」
遥は呆れたように息をつく。
なんだか不気味だ、改めて考えてみれば、どうして相反する2つの勢力が1つになれているのだろう?
……
話し合いは一旦まとまり、私は遥と帰路を共にした。
いつもの癖で私は車道側、道の端っこを歩く。しかしその途中で何かに躓き、足を止めた。
「おい、置いてくぞ。」
遥が言うも、気になって道を凝視した。
すると、来た道に見たこともない石の杭が刺さっていることに気付く。
サイズは15センチ程の杭で、何か文字が刻まれていた。
「遥、これなんだろ?建材?」
「敷地の境界を示す目印じゃない?そんなあったかもなかったかも分からんもんよく見つけ……」
遥は言うと、何かハッとしたように杭の周りを掘り始め、抜く。
「わ!遥だめだよ犯罪!」
「よく考えてもみろ、合法に打たれたもんならちょっと可愛い僕の細い腕で引き抜こうとしたって抜けないようになってるっての。それより問題は、この杭から悪い魔力を感じるってこと。」
「え……」
「おいお前、これ家で調べてもらえ!……轟鬼の目的、それで分かるかもしれないぞ。」
活動報告にて挿絵リクエスト(私が描いても良いもの)を募集しています。
良ければご参加お願いいたします。
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