暴露
「あっれー?『夢魔』の加賀魅先輩じゃないすか、こんなとこで愛想振りまいて、何してんの?」
私と遥が掲示板に気を取られていると、どこからともなく浩平さんがやって来てそう悪態を突く。
校門にいた生徒たちは不安そうにざわめいていた。
「夢魔……って……祐輔、あいつなんか言ってるよ?」
先輩を可愛がっていた男たちの顔にも緊張の色が浮かんでいる。
「本当でしょ先輩。1週間前、全校生徒と教師巻き込んで大パニック起こしたじゃないですかー。あれ?もしかして言わずにチヤホヤされようとしてたの?」
笑顔で嫌味をつらつら吐き捨てる浩平さんに対し、加賀魅先輩の顔は暗い。
「まずいな……!」
遥が止めに入ろうとしたその時、加賀魅先輩は拳を握りながら
「ごめん……そうだよ。俺、夢魔で……力が暴走して、皆に魅了をかけちゃったんだ。」とはっきり言い切った。
周りの生徒のみならず、遥や私までもが息を飲む。
「本当は皆に謝りたかったんだけど……!先生に止めらてたんだ、学校に夢魔がいるって知られたらまずいからって……本当にごめんなさい!」
加賀魅先輩は出し慣れてない掠れた大声で言うと頭を下げる。
その後何秒間か、校門が静寂に包まれた。
(終わった……)
そう思った瞬間、向かい側から拍手の音が聞こえてくる。
見ると、朱天君が手を叩いているのが見えた。
「ちゃんと言えて偉いよ、先輩!」
朱天君がそう声を上げたのをきっかけに、どんどんと拍手の音が大きくなる。
加賀魅先輩はゆっくり頭を上げ、「皆……怒ってないの?」と呟く。その瞳には涙が溜まっていた。
「まあ、やっちゃいけないことだとは思うけど……暴走ってことはわざとじゃないんだろ?」
「ちゃんと謹慎処分受けて奉仕活動頑張ってるし、こうして話してくれたじゃん。誤魔化されるよりよっぽどいいよ。」
「そうそう!もう処分が降りてるなら俺たちがどうこう言うことじゃないし!」
先輩の前にいた上級生たちが、そう言って笑い飛ばす。
「ねえ聞いた!?加賀魅先輩夢魔なんだって……!だから女子を避けてたんだ。」
「その組み合わせ沼すぎるくない?」
女子たちの反応は、警戒する者と謎の盛り上がりを見せる者で半々くらいに見えた。
「なっ……まじかよ……!夢魔だぞ夢魔!めっちゃ危険な種族なの知らないわけ!?女を誑かしたりすんだってば!」
浩平さんは焦ったように周りに訴える。
すると加賀魅先輩の前にいた上級生の1人が「祐輔が意図的に女子を誑かすわけないじゃん。2年の時進路相談で『将来の夢はしあわせなお婿さん』って書いて怒られてたくらいなのに……!」と言い、
その隣にいた上級生も
「そうだよ!こいつ修学旅行で恋バナしてた時『好きな人と手を繋ぐのが夢』とか言ってたんだぞ!」と続く。
(事情を知ってる私からしたら切ないんだけど……加賀魅先輩をよく知らない人が聞いたら混乱しそうだな。)
予想通り、浩平さんは震えながら「馬鹿じゃねえのあんたら……!」と叫ぶ。
すると朱天君が浩平さんの元に歩み寄り
「なに、顔面じゃ加賀魅先輩に勝てないから嫉妬してんの……?みっともないからさ、やめろよ。」と言い放つ。
生徒たちに睨まれ、いたたまれなくなった浩平さんは何も言わずに学校の外へと走り去ってしまった。
「……ダッサ、なにあれー。」
「なんかミスターコンの参加者らしいよ。」
「それもヤバいけどさ、夢魔が学校にいるのヤバくない?拡散しようよ。」
女子たちがそう言って盛り上がってる中、朱天君は大きな声で「皆さん、さっき加賀魅先輩が言ってたこと、口外しないようお願いします!彼はもう処分を受けているし、退治済みで力が暴走することはありません!」と伝える。
すると、スマートフォンを取り出そうとしていた生徒たちの手が止まった。
(流石……影響力あるなぁ。)
「鬼丸……ごめんね、俺、その件では鬼丸にも迷惑かけたのに……」
加賀魅先輩は朱天君に駆け寄り、涙声で言う。
「だから、もう許してるって言ったろ?……ったく、先生に止められてるのに馬鹿正直に全部言うことないじゃん。」
朱天君は加賀魅先輩の背中を軽く叩きながら優しく微笑み「頑張ったな。」と声を掛けた。
(本当に仲良しだなー……良かった、加賀魅先輩が孤立するようなことにならなくて。)
程なくして騒ぎは収まるも、当然書き込みの件は教師たちの耳にも入る。
加賀魅先輩は先生に呼び出され、一旦私と遥も職員室までついて行くこととなった。
……
「どういうことなんだ加賀魅君!書き込みで夢魔だとバラされているじゃないか!まさか友達にうっかり話したんじゃないだろうな!?」
職員室に生徒指導の先生の声が響く。
加賀魅先輩は肩をすくめながら縮こまっていた。
突如学校の掲示板に書かれたリーク情報。
この学校の掲示板に書き込む為には、生徒IDと氏名が必要になる。
きっと調べれば、浩平さんの名前が出てくるに違いない。
遥も同じことを考えたのか「待ってください。生徒IDは調べましたか?書き込みには明らかな悪意があるし、加賀魅先輩の友人である可能性は低いです。」と訴えた。
先生は口篭りながら「それが……分からないんだよ。」と呟く。
「……分からない?」
「IDがめちゃくちゃで、氏名もトドロキって人間のアクセスなんだが……そんな生徒は在籍していない。」
(ってことは……不正アクセス!?犯罪じゃない!)
「なら尚更、加賀魅先輩に悪意を持つ者の嫌がらせである可能性が高い。被害者に責任を追求するべきではないです。」
遥は理路整然と先生に言い返した。こういう時の彼は本当に頼れる。
「桃ちゃん、後は僕が何とかするから先に部室行ってな、終わったら迎えにいく。」
遥がそう囁くので、お言葉に甘えて私は途中で職員室を抜けた。
(いるだけ邪魔になりそうだもんね。)
そして部室に向かってる途中で、背の高い男子とぶつかりそうになる。
――顔を上げると、そこには朱天君の姿があった。
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