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鬼丸のトラウマ

浩平は、俺を遊びに誘って……俺がシュートを決めた時「凄い!運動神経いいんだね、プロの選手みたいだった!」と褒めてくれた。


俺はその時初めて、「力が強すぎる」ことを「長所」として認められた気がしたんだ。


その後聞いた話だけど、浩平は凄いやつだったらしい。

俺と同じ鬼なのに人間たちと沢山遊んで、スポーツでも常に1番、勉強も常に100点の超人だった。


特にサッカーは小学生の時点で将来有望と言われていて、魔者枠ではあるものの、プロも夢ではないと言われていたらしい。


そんな中作ったのが「轟鬼」。

小学生でも大人に勝てると張り切り、大会に顔を出しては優勝して、あの時は凄く楽しかったな……


その後も浩平との遊びを通して、俺は色んな努力をした。

スポーツから始まり、勉強、芸術、ゲーム……

どれも上達している間は「強すぎる自分」を肯定することができて、どんどんのめり込んだ。


そして高校生になった俺たちは、サッカー部に入って……「将来魔者を集めて全国大会に出よう」なんて大きな夢まで掲げてた。


――その時からだ、異変が起きたのは。


「鬼丸のスパイク、またダメにされたんだって?」


俺がスタメンに抜擢された時、スパイクをボロボロにされたりユニフォームを泥に漬けられたり、そんな嫌がらせが続いた。


「酷いね、こんな嫉妬なんかして……俺は味方だよ、大丈夫。」


浩平はずっと味方してくれて寄り添ってくれた。俺も安心してたけど、直ぐにそれが甘かったと思い知らされる。


いつも通り部活に顔を出すと、浩平が別の部員に取り押さえられていた。


「おい、何してんだよ!」


「……鬼丸!急にこいつが俺に掴み掛ってきて……!」


駆け寄る俺に、浩平が必死に訴える。


「急にじゃないだろ!どうして鬼丸のユニフォームズタズタにしてんだよ!」


その言葉を聞いて、一瞬音が消えた。


あんなに俺を励ましてくれた浩平が、俺を支えてくれた男が……そんなことをするはずがない。

そう思っていると、浩平が「違う、たまたま切り刻まれたユニフォームを拾ったんだ!」と弁明する。


(ああ、そうだよな!そんなわけ――)


すると浩平を取り押さえていた部員が「先輩、こいつのポケットになにか入ってます!取り出してください!」と言う。


先輩が取り出したのは……黄色いカッターナイフだった。


★ ★ ★ ★


―――

――



「てなわけで、俺はその後それをなーなーに処理したの。……怖かったんだ、どうして浩平がそんなことしたのか知りたくなくて。」


私は開いた口が塞がらず、どう言葉を掛けてよいものか、分からない。


「浩平はさ、多分自分の領域に踏み込まれるのが嫌だったんじゃないかな。得意なことがあっという間に誰かに抜かれたりしたら……誰でも、嫌だろ。」


顔は笑っているものの、朱天君の瞳は震えている。

かつて自分を救ってくれた存在からの裏切り。

私には何かを極めた経験なんてないから分からないけど、遥に突然裏切られることを想像するとそれだけで辛い。


「サッカー……やめ、たの?」


「まあな!浩平があんなヘラってんのに続けるのも変でしょ。俺には他に趣味もあるし?」


――朱天君は、ただ努力してきたたけなのに。


才能がありすぎて、体が強すぎて、怖がるより認めて欲しかった、ただそれだけの気持ちを……


踏みにじられた挙句、大事なものを奪われて、「趣味だったから」なんて言わされてしまう。


あの、強くてしっかりした朱天君の傷が痛々しくて……何故か、心に何かが込み上げてきた。


「ひどい……!」


「うわ!?え、な、なんで泣いてんの!?」


朱天君は焦りながら私にハンカチを差し出す。


「だ、大丈夫……!自分の、ある、し……!だって酷い。朱天君が強いからって、我慢させて……!朱天君は私みたいに泣かないし、子供みたいに怒らない、からって……!」


拭っても出てくる涙を、朱天君がハンカチで拭う。


「だからってお前が泣くことないじゃん。変な奴……」


そう言ってから朱天君はスプーンをプリンですくうと私の口に運ぶ。


(甘い……美味しい。)


「推し語り聞いてた時から思ってたけど、茂木って共感しすぎちゃうとこあると思うよ、いちいちそんなんで心痛めてどうすんの?俺が嘘ついてるかもしれないのにさ。」


私にプリンを食べさせながら、優しく微笑む朱天君。


(そうだ……分かった。朱天君って黒い色鉛筆様に似てるんだ。)


「朱天君は嘘つかないよ、そういう人……でしょ?」


プリンの甘さに心を落ち着けた私がそう言うと、朱天君は顔を逸らしながら

「昨日の警告、全然効いてない。」と呟いた。


……その後も、私と朱天君は調査を続ける。


陽太さんの証言を参考に、最近部活に顔を出していなかったり休みがちな生徒を洗うと、学年は違うものの高確率で朱天君の知る人物に当たった。


そこで分かったのが、「轟鬼」は鬼だけで構成されてるわけではないこと。

そして意外にも、単純な「不良集団」じゃないことが分かる。


言わば「堕ちた秀才」と言うべきか、元ピアノコンクール準優勝者とか、中学の時に空手のジュニア大会で好成績を納めた人とか。


そんな凄い人たちで構成された……元エリートの集まりのようだった。


「変なの。こんなやさぐれる必要のない人たちがどうして暴れてるんだろう?」


中庭にて、資料を見ながら疑問を口にする。すると、朱天君は俯きながら

「……ごめん……全部、俺のせいかも。」と呟いてから「今日は帰る」と言って走り去る。


「え!?ちょっと!」


追いかけようとしたが、すぐに距離を離されてしまった。


ゼェゼェと肩を揺らしていた時

「情けなーい。こんな廊下で何へばってんの?お前。」

と声がする。


声の方を見ると、そこには余裕な笑みを浮かべた遥が立っていた。


「何……よ……!どうせ何があったかくらい……!察してるんでしょ……!」


胸を抑えながら悪態を突くと、遥は

「まあね?お前が鬼丸と轟鬼だかなんだか、ド痛い名前の組織調べてるのも、この前先輩にお姫様抱っこされて鼻の下伸ばしてたのも知ってるよ。」

と言いながら歩いてくる。


「なっ……!の、伸ばしてないもん!ちょっと『かっこいいな』って思っただけで……!お姫様抱っこは女子の憧れなのよ!」


私の反論を無視して遥はケラケラ笑う。

そして

「知りたいか?鬼丸がどうして急に青い顔して走り去ったのか。」と言う。


「うん……知り、たい。」


言うと、遥は少し目を伏せ

「轟鬼は……言わば『朱天鬼丸被害者の会』なんだよ。」と口にした。

制作状況によって2回更新の日がたまに出るかもしれないです。

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