キラキラ世界の住人
お父さんからミッションを受けたその日の放課後、私はこわごわと部室に向かう。
その途中で、目的の人物が廊下で男子たちと話しているのを見かけて足を止めた。
朱天鬼丸……!彼には「鬼」疑惑が浮上している。
スポッチョで見せたあの驚異的な身体能力は鬼のそれに近い。
(話を聞きたい……!のに……!)
「そんでさ、数学の田中がそっからズッコケてー」
「お前さ、先生付けろってば。」
(あいつの周りの空気、なんかキラキラしてる!あんな集団に近付いたことないよ、一旦引こうかな……)
考えていると、朱天君がこちらに気付いて手を振ってくる。
「茂木!やっほ!」
半身だけ隠れていた私を大声で呼ぶ朱天君。
そして、震える私の所に歩いてくると
「どした?俺に用事?それとも偶然通りかかった?」と尋ねた。
「え、何その子。もしかして……もしかする!?」
朱天君に吸い寄せられるように、話していたキラキラ男子たちがこちらに歩いてくる。
(うわ……寄るな!見るな!眩しい……!)
「しゅ、しゅてんくんに……おはなし……が……ありまして……」
震えた声で言うと、朱天君は「おっけ、2人の方がいい?」と聞いてくれる。
私はそれに黙って頷いた。
「俺、ちょっと部活行ってくるわ。」
朱天君が言うと、
「鬼丸まじー?その子と逃避行すんの?」
「可愛い彼女じゃん!羨ましー」
と男子たちが茶化す。
「俺たちそういうんじゃないから。」
朱天君がそう断ると、男子の1人が
「マジ?じゃー俺とも仲良くしよ!何組の子?」と詰め寄ってくる。
(軽い……チャラい……怖い……!)
「いや……あの……私……」
「緊張してる……?ピンスタ教えてよ!繋がろ!」
(わ、私のピンスタ、完全オタ活垢なんだけど……この地獄が終わるなら……やむなし……!)
私が携帯を取り出したのと同時に、朱天君がはっきりと「距離感気をつけろよ、茂木に失礼。」と言い切る。
(え……いま……庇って……)
朱天君は「行こう」と言って私の手を引く。
私は朱天君の言葉が嬉しかったのを悟られないよう、俯きながら付いていった。
……
空き教室に入ったことで、私はやっと息ができる。
朱天君はとにかく目立つ。2人で移動する間、何人のキラキラした男女に声をかけられたか分からない。
「大丈夫?怖かった?」
朱天君が尋ねるので、私は「ちょっとだけ」と短く返した。
「でもさ……はは、笑っちゃった。茂木って部活だと堂々としてんのに外だとチワワみたいに震えてんのな。」
私は途端に恥ずかしくなり、「悪かったわね、住む世界の違うど陰キャで。」と顔を伏せる。
移動の間、彼に話しかけてくる人たちの「なんでこんな子といるんだろう?」という視線が痛かった。
私を「地味じゃない」と認識してるのなんて朱天君だけ。
周りから見たら私はやはり、キラキラとした退魔部メンバーといるには浮いてしまう存在なのだ。
(気分沈んできた……用件だけ伝えてさっさと帰ろう。)
そう考えた時、朱天君がふいに
「そういうの、聞いてて楽しくない。」と口にする。
「……?」
伏せていた顔を上げると、朱天君が険しい顔でこちらを見ていた。
「住む世界違うとか線引きされるの嫌なんだけど、勝手に決めないでよ。笑ったのは茂木って結構可愛いとこあるんだなって思っただけ。俺といる時は自虐禁止な……分かった?」
朱天君の圧に負け、私は「ワカリマシタ……」と首を縦に振る。
(変な奴……)
「それで、話って何?」
ケロッと笑顔に戻り、朱天くんが尋ねてきた。
「あの……非常に言いにくいんだけど……朱天君ってさ……鬼……なの?」
何とか勇気を振り絞って尋ねると、朱天君は顔色1つ変えずに「そうだけど!」と即答した。
「へぁっ」
あまりに堂々としているものだから、耳を疑ってしまう。
「冷静に考えてさ、そうじゃなきゃヤバくね?普通の人間が100メートル7秒で走ったら怖いだろ。」
「や……!そ、そうだけど……!」
(何だ!?なぜこんなにあっさり認めたの……!?)
目の前に、魔者……しかも、探していた「鬼」がいる。
本人が堂々としているせいで、身構えていいかの判断もつかない。
「わ、わわ……私……退魔師だよ!?何堂々と認めてるのよ……!」
声を荒らげた途端、朱天君は少し怖い顔をして「俺を退治するつもり?」と呟く。
「そりゃ……それが退魔師の仕事だし……!」
そう答えると、朱天君はこちらに手を伸ばしてくる。
(やば……!加賀魅先輩もいないのに……!)
朱天君の手が伸びて、触れそうになると目を瞑ってしまう。
すると、私の鼻筋を朱天君がぴんとはじいた。
「あぅっ」
「なーんて!怖かったの?退魔師の癖に。」
からかうように言われ、顔がどんどん熱くなっていく。
(やっぱり……!こいつは敵!気を許しちゃいけない相手よ!)
私が震えながら睨むと、朱天君は「ごめんね、冗談。俺、退魔師協会にちゃんと申請出してる魔者なんだ。」と優しい声で言う。
「申請……?」
「そ。魔者って素性隠してる奴らだけじゃなくて、人間と共存する為に『私たちは魔者です』って申請を出してる人もいるわけ。
茂木が前言ってた夢魔とかは、申請が通らないことが多いらしいけど。」
(そんな……!そういえばかなり前にお母さんに教えてもらったような気もする……!)
「てか、とっくにバレてるんだと思ってた。ほら、退魔師って魔者の気配が分かるんだろ?」
「私……分かんないの、鈍すぎて……」
退魔師なのに魔者にそんな大事なことを教えてもらうことになるなんて……恥に耐えかね、体が震え出す。
「……まあ、そういうのもあるよな。でもほら、前のパニックは茂木が収めたんだろ?凄いじゃん。」
「いや……あれは……遥が……」
「そこは凄いでいいでしょ。話ってそれだけ?ならもう帰るけど。」
「あっ!まっ、待って!朱天君、『轟鬼』って知ってる!?」
帰ろうとした朱天君の服の裾を掴み、そう問いかける。
すると朱天君は振り返り
「知ってるよ、俺が作ったチームだもん。」とあっさり答えた。




