危なっかしい女
「浩平……さん?」
息を飲みながら言うと、浩平さんは笑顔で「そーだよ。また会えたね!」と言いながら近付いてくる。
(やば……!そうだ、朱天君に連絡しよう!【浩平さんに遭遇、鹿島歩道橋まで来て】……と。)
「あれー、俺といるのに携帯いじんないでよ、傷つくな。」
「な……なんなんですかあなた!急に声掛けてきて……!」
身構えながら言うも、浩平さんは落ち着いた様子で
「君って鬼丸とはどういう関係?彼女?友達?なんか関わりないにしては、鬼丸の顔がにやけてた気がする。」
と口にする。
「朱天君とは同じ部活の仲間!どう考えたってあのキラキラ陽キャと私が恋人なわけないでしょ!」
「そうかなー?『桃ちゃん』結構可愛いよ!割と隙がありそうなとこが、特に。」
浩平さんはこちらに早足で近付くと、ずいっと顔を近付けてきた。
「私は退魔師よ、隙なんかないの!」
「……俺、鬼丸に昔何があったか知ってるよ?当事者だもん。教えてあげるからさ、これからどっか寄らない?」
気味の悪い笑みを向けられ、足が震えてしまう。
確かに朱天君の過去は気になるが、この男を信用してはいけない、そんな気がした。
浩平さんが恐怖で動けない私の腕を掴み
「ここ、俺の家から近いんだー!良かったらお茶しようよ。」
と言って歩きだす。
(何こいつ、距離感おかしい……!誰か、助けて……!)
目をぎゅっと瞑った時、「おい、離せよ。」と声がして……見ると、道の先に息を切らした朱天君が立っていた。
(さっきメッセージ送ったのに……!もう来てくれたんだ!)
「鬼丸!やっぱりこの子ただの知り合いとかじゃないんだ!離してやるから俺と仲直りしよ!ね?」
私の腕を握る手に力を込め、浩平さんが言う。
「うるせえな……そもそも喧嘩したつもりもねえよ、お前が勝手にバンバン問題起こして縁が切れたんだろうが!離せ、そいつに触んな。」
朱天君は言いながら浩平さんの手を無理やり剥がすと、私を連れて早足で歩き出す。
朱天君は明らかに不機嫌なのに、浩平さんは「やった!後でメッセージするね!」と能天気なことを言っていた。
……
「次から、ちゃんと家まで送る。ごめんな。」
朱天君は私を家に送り届けてからそう言って帰ろうとする。
私は咄嗟に朱天君の腕を掴み、「あの……!良かったら教えてよ、朱天君とあの人の間で何があったとか。私の部屋なら聞かれないし!」と言い放った。
「部屋……って……あのさ、だめに決まってんじゃん。今日は帰るから、また明日。」
「えっ……わ、私の部屋汚くないよ!?お父さんもお母さんも今日遅くなるって言ってたから聞かれる心配もない……わっ」
朱天君は突然近付くと、玄関のドアに私を追い詰める。
「そうじゃなくて……家の中でこういうことされたら、誰も止めてくれなくない?」
耳元で囁かれ、私は真っ赤な顔で震えたまま硬直するしかできなくなってしまった。
「……ちょっと警戒してくれた?」
「は、はい……!」
「よし、じゃあ明日こそは気をつけろよ。」
朱天君は私から離れてから、そう言い残してその場を後にした。
(心臓が……うるさい……!)
――翌日、私は朱天君と喫茶店で落ち合う。
浩平さんのことを聞くだけなのに、昨日のこともあってかなり緊張する。
「お待たせ。ごめんな、ちょっと遅くなって……甘いの好き?プリン頼んでみた。」
暫く待っていると、朱天君が向かいの席に座りながらプリンを差し出してきた。
「ありがとう……甘いものは好きである。」
(あ、やばい変な口調になっちゃった!)
朱天君は少しだけ笑ってから「浩平の話、あんまり楽しい内容じゃないんだけど平気?」と尋ねてくる。
「うん、嫌じゃなければ教えて。」
言うと、朱天君はゆっくり口を開いてから
「浩平はね、俺に初めてサッカーを教えてくれた人なの。」
と口にした。
「サッカー……」
意外にもプラスな言葉から話が始まったので、私は呆然とオウム返しをしてしまう。
「俺、鬼にしてもちょっと体の強い個体でさ。……子供の頃は制御が難しかったんだ。
大人も子供も俺のことが怖くて、距離を置いてた。」
鬼は元々、かなり力の強い状態で産まれてくると聞く。
子供であっても怒らせれば大人でも簡単には抑制できないという点では、仕方のないことなのかもしれない。
「そんな時、浩平が俺を誘ってくれたんだよ、『一緒にサッカーしない?ルールが分からないなら教えてあげる』って。」
そう語る朱天君の瞳は優しくて、浩平さんへの思いが負の感情だけでないことを物語っていた。




