夕日と鉛筆
「あ……」
朱天君は私の顔を見て声を漏らす。
「何よ、明らか気まずいなって顔しちゃって。」
私はジトりと朱天君を睨むと、部室に戻ろうとする。
「待って、どこ行くつもり?」
朱天君に呼び止められ、振り返ってから「部室だけど!これでも部長ですので。」と答えた。
「……加賀魅先輩が心配で来たんだけど、茂木が一人で行動してるってことは遥に任せて大丈夫な感じ?」
「まあね、遥は賢いから。じゃ!」
そう言って去ろうとすると、朱天君は私の腕を掴み「怒ってる……よね。」とこちらの顔色を伺う。
「……急に距離置こうとか言われたらいい気しませんけど?」
怪訝に返す私に、朱天君は眉を下げながら「ごめん、俺……あの時ちょっと混乱してて。茂木が一人でいるの、心配だから付いて行ってもいい?……イケメン☆鉛筆コレクション!の話もしたいし。」
と言う。
(イケメン☆鉛筆コレクション!、まだ続けてくれてたんだ……!まあ、反省してるみたいだし?特別に許してやるか。)
「しょ、しょうがないなぁ……今回だけだよ?」
私は言いながら弾む足で部室に向かう、その時、朱天君の笑い声が少しだけ聞こえてきたような気がした。
……
部室に着くと、私は朱天君に「ねえ、どこまで進んだ!?編成何使ってる!?推しは!?」と詰め寄る。
朱天君はテーブル脇に腰掛けると「えーと……ちょっと待ってな。」と言ってスマートフォンを取り出した。
私は朱天君の隣に椅子を持ってくると、ワクワクしながらアプリの起動を待つ。
「今の編成は……」
朱天君が言いかけた時、私は身を寄せて画面を覗き込んだ。
「――っ!?」
「どれどれ……おお!星4編成だけどちゃんと揃ってる!ちゃんと最高レベルまで上げてて偉い!」
朱天君は少しビクりと体を揺らし、固まっている。
「……?朱天君、どしたー?」
声を掛けると朱天君はようやく我に帰ったようで
「あ……えっと、そう、鉛筆削りループ編成で組んでみた。」
と言ってこちらに身を寄せ画面を見せてくれた。
「何それ?聞いたことない。」
「主人公が鉛筆男子を削ると技のクールタイムが減るでしょ?パッシブに鉛筆削りの頻度を上げてくれる子を多めに編成しておくと――」
「わー!ずっと必殺技撃てるじゃん!すごい、どこの攻略見たの!?」
「自分で考えて組んでみた。」
よく見ると朱天君は私よりもストーリーを進めていて、サイドストーリーも全クリア済み、なんとイベントのスコアランキングで10位を記録している。
「こ、この前……始めたよね……!?」
朱天鬼丸の学習能力はこんな所にまで適応されるのか……!
「私なんか、3年やってめっちゃ課金しててもランキング2桁も行ったことないのに……」
呟くと、朱天君はまるで泥に沈んだように黙り込む。
「あ……ごめ……」
「凄いじゃん!天才じゃない!?」
「え……」
「ねーねー、私の編成にもアドバイスしてよ!結構強いの沢山持ってるんだから!」
私がそう頼み込むと、朱天君は安堵したように微笑む。
「どうかした?」
「……ううん、何でもない。持ってる鉛筆男子見せてよ。」
私は朱天君にアドバイスを貰った編成で彼と一緒に暫く周回していた。
流石と言うべきか、朱天君の組んでくれた編成は周回をとても快適にしてくれる。
「……そう言えばさ。」
周回の途中、私は思い出しかのように話を切り出す。
「何?」
「さっき加賀魅先輩を助けた朱天君、かっこよかったよ。」
「はっ……!?」
「先輩がごめんなさいって言った時拍手して、浩平さんに啖呵きって、追い返しちゃったでしょ?しかも皆に注意喚起までしてさ。
すっごくかっこよかったなーって。」
言うと、朱天君はスマートフォンを操作する手を止めてしまう。
「あ!ごめん!誰が言ってんだって話だよね!こんな万年ジャージの奴に言われたって嬉しかないか!」
焦ったように言うと、朱天君はまっすぐこちらを見て「そんなことない、嬉しいよ。……茂木に言われるのが1番……嬉しい。」と言い放つ。
私は一気に顔が熱くなるのを感じて、声も出ず沈黙してしまった。
(え!?待って……私に言われるのが1番って、何……!?)
言葉は出ないのに、脳はフル回転している。
そこでやっと、私は朱天君とかなり近い距離でゲームしてしまっていたことに気付きサッと離れた。
「あっ……ごごご……ごめん!めっちゃ距離バグってた!臭かった!?」
私はやっと出た震えていて裏返り気味の声でそう口にする。
「臭くないよ、全然。別に……茂木だったらあのくらい近くても困らない………ていうか、嬉しい。」
朱天君は顔を赤らめながらそう呟く。
(なんか……なんか、これでは……!まるで、好意を持たれているみたいでは!?)
「あ……はは!朱天君なら優しいしそう言うよね!も、もー、嫌な時は言うんだぞ!?」
なんとか茶化して乗り切ろうとすると、朱天君が真剣な顔で「そういうんじゃない。……本当に嬉しいんだってば。あのさ、茂木……俺が茂木の口手で塞いじゃった時、覚えてる?」と尋ねてくる。
その表情は誰といる時にも見たことがなくて、切ないような、でも目が優しいような……そんな、なんて形容したらいいか分からない表情だった。
「えっ……ああ、鬼の能力が暴走しちゃったっぽい時の……」
「あれ……さ。俺、あの時……!」
夕日が差す部室の中で、朱天君の声だけが響く。
そして朱天君が何か言いかけた瞬間、ガラッと部室の扉が開いた。
活動報告にて挿絵リクエスト(私が描いても良いもの)を募集しています。
良ければご参加お願いいたします。
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