フラッシュバック
「遥、おはよー!これ、『うさこうもり』のマスコット!好きだったよね?」
告発の紙を見つけた後日――私は部室に入るなり、愛想たっぷりな笑みで遥に最近流行りの「うさこうもり」というキャラのマスコットを手渡す。
「えっ?いいのー!?ありがとう!」
魔者を探すと決意したはいいものの、私はあまり遥のことを疑っていない。
何故なら、他の2人があまりにも怪しすぎるからだ。
しかし、接点のない彼らと急にコミュニケーションを取るのはハードルが高い。
故に、まずは遥に取り入って2人の情報を集めることにしたのである。
(それにしても……遥、本当にかっこよくなったなぁ。)
わがままで人見知り、我慢するのが大嫌いだった遥は、男の子に使う言葉として適切では無いが「わがまま姫」という形容が良く似合う子だった。
しかし、再会した後の遥にその面影はない。
「あ……桃ちゃん、動かないで。」
ふいに、遥がそう言って私の頭に手を伸ばす。
身を強ばらせながら固まっていると、遥の白くて細い指が髪に触れた。
「桜の花びら付いてた!あはは、少女漫画
みたいなやりとりじゃない?今の!」
……むしろ王子様のように優しくなってしまった遥の姿に、少し戸惑う。
「あ、ありがと……はは……」
私は照れ笑いした後で、恥ずかしさを誤魔化すように「そういえば」と切り出す。
「遥が連れてきてくれた2人……まだ、あんまり話したことなくてさ。
そろそろちょっとコミュニケーション取ってみようかと思ってるんだ!
どんな話題振ったら喜びそう?」
尋ねると、遥は真顔で
「なんで?」
と質問を返してくる。
「な……なん……で……?」
「あ、ごめん!間違えた!えっとね、まず加賀魅先輩は……」
遥が言いかけた所で、部室の扉が開く。
「なーにー?俺の話してる?」
加賀魅先輩は言いながらふらふらとこちらに歩み寄ってきた。
「あ!加賀魅先輩丁度いいところに!今桃ちゃんが皆と仲良くなるにはどうしたらいいかって相談に乗ってたんだよ!」
「へー……」
加賀魅先輩はまじまじと私の顔を見る。
その色っぽいたれ目と長いまつ毛が真っ直ぐこちらに向いた為か、少し顔が熱くなった。
加賀魅佑輔、彼はとにかくモテる。
そのモテぶりは「加賀魅先輩に触れられると惚れてしまう」というとんでもない都市伝説まで存在するほどだ。
こじつけかもしれないが、少しそのモテ具合は常軌を逸している。
もしかしたら凄くモテる能力を持った魔者なのかもしれない。
警戒しながら加賀魅先輩の顔を見つめていると、彼は眉を下げながら
「……もしかして、俺のこと好きになっちゃった?」
と口にする。
「……はっ……」
「だってほら、今まで俺と関わろうとしたことなんてなかったじゃん。なのに急に距離詰めようとしてるからさ。」
あまりに傲慢なアンサーに、私は赤面しながら「違いますよ!部員のことを知ろうと思っただけですっ!」と声を上げた。
「なーんだ、良かった。茂木さん、絶対俺のこと好きにならないでね。」
加賀魅先輩はそう言って部室の奥まで歩いて行くと机に筆記用具を並べる。
(何、あの大量の蛍光ペン……)
「あー……加賀魅先輩、受験生だからよく部室で勉強してるんだよ!騒がしいと集中できるんだって!
それと鬼丸は……」
遥が困ったような顔で補足すると、また言い切る前に扉が開いて長身の男子が顔を見せる。
「うっす、俺の名前が聞こえた気がする。」
「あ、ナイスタイミング!そうなんだ、桃ちゃんが鬼丸と仲良くなりたいんだって!」
遥が言うと、朱天君は私の事を見下ろしながら「そうなの?」と問いかける。
「あ……えと……」
朱天鬼丸もまた、加賀魅先輩に負けず劣らず都市伝説が多い。
あらゆる分野で優秀な彼だが、特に身体能力が非常に高く、「100メートルを7秒で走りきる」というとんでもない噂が囁かれている。
もしそれが本当ならば、魔者と見て間違いない。
「そ、そうです……」
「へー、なんか企んでんじゃないの?」
朱天君は意地悪な笑みを浮かべると、そう言ってこちらに少し顔を近づける。
(何でわかるのよ〜〜!)
私は顔を逸らしながら、「はは……まさか!何を企むって言うの?」とはぐらかした。
「だってほら、昨日まであんた俺たちに興味0って感じだったのに急に好意的になるとか怪しいじゃん。警戒しよー」
朱天君はヘラヘラと笑いながら加賀魅先輩の向かい側に座った。
「鬼丸はゲームするのが好きだから、誘ってみるといいかも!」
爽やかな笑みで補足する遥に、私は引き攣った笑みでお礼を言う。
(遥ならともかく、あの2人と仲良くなるのは難しそうね。
癖が強そうだし、朱天君に至っては何故かファイティングポーズだし……)
呆れながら奥の2人を眺めていると、遥が耳元で
「俺と仲良くなる方法も知りたい?」
と尋ねてくる。
「はぇ」
突然のことに私の体は跳ね、心臓はうるさいくらいに鳴っていた。
「ごめんごめん!……部員と仲良くなりたいなら、俺もその中に入るのかなーって!」
無邪気に笑う遥を見て、私は少し戸惑うと「まあね」と無愛想に返す。
遥は私と再会してからずっと好意的だ。
しかし、私はその好意に上手く答えられずつい素っ気なくしてしまう。
どうしても遥といると、「あの日」の記憶が蘇ってくるのだ。
「ねえ、良かったら今日一緒に帰らない?」
私は首を縦に振る。
――再会できて嬉しいのは、遥だけじゃない。
私も、内心遥と再び会えたことに喜びを感じていた。
(遥は……私のこと、もう怒ってないのかな?)
そんなことを思いながら、促されるままに遥の隣に座る。
遥の顔見る度頭の中に滲む、あの日の記憶。
あれは、8歳の夏の出来事だった。
★ ★ ★ ★
「桃ちゃん、もう帰ろうよ。」
河川敷で弱々しく遥が口にする。
セミがけたたましく鳴いていて、日は少し落ちてきていた。
「だめ!まだ魚捕まえるんだもん!」
その日、私は川にいる小さな魚を捕るのに夢中で、遥の弱音を「いつものわがままだ」と軽く考えてしまっていた。
魚も十分集まった頃、やけに遥が静かになったことに気付いて振り返る。
すると、
「ドサ」
という鈍い音と共に遥が倒れ込むのが見えたのだった。




