家庭訪問
放課後、ヤキモキしながら校門前で加賀魅先輩を待つ。
すると、時間より3分ほど遅れて加賀魅先輩がやってきた。
「ごめん、お待たせ。」
私は加賀魅惑先輩の顔を見てほっとする。
思ったよりも深刻そうな顔はしていないことを見るに、大した責任の追求はされなかったようだ。
「先輩、生徒指導の先生はなんて?」
「1ヶ月謹慎だって。」
「えっ」
あまりにも加賀魅先輩が嬉しそうに言うので、内容の重さに困惑してしまう。
「あとあと、推薦の取り消しでしょ、あと謹慎中奉仕活動しなさいってさ!」
(めっちゃくちゃ重い処分食らってる……!)
「じゃあ、進学は……?」
「一般入試ならいける!未来は明るいね!」
加賀魅先輩は笑っているが、全然楽観していい事態ではない。
以前遥から聞いた話だが、加賀魅先輩は本当に勉強が苦手らしく、吸収が悪いというよりは色々理由を付けてやりたがらないと聞く。
ただ風邪も病気もしないので、最近なんとかマイナーな大学の推薦枠に入れたらしい。
(このままじゃ……!進学は無理!)
「せ、先輩すみません!私が惚れさせてしまったばかりに!」
なんかこれも違うなと思いつつも、責任を感じずにはいられなかった。
しかし加賀魅先輩はヘラヘラ笑って
「暴走したのは俺だから謝らなくていいけど……俺の心を奪った責任として結婚してくれるなら、それでもいいよ〜!」
と返してくる。
(危機感が……!ない……!)
「私がこの人を何とかしなきゃ」と思いながら、先輩と自宅へ向かった。
……
母には、もう軽く事情を伝えてある。
「夢魔を退治した」とメッセージで伝えたら、母も父もかなり警戒していた。
――というのも、夢魔は割と厄介な種族らしい。
強い魔力を持ち、退魔師の使い魔として従うフリをして、逆に魅了しコントロールしてしまうこともあるんだとか。
(加賀魅先輩が意図的にそんなことをするとは思えないけど……)
そう思いながら玄関のドアを開く。
すると、怖い顔をした父が出迎え、後ろにいる加賀魅先輩を見て顔を歪めた。
「まずいな、イケメンすぎる……」
どこかズレた呟きをしつつ、父は「上がりなさい」と言ってくれる。
私は加賀魅先輩を心配に思いながらも廊下に上がった。
リビングでは深刻そうな顔の母がソファに座っていて、私と先輩に「座りなさい」と促す。
私と加賀魅先輩が向かい側のソファに腰掛けると、父も母の隣に座り、指を組んだ。
「……君が、桃子の使い魔になった夢魔かい?」
父が低い声で尋ねると、加賀魅先輩は笑顔で
「はい!初めまして、俺『加賀魅祐輔』って言います!」と答えた。
(ああ、この感じ……加賀魅先輩多分本気で結婚挨拶くらいに思ってるな。温度差凄いもん……!)
「そう、加賀魅君。あなた何のつもり?かなり強い魔力を感じるわ。その顔からしてかなり強力な個体よね?桃ちゃんが勝てるとは思えない。」
母が眉をひそめながら言う。
「どうして顔で強力とか分かるの……?」
「あー……桃子はどうやって夢魔が魔力を供給するか知ってるかい?」
私の問いに、父が気まずそうに質問を返す。
「えっと……魅力的って思われると魔力を補給できるって聞いてるけど。」
答えると、父は
「……そう、夢魔は魅力的であればあるほど強力になる。つまり、だ。それだけ顔もスタイルもいい夢魔は確実に強い……!
恐らくは、普通の討伐方法じゃダメージも通らない程ね。」
と解説してくれる。
言われてみれば、加賀魅先輩に純銀の十字架は効かなかった。
……こんな幼女みたいな情緒の男が……まさか、最強クラスの魔者なのか!?
「退治されたフリをして退魔師を誘惑し……魔力を搾り取るのは夢魔の常套手段なの。桃ちゃん、あなたきっと騙されてるわ!加賀魅君、どうせお得意の色仕掛けでこの子を誘惑したのでしょう?白状なさい!」
母がローテブルを叩く。
加賀魅先輩が怖くて震え上がってしまわないか心配で顔を覗き込んだが、彼はよく状況を理解してないのか、頭に?を浮かべたような呆けた顔をしている。
「確かに俺、強いらしいです。一族の中でも天才って言われました。……でも俺、夢魔として桃子さんを貶める気はないので……
ただ純粋な気持ちでお付き合いしたいだけです、『お母様!』」
加賀魅先輩が満面の笑みで爆弾を投下したせいで、母は石像のように硬直してしまった。
「あっちょっ……違う、交際するとか、そういう関係では別になくて……!彼は勘違いしてるの!」
慌てふためきながら誤解を解こうとするが、父は加賀魅先輩の発言を聞いてわなわなと震え「ふざけるな……!お付き合いだと……!?」と言いながら唇を噛む。
(まずい、一触即発の空気……!)
「娘をどうするつもりだ!言ってみろ!」
父が加賀魅先輩の胸ぐらを掴み言うと、彼は少し上を向き
「……どうする……?そうだな、まずは交換日記から始めて……」
と呟く。
「は?」
そこで、父の力が抜けたのが伝わってきた。
「そこから手とか……繋いじゃったり……?それでより親密になったら、ほっぺにチュー……!とか!?わー!恥ずかしい!」
恋バナをする女子のようなテンションで、おおよそ現代カップルとは思えない牛歩な恋愛展望を語る加賀魅先輩を見て、父までもが硬直してしまう。
(まあ……そういう反応になるよね……)
「あ、あのね?お父さんお母さん……この人、モテすぎて恋愛経験がないせいで……その……全く穢れた知識が無い人なのよ……」
気まずいながら意見すると、父は固まったままパッと手を離す。
「それでー、大学生になったらニックネームで呼びあったり?寝る前の通話で『好きだよ』とか言っちゃったりなんかして……!」
「もういいわ、黙りなさい。」
母は加賀魅先輩の人生プラン演説を強制終了させると
「……まあ、そうね……演技の可能性もあるけど、見た感じ嘘をついてるようにも見えない。それで、桃子はどうやってこの夢魔を退治したの?」
と尋ねてきた。
「加賀魅先輩が暴走しちゃって……その時はる……友達!が私の代わりに取引してくれたのよ。
退治させてくれたら私が定期的に魔力補給としてスキンシップさせてあげられるよって。」
「何それ、危険すぎる!そもそもどうしてその夢魔が桃子のスキンシップに釣られるのよ!」
「……えっ……と……」
母の追求に気まずくて答えられずにいると、加賀魅先輩があっさりと「桃子さんを愛してるからです!」と答える。
硬直していた父がそれを聞いて倒れ、母は真っ赤な顔で「信じられない……!桃ちゃんが、こんなイケメンに……!?」と呟いていた。
(想像はしてたけど……案の定地獄になったな……)




