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運命の人

――事件の後、加賀魅は生活指導担当の教師に呼び出され学校二階の空き教室に来ていた。


(めちゃくちゃやらかしたし、進学はもう無理かもなあ……)


内心そんなことを考えながら教室の扉を開けると、教師ではなく遥が机に座っている。


「あれ……遥?なんでここに……」


「契約、無事終わった?」


遥が机に頬杖を突きながら尋ねた。

すると加賀魅は左手を前にかざしながら「うん!さっきはありがとうね遥。見て見て!指輪はめてもらっちゃった!」と笑顔で言い放つ。


それを見せられた遥の顔は、呆れと何か別のマイナスな感情で歪んでいた。


「加賀魅先輩に聞きたいことがあったんだ。暴走中だったし記憶が曖昧だとは思うけど、魅了はほぼ全校生徒に効いてたんだよね?」


「生徒どころか教師にも効いてたと思うよ。俺、夢魔としてかなり魔力が強い方なんだ。普段はできるだけ抑えてるけど……それがどうかした?」


加賀魅の答えを聞いて、遥は考え込む。


(全校生徒や教師に効くような魅了……校門を通った時点から雑魚である桃ちゃんが加賀魅大好きゾンビを一人で回避できたとは思えない。誰か、別の人間の助けがあったんじゃ……)


「そういえばさ、加賀魅先輩前に言ってなかったっけ?桃ちゃんに彼氏がいるとかなんとか。」


「え?ああ……俺が退魔部に入る前に、男の子と楽しそうに話してるのを見かけたんだよね。ほら、茂木さんって結構特徴的な髪型してるでしょ?だから結構覚えてる。

……幸せそうな……カップル、だなって。」


加賀魅の曇った顔を見て、遥は妙に納得した。

女性と積極的に絡む気のない加賀魅がなぜ退魔部に入る前に桃子を見ていたのか。

恐らくは、相当親密そうにしていたカップルが羨ましくて眺めていたのだろう。


(何か変だ。もしかして――)


遥は加賀魅に「ありがとう」と告げ教室から出て行く。


加賀美は茫然と(何でそんなことが気になったんだろう?)と思いながら遥を見送った。


★ ★ ★ ★


「なんかさー、ここ2日くらいの記憶が殆どないんだよー……」


事件後の放課後、朱天君は部室でしょぼくれた顔で頭を押さえていた。


「あー……はは、何でだろうね?休んだ方がいいのかも……」


(朱天君加賀魅先輩とパニック前から一緒にいたし、最初に魅了を受けちゃったのかもな……)


笑顔で答えを濁しつつ、私は加賀魅先輩の身を案じていた。

暴走したとはいえ、彼が要因でパニックが起きたのだ。学校側に説明しないわけにはいかない。

下手したら退学処分……そうならないにしても、進学に差し支えるかもしれないと思うと少し心配だ。


今日はめずらしく遥も部活に参加していない。


(メッセージに既読も付かないし、いつお礼を言ったらいいんだろう。)


いつもの席に座りソワソワしていると、遥が部室のドアを開けて私を見下ろす。


「はる……!」


「ちょっと来て。」


遥の顔を見て顔を綻ばせる私とは対照的に、彼は少し冷たい表情で淡白に言い放つと私の手を引く。


「えっ……あの、ちょっと!」


――人気ひとけのない体育館裏まで来ると、遥は少し怖い顔をしながら

「……なあ、お前さ……今日体育館倉庫まで来たよな?どうしてそこで僕が寝てるって分かった?」

と尋ねてきた。


「え?それは……」


あの茶髪の青年の顔が頭を過る。


「親切な人が助けてくれて……教えてくれたの。体育館倉庫に遥が寝てるって……何よ急に、怖い顔しちゃって。」


恐る恐る答える。

遥はすこし難しそうな顔をした後で「……あのさ、加賀魅先輩から前に聞いたんだよ。お前、彼氏がいたんだって?」と言った。


「え!?いないいない!……そういえば確かに前そんなこと言われたけど……!」


全く記憶にもないことだ。彼氏どころか、仲の良かった男子も遥を除いたら0と言っても過言ではない。


「……ふうん、まあいいや。おい、お前僕にお礼が言いたいってさっきメッセージ送ったろ。誠意を込め、この世界一可愛い僕に頭を下げると良い。」


スマホを確認すると、私の送った【遥、直接お礼が言いたいんだけど】というメッセージに既読だけが付いていた。


少し怪訝に思ったものの、今回の件で遥にお世話になったのは事実だ。

私は無理に笑顔を作ると「遥、今日は助けてくれてありがとう!あなたがいなかったらどうすることもできなかった。」と口にした。


それを聞いた遥はにやりと笑い「それだけ?」と言う。


(それ……だけ?もしかして、言葉以外のものも寄越せと言いたいのか?)


「何を……したらいいですか。」


遥は黙り、何かを躊躇うかのように俯く。

そして「僕の運命の人を一緒に探してよ。もう退魔師を辞めるのは免れたんだし、暇だろ?」と呟いた。


(唐突にファンタジーじみたこと言い出したな。)


「運命の人って……どういうこと?」


こちらの質問に対し、遥は目線だけをこちらに向け

「本来ここに戻ってきたのは、この完璧で完全である僕の価値に見合う女性を迎えに来たからだったの。

……なのにお前ときたら、ずっとジャージ着てるし、爪はカサカサ、雑魚で、弱くて?情けない女だったろ。」

と残酷な言葉を向けてくる。


「な……あ、あんたが勝手に私に理想を抱いたんでしょうが……!」


震える声でなんとか言い返すと、遥はまた視線を落とし「それにお前が言ったんだろ?『遥に私は勿体ない』って……」と呟く。


(え?ああ……そっか、確かに言ったな。遥が告白して来た時に……)


実際、遥の本性を知った後でもそれは感じている。

今回の事件で痛感したが、遥は強いし賢い。

そしてやっぱりとっても顔がいいのだ。


どんなに雑魚と罵られても許したくなるくらい遥は可愛い。

私とは誰がどう見たって釣り合わない男性だ。

遥が幻滅してしまうのも無理のないことだろう。


(元はと言えば、私が遥から逃げたことが原因だし……)


私は笑顔を作り「分かった、いいよ!遥の運命の人、探してあげる。」と答える。


それを聞いて遥はどこか安心したような、でもあまり嬉しくはなさそうな……そんな暗い顔で顔を逸らした。


「どんな人がいいの?言ってごらん。」


尋ねると、遥は上を向いてから

「顔は僕より可愛いのが最低条件!背が高くてー、足が長くてー、頭が鬼丸よりいいの!で、可愛い僕を守ってくれる強さも兼ね備えてて欲しい!」と笑顔で無理のある条件を並べる。


(いないでしょ、そんな女……!)


そして、少しだけ小さな声で

「それから、面倒見が良くて、僕がわがまま言っても……嫌いにならなくて……僕が可愛くて仕方ないって、そう……思ってくれる人。」

と続けた。


(前半はともかく、後半なら全然いそうね。そこに顔もスタイルもとなると、女版朱天鬼丸といったところか……)


「了解!探してみるね。」


私が笑顔で言うと、遥は黙って体育館裏を離れた。

いつもの彼なら、こんな大きな無茶を聞いてくれたことに喜ぶはずだ。

でもその時の遥は少し寂しそうにしていた気がして……私は、心に溜まった正体不明の違和感を気持ち悪く思っていた。

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