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ほっといて

「は?ミスターコン?何でそんなの出なきゃいけないわけ。」


後日、遥と私は朱天君にミスターコンに出て欲しいと頼み込む。

勿論反応は想像通り、あまり良いものではなかった。


「学校を盛り上げる為に決まってるじゃん〜!毎度お通夜になりがちな学校行事を変えたいという俺の切実なお願い聞いてくれない?」


「えー……面倒が勝つし、絶対友達から茶化されるもん、やだ。てか茂木さ、轟鬼の調査だけでも忙しいだろうに何で遥の手伝いまでしてんの。」


「えっ……えっと……」


(全ては朱天君を倒す為で、それが轟鬼解体にも繋がるなんてここで言えることじゃないし……!)


「人助けで徳を積んでるのよ……」


(我ながらカスみたいな言い訳をしてしまった。)


「……?そうなんだ。昨日はごめんな、勝手に帰ったりして。この後……」


「待った!俺を無視して話を進めないでよ。」


朱天君が何か言いかけた所で、遥が横槍を入れる。


「いや……無視したつもりないけど、ミスターコンの件は断ったし一区切り付いたろ。」


バツが悪そうに言う朱天君を遥は鋭い目で睨む。そして私に「桃ちゃん、耳塞いでて。」と促した。


「う、うん?」


言われるがまま耳を塞ぐと、遥は朱天君に何かを囁き始める。


「いいのかなぁ……このままだと桃ちゃん、加賀魅先輩とデートコースだよ?」


「!? な……何言ってんだよ遥!デ、デートって……だってこの前2人は付き合ってないって言ってたぞ。」


「『今は』ね?ミスターコンに加賀魅先輩出る予定なんだけど、景品の遊園地ペアチケットで桃ちゃんをデートに誘う予定なんだって!しかも、もうひとつの景品が桃ちゃんの推し声優サイン入りグッズ!

先輩への好感度、爆上がりだろうなー!ただでさえ加賀魅先輩はイケメンで告白も済ませてるし、付き合っちゃってもおかしくないよね……?」


(遥、何吹き込んでるんだろう。朱天君焦ってるみたいだけど……)


「俺も出る!」


遥の合図により、私は耳を塞いでいた手をどける。


「出てくれるってさ、良かったー!」


遥は爽やかな顔でそう言い放つが、朱天君の顔はどこかげんなりしていた。


(また悪魔の囁きで人の心を揺さぶったんだろうな……)


「それで茂木……」


「鬼丸も出るとなったら色々準備しないとだよ桃ちゃん!じゃ、またねー!」


遥はまた朱天君の言葉を遮るように言うと、私の手を引いて歩き出す。


「え……朱天君何か言おうとしてたのに……ちょっと!」


……


中庭に連れて来られた私は、

「ちょっと遥!朱天君何か言いかけてたのにあんな無理やり引き剥がさなくていいでしょ!」と声を荒らげる。


「どーせ轟鬼の件だろ?今そこを進められても不都合なんだよ、これ見て。」


遥は言いながらスマホの画面をこちらに向けた。

どうやら、ピンスタのDM画面のようだ。


(なになに……【轟鬼メンバーの吉田様、朱天鬼丸が大勢の前で敗北する姿をご覧に入れることができるやもしれません。興味があれば是非ご連絡を】……)


「って何これ悪質!遥、こんなの送ったわけ!?しかも敗北する姿って……!」


「落ちつけ。言ったろ、鬼丸を貶めるつもりは別にないの。いいか?大多数の思春期男子にとって、表舞台でビジュアルや人気を競っておいて負けるのは恥なんだ。」


「そ、そうなの……?」


「鬼丸が加賀魅先輩に負けて恥ずかしいかはさておき、『朱天鬼丸がイケメンにビジュアルでボコられる』という構図そのものは大きな餌になりうる。」


「でも、そんなんで本当に気が済むのかな?自分が負かしたわけでもないのに。」


「元々、轟鬼は遠回しに鬼丸を貶める気しかない正々堂々挑めない連中。要するに『鬼丸を倒すのは自分じゃなくてもいい』んだ。これを材料に轟鬼から抜けるよう唆す。

この取り引きが事実かどうかはこの学校の生徒であればすぐに判断可能だ。短絡的な奴ほど乗ってくる。」


遥が言うのと同時に、DMに【その話詳しく!】と返信が来る。


「これに『朱天鬼丸が出るミスターコンに加賀魅祐輔を出場させられる。轟鬼を抜けるなら実行してやる。』と返信すれば終わり。この学校にいて加賀魅先輩を知らない人間はいないから、きっと食いつく。」


「大人数に送ったことがバレたら?」


「ケア済みだ。『誰か1人でも断ったら実行できない』と注釈してる。今頃裏でどうするか話し合ってるだろうよ。」


「やば……遥、いつからそんな人の心を転がせる子になっちゃったの……?」


「9年間ボケっとしてたお前と違って、僕は努力してたの。」


遥はスマートフォンを操作しながらそう口にした。

それを聞いて、どこか申し訳なくなってくる。

遥は9年も私に認められる為に頑張ってきたというのに、遥の言う通り、私はそれに見合う女にはなれなかったのだ。


「……ごめんね。遥の努力が無駄にならないように運命の人探しも頑張るから!」


私が言い切るのと同時に、遥の手が止まる。


「……もういいよ。今日はお前のやることないし……帰れば?」


遥が突然俯きながら言うので、困惑してしまう。


「きゅ、急にどうしたの?轟鬼のメンバーに嫌なことでも言われた?」


昔から遥には泣きそうになると下を向く癖があった。

高校生になってまで泣かないまでも、大抵機嫌が悪い時の合図だ。


「遥、大丈夫?甘いもの買って来ようか。」


そう言って両手で遥の顔を持ち上げると、顔を真っ赤にしながら目を潤ませている。

そして「……ほっといて。」とだけ言うと中庭を後にしてしまった。


(ええ……私、なんかした……?だって遥が私に運命の人探しを頼んだんじゃない。遥みたいに人の心を読めないからわかんないよ。

どうするのが……正解だったのですか……)


追いかけようとも考えたが、これが遥の愛情確認なのか本気の拒絶なのか判断がつかない。


(昔の遥なら、『追いかけて』のサインだったんだろうけど……)


戸惑っていた時、ジャージのポケットに入れていたスマートフォンが微かに震えた。

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