朱天鬼丸被害者の会
「被害者の……会?」
私が言うと、遥は複雑そうな顔で
「そう。鬼丸の話聞いてて、思わなかった?『そんなの、浩平の嫉妬だけで終わるはずない』って。」
と口にする。
言われてみればそうだ、話の中だけでも、芸術や学問の分野にも彼は手を伸ばしていることがわかった。
「しかも、あの顔にあの性格だろ。女性関係に関わるいざこざや嫉妬にも巻き込まれたかもな?
友達が狙ってた女に惚れられちゃいましたー、とか……程度の低いことで。
だから基本、鬼丸は女にいい顔しないの。」
(あ……)
朱天君に夢魔のことを聞いた時のことを思い出す。
急に突き放されて変だとは思っていたが……
(……それでも困ってたら見捨てないとこまで、朱天君らしい。)
「わ……たし、どうしたらいいんだろう。これ以上朱天君を巻き込んだら、彼きっと辛いよね。」
指を突き合わせながら言うと、遥はじとりとこちらを睨み
「は?もしかして遠回しに手伝えって言ってる?」と怪訝そうにする。
「い、言ってないもんそんなこと!そもそも遥って退魔師協会に申請済みの魔者じゃないよね?手伝ったら立場悪くなるんじゃないの?」
「……別に。吸血鬼は元々孤高だから、お前に手を貸したごときで立場が危うくなったりしないの。お前がどうしてもと泣いて頼み込むなら、手伝ってやらんこともないけどね。」
……もしかして……
突撃現れて何のつもりなんだろうと思っていたが、この男「鬼丸が離脱したなら手伝ってやるよ」と言いに来たけど素直に伝えるのはプライドが許さないからこんな回りくどい言動を……?
「わ……かった。お願いします、手伝ってください……」
「遥様」
頭を下げると、遥はニヤニヤしながら促してくる。
「は、はるか様……」
「あと僕の可愛いとこを10個な!」
「顔、髪色、瞳の潤い加減、爪の形、八重歯、声、手が意外に大きいところ、高圧的なのにどこか憎めない態度、透き通る白い肌でございます……」
「手が大きいのは可愛くなーい。」
「……首のほくろが可愛いです。」
言い切ると同時に、遥は「仕方ないな、手伝ってやる。」と微笑んだ。
(くっ……!遥が天才的に可愛くなければ抗えるのに……!)
「で?これからどうするつもりだったの。轟鬼のメンバー捕まえて退治?」
「まさか!戦うなんて野暮なことはしない方がいいわ!遥を見習って、加賀魅先輩の時みたいに話し合いで解決しようと思うの!」
言うと、遥は再びこちらを睨んでくる。
「な……何?文句ある!?」
「相手は血気盛んな不良どもだぜ。そんな簡単にオハナシアイしてくれると思うか?」
「あっちに利があれば可能よ!例えば……そう!退治しないであげるから暴れるのをやめて退魔師協会に申請を出してね!とか。」
「既に申請を出してる魔者だったら?そもそも魔者じゃなかったらどうなるの。」
「えっ……何でも1つお願い聞いてあげるって言ってみるとか!」
「だーめ、絶対面倒なことになるっての。……はあ、お前ってさ、本当に思考がザコだな。」
呆れたように言われ、私は口を尖らせた。
(何よ、ちょっと自分は頭が回るからって……)
「どうしても無血で解決したいんなら、もっと相手をしっかり調べて食いつきそうな条件を提示しないと、相手にされないぞ。」
「もっと……しっかり……か。」
(浩平さんは、この前朱天君ではなく私に接触してきた。きっと朱天君を釣る餌って認識されてるんだ。もし私がわざと囮になって浩平さんに取り入れたら……!)
「ここでザコのお前は『私が囮になって浩平さんに近寄れば何か分かるかもぉ』と考えるだろう。」
遥は無駄に得意げな顔をして私の思考を当ててくる。
「なんで分かったの!?」
「……当てずっぽうだよ、そうじゃなきゃいいなと思って。やっぱりマヌケだな。
『茨木浩平』はテストで学年2位常連の秀才だぞ、逆にお前が騙される未来しか見えない。
……っていうか、その辺転校生の僕よりお前の方が詳しいんじゃないの?」
「ごめん……あんまり興味なくて……」
「そーかよ。ま、1番いいのはこれだな。」
遥は言いながら、こちらにスマートフォンを見せつけた。
「……遥、ネイル変えた?ミラーネイル似合うね。」
「ありがとう!……ってそんなことはいいんだよ。ネットで情報を集めるのが最善だ。轟鬼のメンバーには何かを極めた有名人が多い、何か交渉材料が見つかるかも。」
「なるほど!流石遥……!」
私はその後公園に場所を移し、スマートフォンで名簿の隅から隅まで検索にかける。
大体出てくるのはアートコンクール準優勝であったり、テニスの魔者ジュニア部門で準優勝であったりの記録。
そしてそこに必ず「朱天鬼丸 優勝」の記載があった。
「よし、僕の分は大体調べ終わった!やっぱり、鬼丸が負かしてきたのが大きそうだな。」
「……目的はなんだろう?轟鬼の名前で暴れて朱天君を貶めようとしてるとか?」
「恐らくは半分そうで、半分違う。そもそも轟鬼が鬼丸の作ったグループなんて前提は世間に知れ渡ってないだろ。轟鬼に入った奴らの目的は鬼丸にリベンジしたい人間と……『同一視』したい人間が混在してる。」
「『同一視』?」
「お前も経験ない?好きな女優の髪型を真似たり、アイドルの着ていた服を真似たり。」
「ない。」
即答すると、遥は舌打ちしてから
「イケメン☆鉛筆コレクションの黒えんぴつが胡麻プリン好きだよな?それを理由に買ったことは?」と問いかける。
「ある!」
「これは模倣って言って、若い人間がやりやすい行動なんだ。……で、病的になるとこうなる。」
遥は私に携帯の画面を見せてきた。
そこには、金色の短髪に日焼けた肌、鬼モチーフのアクセサリーを身に着けた知らない男性の姿が映っている。
その姿は形だけではあるものの、朱天君に似ていた。
(そういえば……浩平さんもこんな感じだったっけ。)
「これは名簿に載ってた生徒のピンスタね。……こいつは元々ゲームのジュニア大会で何度も鬼丸と戦い大した結果も出せず敗北してる。
そして脳を焼かれ、自分も鬼丸になろうとしちゃってるわけ。」
「嫌いなら真似しないもんね……」
「そう。多分こいつの目的は鬼丸の作った組織に入って同一視したいから……つまり、轟鬼は一枚岩じゃない。『朱天鬼丸被害者の会』でもあり『鬼丸大好きファンクラブ』でもある、と。」
「先に切り崩せそうなのはファンクラブだよね。朱天君に敵対心がないんだから話せば分かってくれそう。」
言うと、遥は静かに首を振る。
「逆だ。そもそも『鬼丸君大好きファンクラブ』なのに人様に迷惑かけて暴れる理由って何。どんな心理があるにせよ、思考バグりすぎだから。
まだ鬼丸への当てつけで暴れてる奴らの方が話が通じるだろうよ、思考が単純だもの。」
(い、言われてみれば……どうして朱天君が好きなのに不良として暴れる必要が?朱天君本人は絶対そんなこと望まなさそうだし。)
「なら、先に朱天君被害者の会から片付けよう!どうやって話し合う?肩叩き券の配布とか……」
「却下!お前なぁ、それで喜ぶのはやましい気持ちのある奴だけだっての。
おおよそこいつらは鬼丸に泡を吹かせられでもしたら満足するだろうな。」
「で、でも朱天君を傷つけたり貶めたりするのは……!」
「当たり前だ、僕はお前なんかより鬼丸と仲良しだから勿論そんなことはしない……正々堂々、大勢の前で『朱天鬼丸に勝てばいい』。」
遥は不敵に笑いながら、そう言い放った。




