唐突な拒絶
遥のことを引き摺りつつも、しょんぼりとしながら校門に向かう。
(やっぱり追いかけて欲しくて突き放したのかな……?いやでも、遥ももう成長した男の人だし……)
すると、途中でメッセージがが来てスマートフォンを取り出した。
(あ、朱天君からだ。【今日、誰と帰る予定?前のこともあったから心配。】……ああ、さっき言おうとしてたのってこれだったんだ。)
【1人で帰ろうとしてた。まだ校門にいるよ。】
そう返すと、すぐに【待ってて、すぐ行く】と返信が来る。
……程なくして、朱天君が校門に小走りでやってきた。
「ごめんね、気を遣わせちゃって……」
「何で?元はと言えば俺が変なのに絡まれたせいだし。……行こうか。」
朱天君はそう言って歩き出す。
空は少し茜色になってきていて、日が少し長くなってきたことを実感する。
朱天君は何故かずっと黙り込んでいて、足音が鮮明に聞こえてくるほどだ。
(朱天君とまで気まずい……)
そう思っていると、歩道橋で朱天君がふいに「あのさ」と呟く。
「……何?」と答えた後で、朱天君は「茂木って遥と付き合ってるの?」の尋ねてくる。
「え!?ないない!あの将来可愛すぎるあまり世界遺産に登録されるであろう遥と私がそんなわけ……!」
私が必死に否定すると、朱天君は「遥への評価バグりすぎだろ。」と返す。
そして「なら……好きな人とか、いるの?」と続けた。
「は!?何急に!」顔を熱くしながら言うも、朱天君は何も答えてくれない。
後ろ姿しか見せない彼の耳が、夕日のせいか赤く染ってるように見えた。
異様に思っていた時、背後から突如「おい、あれ鬼丸じゃね?」と声がする。
振り返ると、若い男性たちがニヤつきながらこちらを見て「マジだ、女といる!」と呟いている。
(あ、見覚えのある顔もある……!まさかこいつら、轟鬼の!?)
「鬼丸くーん!聞いたよー?ミスターコン出るんだって?『僕のかっけーとこ』彼女に見せたいんだ。」
男たちは馴れ馴れしい様子で言いながら、こちらに近づいてきた。
「彼女じゃないよ、ただの友達。……茂木、行こう。」
朱天君が立ち去ろうとすると、男の1人が私の腕を掴む。
「――っ!」
「おい離せ……!」
「やば、めっちゃムキになってんじゃん!全然ただの『トモダチ』じゃなくね?」
まるで弱みを見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべる轟鬼の男に対し、朱天君の額にはうっすら汗が浮かんでいた。
「ダメじゃん鬼丸君、ちゃんと彼女にイイトコじゃなくて悪いとこも話しておかないとさ。彼女騙されてるみたいで可哀想だろ?」
私の腕を掴んでいる男が言い、後ろにいる男が「そうそう、詐欺だよ詐欺!」と笑う。
(悪いとこ……?)
「彼女ちゃん聞いて〜?こいつ、めっちゃマウント癖あんの。友達の得意なもんに手出して、……上手くなって。ニヤつきながら『俺の勝ちだな!』とか言ってくんの。」
――私は、朱天君のことを比較的分かってきたつもりだが……朱天鬼丸はそんな男じゃない。
負けた相手には丁寧に教えてくれて、勝った時は嬉しそうだが、しつこく煽ってきたりする人でもなかった。
きっとこの男たちの中で、「朱天鬼丸」という存在は原型もないほどに歪んでいる。
「まあ顔はかっこいいけど?女のこととか絶対下に見てるからさ、もっといー人探しなよ!俺とか!?」
私の腕を掴んでいた男がそう言った瞬間、後ろから嘲笑と、「お前まじ!?女なら誰でもいいんか!」と馬鹿にするような言葉が聞こえてきた。
(……我慢の限界よ……!)
「お前らいい加減に……!」
朱天君が中か言いかけた瞬間、私は「誰が選ぶのよ、あんたみたいな……ダッッッサイ男。」と口にする。
そして目の前の男が固まった隙に、私は掴まれた手を振りほどいた。
「は……?は?お前、なんつった?」
目の前の男は震えた声で呟く。
「ダッッッサイ男って言った!……朱天君はマウント癖なんか持ってない。ただ努力家で、人と好きなものを共有するのが好きで、上達が人より早いって……それだけ。」
「ふ……ふざけんな!誰が言ってんだこのジャージ芋女……!お前は何の被害も受けてないからそう言えんだよ!」
そう言って目の前の男が私に掴みかかろうとした時、ものすごい殺気を感じ、ビリビリと耳鳴りが聞こえてきた。
目の前の男を血管の浮いた手が掴んだと思うと、少し骨の軋む音が聞こえる。
(朱天君……!)
振り返ると、私のすぐ後ろにいた朱天君の目が、まるで猫のような瞳に変わっていた。
彼は怒りに耐えるように顔を歪め、目の前の男を掴んだ手の爪が、どんどん鋭くなっていく。
「朱天君!朱天君ダメだよ!」
朱天君に声をかけるが、恐らくは聞こえていない。
彼に腕を掴まれた男は「痛い、離して!」と叫んでいる。
(……!)
「朱天君!だめ!やめてお願い、ね?」
私は朱天君に向き直ると、そう言って抱きしめてから頭を撫でた。
かつて、朱天君が加賀魅先輩を落ち着けるためにやった行動だが……一か八か、実践してみる。
朱天君は男を掴んでいた手を徐々に緩めた。
そして男たちは、悲鳴を上げながら「化け物!」と言って逃げていった。
「朱天君があんな奴らの相手するの、勿体ない。朱天君はさ、勝負が好きで、色んなことができて……それで、いいじゃん。
私はちゃんと知ってるから、大丈夫。」
言うと、朱天君はやっと我に帰ったように「ごめん……俺……」と呟く。
「何で謝るの?悪いのはあいつらだし!……そうだ、朱天君!サッカー、またやりなよ。」
「え……」
「だって勿体ない!浩平だか轟鬼だか知らないけど、あんな奴らの為に朱天君が好きな物我慢する必要ないよ!今回は助けてもらっちゃったけど、また変なのが来たら今度は私が朱天君を守ってあげる!」
笑顔でそう言った瞬間、朱天君が私の体を引き寄せた。
「えっ!?ちょっと……!」
何がなんだか分からないまま混乱してると、朱天君の顔がこちらに近付ける。
その時、まだ赤いナイフのような瞳孔が鋭くなったのが気がした。
「まっ……まって、やだ!」
目を閉じると、唇に何かが触れる感触があって目を開ける。
……それは、朱天君の手のひらだった。
朱天君は肩で息をしながら「ごめん」と何度も呟いている。
(鬼の本能が暴走してる……?かつては鬼も、人を食べたと聞くし……)
……その後、まるで何事もなかったかのように朱天君は私を家まで送ると、「今日はごめん、本当に……」と頭を下げた。
「だ、だから気にしなくていいってば!朱天君も気をつけてね!」
なるべく明るく返したつもりが、朱天君は暗い顔をしながら
「俺たち、ちょっと距離置こっか。」
と朱天君が言い放つ。
私は笑顔のまま、何が起きたか分からず硬直してしまった。




