壊れる線引き
後日、私は学校の裏庭で朱天君と待ち合わせしていた。
これから浩平さんの調査が始まる……!次こそは遥の力も借りず、しっかり結果を出さなければ!
意気込みも十分にベンチで鬼について調べていると、加賀魅先輩が暴走した時に助けてくれたあの青年がこちらに歩いてきた。
「あっ……!」
私が立ち上がると、青年はこちらに気付き引き返そうとする。
「待って!あの……!この前はありがとうございました!」
青年の腕を掴み早口に言う。
すると彼はゆっくり振り返り「それは良かった。離してくれない?これって逆ナン?」と悪態を突く。
大人しそうな雰囲気とは裏腹に、棘のある言葉を吐き出され私は思わず手を離した。
(なんか……ちょっと遥に似てる?線が細くて、刺々しくて……)
「僕に話しかけないで、あの時は困ってそうだったから助けただけ。……じゃあね。」
無愛想に言うと、茶髪の青年は早足でその場を去ろうとする。
(あ、なんか落ちてる……生徒手帳!私がさっき腕を掴んだ時落ちちゃったんだ。
『猿方……鳴海?』3年生か。)
私は走りながら「猿方先輩!」と呼ぶ。
すると、彼は信じられないものを見るような目でこちらを見て「茂木さん……僕のこと……!」と呟いた。
(あれ、名乗ったっけ?)
「生徒手帳、落としましたよ!」
生徒手帳を差し出した瞬間、猿方先輩は凄く落胆した様子で「ありがとう」と言い捨て走り去る。
(なんだろう?あの態度……変なの。)
不思議に思っていると、朱天君から【着いたよ、どこいる?】とメッセージが来た。
(やば!先に着きましたって連絡したのに……!)
私は小走りで中庭に引き返したのだった。
……
「ごめんね、落し物届けに走ったら離れちゃって……」
中庭に戻ると、私は朱天君に頭を下げる。
「いいよ、そんな待ってないし。それより浩平の調査でしょ?浩平のこと知ってる奴がいるから、ちょっと様子聞いてこようか。」
朱天君はどうやらその人物をゲームセンターに呼び付けたようで、彼の準備の良さに驚かされた。
(私、いらなかったかな……)
ゲームセンターに到着すると、これまたキラキラした空気を纏いしエネルギッシュな男性が手を振ってくれる。
「鬼丸こっち!……あ、彼女?こんにちは!」
「え!?いやいや!私はどう見ても違うでしょ!同じ部活ってだけです!」
私が頭をブンブン振りながら否定すると、男性は「流石に見ただけじゃ分かんないけど。鬼丸、超拒否られてる!あはは!」と明るく流してきた。
朱天君はバツが悪そうに「うるせえよ」と呟いたあと
「……陽太さ、浩平と同じサッカーチームだろ?浩平の様子、最近どう?」と男性に尋ねる。
陽太と呼ばれた男性は「大丈夫?まだ付き纏われてんの?」と真剣な顔で言い放った。
そこで、少し空気が変わる。
それまで朗らかに笑っていた陽太さんは、深刻そうに朱天君を見つめていた。
「いや、そういうわけじゃねんだけど……どうしてるか気になってさ。」
朱天君が言うと、陽太さんはため息をつきながら「最近来てないよー。飽きたんじゃね?『鬼丸からサッカー奪っといて』よくやるわ。……鬼丸さ、サッカー部戻りなよ!皆待ってるぜ。」と答える。
(サッカーを……奪う?)
「そっか、ありがと。」
朱天君はそれだけ言うと身を翻す。
「あ、ねえねえ君さ、鬼丸の彼女じゃないなら今度話さない?鬼丸が部活で楽しくやれてるか聞きたいな〜」
私も離れようとすると、陽太さんにそう声を掛けられる。
見た感じ、本当に朱天君を心配しているようだったし悪い人間ではなさそうだ。
「あ……じゃあ……」
「いいですよ」と答えようとすると、朱天君が引き返してきて「い、く、よ。」と言いながら軽く耳を引っ張ってくる。
それを見て、陽太さんは大笑いしたあと「またねー」と見送ってくれた。
「ちょっと!女子の耳を引っ張るなんて信じらんない!」
繁華街を歩きながら私が講義するも、朱天君は振り返らず無愛想に
「茂木ってガード脆いか固いか分かんないのな。男が二人で話そうって持ちかけてきたら大体下心があるの!
普段いやってくらい壁作るのに、突破されたら断れないの、危ないから。」
と切り捨てる。
「よ、陽太さんは朱天君を心配してそうだったし……!」
「心配半分、下心半分!男にとってそれはそれ、これはこれなの。」
「朱天君だってこの前二人で話す?って持ちかけてきたじゃない。下心あったんだ、あなたが、私に?」
「あったかも。」
朱天君はそれだけ言うと振り返ってこちらを見た。
思ってもみない返事が返ってきたせいで、私は何も言えなくなってしまう。
「この前遊んだ時から、茂木って可愛いし結構いい子なんだなって思ってた。……だから、話しかけてきてくれて嬉しかったし、もう少し仲良くなりたいとも……思ってるけど。」
顔は多少赤いものの、朱天君は堂々と言い放つ。
「は……いやだって、朱天君と私じゃ、色々違うし……!」
「だから、何が違うわけ。住む世界なら同じだろ、現に一緒に行動してるんだし。」
「わ、たし……オタクだよ?」
「俺も漫画とかアニメとか見るけど。」
もじもじする私に、朱天君がキッパリ言葉を浴びせる。
「どうせジャンピとかでしょ!わ、私はその……!鉛筆の擬人化アプリ『イケメン☆鉛筆コレクション!』とかにハマってて……!黒色鉛筆様推しなんだからっ!」
私が無駄に大きな声で言うと、歩行者はこちらを凝視してきた。朱天君も黙ったまま固まっている。
(やば……!引かれた……!)
「あ……あはははは!ごめ、ちょっとシュールだなそのコンテンツ……!今日はもう帰るだけでしょ?そのアプリ入れたいからどっか喫茶店寄ろうよ。」
朱天君はそう言って微笑んだ。
「え!?やるの!?朱天君が!?」
「俺だとやっちゃだめ?」
「そうじゃ……ないけど……」
(このアプリ、周りでやってる人いなくて丁度語れる人探してたんだよな……!)
「じゃあ……ちょっと……なら。」
にやけながら言うと、朱天君は目を細めて私の頭を撫でてから、また歩き出した。
(女児みたいな先輩に……メスガキみたいな幼なじみの相手をしてると、朱天君の妙な大人っぽさに困惑するな。お兄ちゃんって感じ……)
……
「黒色鉛筆様はね!……あ、ネタバレ大丈夫なタイプ!?」
「いいよ。」
「4Bに劣等感を向けられてるの、俺の方が黒いのにって!黒の色鉛筆と鉛筆じゃ役割が違うのに、執着されてて可哀想なんだ。」
「うわ……辛いなそれ。黒色鉛筆だって努力してるのに4Bに伝わってないのがまたしんどい。」
「そうなの!」
朱天君とアプリの話で盛り上がっていると、突然視線を感じた気がしてその方向を見る。
「……どうした?なんかあった?」
「あ……いや、今……誰かに見られてたような……」
朱天君は背も高いし顔もいいので、もしかしたらそれで誰かが見ていたのかもしれない。
そう思って納得しようとした時、陽太さんが言っていたことを思い出した。
「あの……さ。聞いていい?朱天君、その……浩平さんに付き纏われてたって、あれほんと?」
私がこわごわ尋ねると、朱天君は暗い顔で
「まあね」と呟く。
しかしそれ以上彼が何かを語ることはなかった。
朱天君と別れ喫茶店を出ると空はすっかり暗くなっていて、街灯が道を照らしている。
帰り道、朱天君の顔を思い出しながら、(私がもっと頼れる部長だったら、話してくれたのかな?)なんて考えていた時
「あ、いたいた!『茂木桃子』ちゃん!この前鬼丸と一緒にいた人だ!」
と声がして、振り返る。
そこには満面の笑みを浮かべた浩平さんが立っていた。
イケメン☆鉛筆コレクション!の略称はイケペンだと思います。




