第4話 小さなダンジョンの隠し部屋
地上の入口から覗いたダンジョンの中は薄暗くて……ううん……薄暗いっていうよりも、本当に闇色で、恐かった。
でも、ボスを止めないと……そう思って、ゆっくり階段を降りていく。
一段一段降りていくたびに、視界が暗くなるけど、最後の一段を降りた時は、ダンジョンの中は意外と明るかった。
なんでこんなに明るいんだろう……蝋燭や、ランタンもないのに……。
「ボス、戻るよ」
ボスにそう言うと、ボスはフンフンと何か匂いを嗅いで、前進する。
「ジャック!」
階段の上からウィル兄さんの声がした。
「ウィル兄さん!」
「よし、動くなよ。ボスはそんなに深くは入らないはずだから!」
ウィル兄さんの言うように、僕は立ち止まった。
洞窟みたいなのかなって思ったけど、なんか違っていて、いうなれば何かの遺跡みたいな、石畳の廊下が広がっていた。
ウィル兄さんだけじゃなくて、マリアお姉さんも一緒にダンジョンの中に入ってきた。
マリアお姉さんが僕を見つけると抱き上げる。
「抱っこしなくてもいいの!」
前世の成人の記憶が――最近薄れてるけど、残っているから、恥ずかしいんだってば。
「ジャック、大丈夫? 気持ち悪くない? 小さいダンジョンとはいえ、ダンジョンだから魔素が濃いのよ」
単純に心配してくれたのか……。
「だいじょーぶだよ。だからおろして」
「マリア、大丈夫だ。いざとなったら俺が抱える」
「うん」
「せっかくユジン兄さんが柵をつくってくれたのに、ボスはくぐって、入っちゃったんだ」
僕がそう言うと、ウィル兄さんは僕の頭を撫でる。
三人でボスの後を追いかけていくと、ボスはある廊下の前で前足をタシタシと叩いている。
「……隠し部屋ができてる」
ウィル兄さんがそう言って、ボスが前足で軽く叩いてる壁に触れるとうっすらとした光が扉を形どって、自動ドアみたいに開いた。
「こんなスムーズに開く隠し部屋の扉なんて、初めて見るわ」
「最初に潜ったときにはなかった……って、おいボス!」
ボスはタタッと部屋に入る。
部屋の中央には噴水があってボスはその水を飲み始めた。
「……マリア鑑定できるか?」
「水としかでてこないけど」
「なんでそんなに美味そうに飲むか……」
ボスが飲んでる水を僕は手で救って、匂いを嗅いでみる。
うん、別に普通の水みたい。
綺麗な無色透明。
僕は手で掬った水を飲んでみる。
「こら! ジャック!」
「ふつうに、おいしいおみずだよ」
僕がそう言うと、マリアお姉さんがウエストポーチから瓶を取り出して、水を汲んだ。
「ボス、戻ったらこの水を上げるから、帰りましょ?」
マリアお姉さんがボスにそういうと、ボスは尻尾を嬉しそうに振った。
犬の嗅覚すごいっていうけど、ダンジョンの隠し部屋の水とかわかるもんなのかな……。
僕は噴水のまわりをぐるりと回ると、縁のところにへんなでっぱりができてて、ちょっと触れるとなんか文字が浮き出てきた。
――彷徨いし孤独なる魂を持つ者よ、時空の神から愛と幸を知る祝福を授けよう――
何これ……こういうの、フレーバーテキストっていうやつじゃない?
文字が浮き上がり、文字は光の円になって、この小部屋の中を照らす。
「ジャック!」
ウィル兄さんもマリアお姉さんもびっくりして、ウィル兄さんなんか慌てて僕を抱き上げる。
その光が、何かを形どって、僕の手の中に納まった。
「……なにこれ……」
「え?」
形は宝箱なんだけど……。
「ウィル兄さん……あの、ここに文字が光ってたの、見えた?」
「文字が光ってたのは見えたが、文章までは光がまぶしくて見えなかったぞ」
「ダンジョンの宝箱って、こういう大きさなの?」
「こんなサイズの宝箱は見たことない」
「これ、僕が持ってちゃダメ?」
僕がそういうと、ウィル兄さんとマリアお姉さんは顔を見合わせる。
「箱ごとダンジョンの外に出したっていう話は聞かないわ……」
「そうだな、何が起きるかわからねえし……」
そうなんだ。
僕はえいっと、箱を開けると、ウィル兄さんもマリアお姉さんも箱の中を覗き込む。
「何これ……」
「何かの部品か? 小さいな……」
ウィル兄さんとマリアお姉さんは首を傾げる。
でも、こういうのは僕は前世で見たことある。
これは集めるやつだ。
このサイズ感――前世で見たことがある。
前世では、買ってもらえなかったものだ。
これは――……。
食玩。
子供用のお菓子のおまけ。
「……謎の部品……」
「ゴミかな?」
マリアお姉さんとウィル兄さんが宝箱から出てきた部品を見てそう言った。
「ゴミじゃない」
僕は宝箱からでてきたそれをぎゅっと片手の中に包む。
まるで食玩のおまけ~おもちゃの部品。
もしくはプラモデル?
人型のロボだよ。
これはなんだか足の甲の部分のパーツ……みたい。
ただし、この素材はプラスチックとは違う。
金属だ。
鉄?
鉛?
銅?
「これ、なんの金属?」
「あら、ジャック、難しい言葉を知ってるのね……そう言われると……あれ、これミスリル?」
マリアお姉さんは僕の手にある小さな部品を見つめて首を傾げる。
「魔素を吸収してるようにも見えるから……普通の鉄や銅ではないわね」
前世の五歳児ならやっぱりこれは宝物になるんだよ。だって宝箱からでてきたんだし。
宝箱から出てきたからこれは宝物でいいと思う。
これは集めたくなるやつだ。
手の平の中のパーツからも「集めて、完成させてよ!」っていう圧が伝わる。
この部品がおもちゃのロボだってわかるのは僕だけ。
「ダンジョンの宝物だから、ぼくがみつけたから、ぼくのでいい?」
これはゴミじゃない。
捨てちゃダメなやつだ。




