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悪鬼戦乱のヴェスティード  作者: 語説囃子
【第1章:悪童の野望】
11/18

第11話【家督内乱】

2018/2/4

 加筆修正しました。

 尾張国・末森城。



「本気で仰っておるのですか、お館様!?」


 尾張国・現当主であるヒデユキの言葉に臣下達は声を荒げる。

 ヒデユキは表情を崩さずに冷めた声で言い放つ。


「もう決めた事だ。次期当主は織田ノブガとする、この発表は3日後に行うつもりだ」


「女に当主の座が務まる筈が!」


「なら、お前は誰を次期当主とするつもりだ?」


 ヒデユキからの問いに「あはは」と乾いた笑い声をあげて臣下は言う。


「そんなの、ノブガ様の弟君である織田ユキノ様に決まっているではないですか!」


「そうか、それでユキノはどのような功績を私に示せる?」


「へ……?」


 ヒデユキは臣下を睨み付ける。


「ノブガは6日間で3国を制圧してみせたぞ。なら、ユキノはそれ以上の功績を私に示せるのだな?」


「う、それは……」


 確かに1週間足らずで3国を攻め落とした功績はとても大きく、次期当主としてはこれ程心強い手腕は中々無いだろう。

 一方で、ユキノを一言で言い表せば母の愛を一身に受けた甘ったれ。

 ヒデユキは力強く言い重ねる。


「勿論、ユキノにも平等に1週間の猶予を与える。お前も分かっている通り、織田の行く末を担うのは能ある者だ、そこに男も女も関係は無い。異を唱えるのであれば、それ相応の結果を見せてからにしてもらおう」


「……承知致しました」


 臣下は深々と頭を下げて当主の間を後にする。ヒデユキに背を向けて去っていたのでその表情は見られなかったが、彼の表情は憎々しげに歪んでいた。


(女に――いや、鬼と妖士の血を持つ化け物に家督を譲るなど正気の沙汰とは思えん。やはり次期当主はユキノ様にこそ相応しい。無能ならばそれで良いではないか、我々で良いように操ればいいのだから)


 そう考えながら立ち去る臣下の後ろ姿を見つめながら、ヒデユキは影に潜んでいた偵察部隊に呟く。


「余計な手かもしれないが、ノブガへの暗殺工作を妨害してくれ」


『御意』


 先程までそこに居た人影が消え去る。椅子の背もたれに自らの背を預けて一息吐く。


「やはりそうそう上手くいかんか」


 現在、尾張国内は2つの派閥に分かれている。次期当主にノブガを据えるべきかユキノを据えるべきか。

 前者はノブガの手腕を評価している者達、後者は男が家督を継ぐという格式を重んじる者達。

 2つの派閥の割合は3:7でユキノ派が勝っている。

 やはりネックになっているのは格式である事が伺える。

 だが逆に言えば、ユキノ派がユキノを支持するのは“男”であるという一点のみ。

 次期当主として相応しい功績を示したノブガの行動次第によってはいくらでも巻き返しは可能だろう。

 公平に判断するためにヒデユキが今回の家督争いに介入するわけにはいかないが、公平の場になるように一切の妨害を許容するつもりもない。


「さて、お前はこの波をどう乗り越えるつもりなのだ……ノブガ」




 尾張国・港町。



「ふぁ~あぁ~!」


 ノブガは欠伸をして馴染みの茶屋に居座っていた。一応、ミツコ、ヨシノ、ヤスナの3人も居る。

 ヨシノは頼んでいた抹茶を一気飲みすると「ぷはぁ!」と満面の笑みを浮かべる。


「いやぁ、すっかり平和だねぇ」


「そうも言えなくなるですよ」


 ヨシノの言葉にヤスナは冷静に答える。ヨシノは首を傾げた。


「え、どうして?」


「……仮にも新聞部部長なら知ってるはずです。ノブガ様はこれから家督争いになるかもしれないですから」


「ああ、そういえばそっか」


 すると今度はミツコが「家督争い?」と首を傾げる。

 ヨシノはそれに対して得意気に答える。


「ノブガさんには2つ下の弟さんが居るんだよ。名前は、確か……織田ユキノ、だったかな」


「織田ユキノ? もしかして――」


 ミツコの言わんとしている事を察知したノブガは無関心そうな声で先に言う。


「ああ、母上がオレの次に産んだ奴だ」


「じゃあ、その子にも私達と同じように?」


「いや、奴には一切の特徴は無い。お前の妹だって、全部が全部受け継いだわけじゃないだろ」


「それは……」


 ミツコが口をつぐむと、ヨシノは興味津々に「なになに何の話?」と声を出す。


「2人で何か内緒話?」


「ああ。お前には関係のない話だから気にしなくていい」


 ノブガの言葉にヨシノは「えー?」と少し不服気な声を漏らす。

 「チャリリン♪」という店の扉を開けた際に聞こえる鈴の音が辺りに響いた。


「まあ、いいや。でも弟くんの特徴ならいくらでもあると思うけどな。見た目はそれこそ人形みたいに精巧だし肌も名前通りに雪のように透き通ってるし」


「……オレの言った特徴はそういう事じゃないんだが、まあいい」


 ノブガとミツコは溜め息を吐く。彼女達の気になる特徴というのは顔の良し悪し等ではなく、鬼の血を受け継いだ際に発現する鬼の特徴の事である。

 ヨシノは鬼に関する事情を知らないため、2人の様子に首を傾げる。

 ノブガが気分転換にお茶を啜るとふと横に人の立つ気配を感じる。首を動かさずに横目でチラッと盗み見ると、途端に気分が滅入る。

 ノブガの横に立ってニコニコと微笑む美少年は手入れの行き届いた黒髪を揺らし「フフフ」と笑いながらノブガに声をかけた。


「やあ、姉上。こんな所に居たんですね」


「そういうお前は何の用だ、ユキノ。護衛も着けずによくもノウノウとオレの前に姿を現せたな」


 ノブガの言葉でミツコとヨシノは目を見開いた。目の前に佇む美少年こそがノブガの弟である織田ユキノなのか、と。因みにヤスナは興味無さそうに注文していたパフェを頬張っている。

 ユキノは相変わらずニコニコしながら苦笑する。


「そう邪険にしないで下さいよ。僕にだって姉上と同じように茶を嗜む心はあります。それに、護衛はちゃんと店の外で控えてますから」


「ハッ、どうだか。大方、こっちに釘を差しに来ただけじゃねえのか? 女のくせにあまり調子に乗るな、ってな」


「……さあ、それはどうですかね」


 あくまでもニコニコと笑いつつも、少しだけ薄目を開けてノブガと同席しているミツコ達の姿を見回す。

 ミツコ、ヤスナ、ヨシノの順に確認すると、ヨシノに声をかけた。


「先程は相貌を誉めて頂き、とても感謝しております。よろしければ、名前を教えてもらっても?」


「え、ええ? あたしなんかの名前を知っても何も得する事なんて無いと思うけど」


 突然のユキノからの言葉にヨシノが困惑していると、ノブガは「シッシッ」と手を払うような動作をする。


「さっさと帰れ、ユキノ。コイツらに要らぬちょっかいをかけるならたとえ弟でも容赦しないぞ」


「……フン、貴女が僕を弟と思った事なんて無い癖に」


「なんだと?」


 互いに睨み合うノブガとユキノ。その様子で2人の仲は良好ではない事が伺えるだろう。

 ユキノは一瞬だけ陰のある表情を浮かべたかと思えば、すぐににこやかな笑みに戻してヨシノに耳打ちする。


「――どうやら、この中では僕達だけが普通(・・)の人間のようです。仲良くしても損は無いと思いますよ」


「え、普通って?」


 ヨシノからの問いにユキノは答える事は無く、意味深に「フフフ」と微笑んでからノブガに声をかける。


「それじゃあ、姉上。これから色々とお世話になると思いますが、どうぞよろしくお願いしますね」


「……次会う時は戦場かもしれないがな」


「ええ、勿論心得てますよ」


「……っ」


 ノブガが忌々しそうな声をあげる一方、ユキノは愉しそうに笑みを深めてから茶屋を後にした。

 突然の出来事にミツコとヨシノは戸惑い気味に顔を見合わせる。ヤスナは相変わらずマイペースにパフェを食べているが。

 苛々が治まらないのかノブガは「フン!」とそっぽを向いて腕を組む。


「ねえ、ノブガ。今のが貴女の……?」


「ああ。一応、オレの弟だ。どこにでもありふれた、普通の愚弟だよ」


 何か思う事があるのか、数分間だけ沈黙していると「ああ、そうだ」と言ってミツコに声をかける。


「ちょっとこの後、野暮用に付き合ってくれないか?」


「野暮用?」


「ああ、来れば分かるさ」


 ノブガの言葉にミツコだけでなくヨシノとヤスナも首を傾げる。特にヤスナは少しだけ頬を膨らませて「またミツコばっかりズルいです……」と不満を漏らしていた。



 一方その頃、茶屋を後にしたユキノはスマホを取り出してとある人物に対して連絡をしていた。


「やあ、僕だけど」


〈……僕僕詐欺は勘弁願いたいんですが〉


「フフ、分かってる癖に」


〈あーはいはい。分かってますよ、ユキノの大将さん〉


 電話の相手は辟易しながらユキノに対して接する。


〈それで、一体何の用ですか?〉


「分かってるよね。どうして姉上が3国を見事手中に収めたのか、それはキミ達が作ったヴェスティードっていうオモチャのおかげなんでしょ?」


〈情報規制はしてるつもりだったんですけど、よくご存知で〉


「なら、僕の言いたい事も分かるよね?」


 ユキノの意図を読み取り、相手は「まさか……」と呟く。


〈ヴェスティードを使用するつもりですか? あれは女性にしか操縦出来ない代物なんですが〉


「僕が戦場で直接戦うなんてするわけないだろ。戦闘は代わりの女に任せるつもりだよ。僕が言いたいのは、こちらにも量産機を回してほしいのさ」


〈それはどうですかね。何分、こっちには生真面目を体現したトシキが居ますから。量産数が規定数より少なくなってるなんてすぐに気付くでしょうし〉


「それをなんとかするのがお前の仕事だろう?」


〈無茶言わないで下さいよ。俺は南蛮の錬金術師の類いじゃないんですから。その辺の石ころを易々と兵器には変えられませんよ〉


「……まあ、いいさ。所詮、戦は物量が勝敗を征すからね。ヴェスティードなんて無くても僕には父上から貰い受けた多数の特殊部隊があるんだ。それに姉上が3国を征せたのも、あの手この手で3国の兵力を分散させたからと聞くし」


〈そうそう。余計な欲を出さずにご自分の兵力だけで戦う事をオススメしますよ。ヴェスティードの量産体制もまだ不完全ですからね、攻め時は今だと俺は断言しますよ〉


「そうか。なら、さっさと準備を整えないとね。それじゃあ柴田(・・)、また連絡するよ」


〈はいはい。首を長くして待ってまーす〉




 尾張国・ヴェスティード開発工場。


 カイは溜め息を漏らしながら自身のスマホを見つめる。


「さーて、これでユキノ様がどう動くかだが……ま、あの人は姐さんとは違う方向で単純だからなぁ」


「どうしましたか、カイ?」


 すると、背後からトシキに声をかけられて肩をビクッと震わせて振り向いてから慌ててスマホを懐にしまう。

 目を見開きながらトシキを見つめた。


「と、トシキ?! いつからそこに……」


 カイの様子にトシキは首を傾げる。そして懐にしまわれたスマホに目が行く。


「たった今ですが。……まさか、カイ」


「……」


 トシキの言葉にカイは「ゴクリ」と唾を飲み込む。一体、トシキに何を言われるのか。自分がユキノと通じている事がバレたのか。


「さてはスマホを使って女性をナンパしてましたね? 別に貴方のナンパ癖なんて興味ないのでわざわざ否定はしませんが、せめて業務外にして下さいね」


「え、な、ナンパ……?」


 予想外な事を言われて今度はカイが首を傾げた。カイの表情にトシキは怪訝そうな表情を浮かべる。


「違うんですか? 慌ててスマホをしまってたのでてっきりナンパでもしてたのかと思ったのですが」


「い、いや……そう! ナンパ! ナンパしてました! はは、中々単純ながらも気難しい相手でねぇ!!」


「そうですか、まあ程々にしておいて下さいよ」


「お、おう! これからは気を付ける、うん!!」


「では、俺は自分の持ち場に戻りますから」


「了解、俺もすぐに戻るよ。じゃあな」


 立ち去るトシキに向かってぎこちない笑顔で手を振って見送ると、カイは大きく息を吐いて安堵する。

 懐にしまったスマホを見つめながら、やがて肩をガクッと落とした。


「はあ……二重スパイなんて胃に穴しか空かねえっての」


 あまりの精神的なストレスで思わず腹を抑えてしまう。何故自分がこんな損な役回りをしなければならないのか、分かってる筈なのに頭を悩ます。


「こんな事ならユキノ様からの申し出を断っておくべきだったかな。……いや、最初はこんな筈じゃなかったんだけど」


「何がこんな筈じゃなかったんだ?」


「それはですね――ってうぇ?!」


 突如背後からノブガに声をかけられてカイは飛び上がった。


「あ、姐さん?! どうしてこちらに?!」


 一番聞かれてはならない存在の登場に、ようやく治まりつつあった心拍数が再度上昇する。

 よくよく見ると、ノブガの後ろにはミツコも控えており首を傾げていた。

 ミツコの様子から恐らく「二重スパイ」という単語は聞かれていないと察する。

 カイは咳払いをしてから調子を整えて話し始める。


「は、はは。もうトシキに続いて姐さんまで、今日は背後から俺に声をかける日なんですか?」


「いや、別にそんな事は無い。それより、今日はオレの機体が完成したとトシキから聞いたんだが」


「え、あ、そうですね! 勿論、完成してますよ!」


「なら、オレがお前に発注したあの武装も完成しているんだな?」


「そうそう、完成――は、まだしてませんです……はい」


「ほう」


 カイは頭から汗を滝のように流して恐る恐るノブガの表情を伺うように伏せていた顔を上げる。

 ノブガは意地の悪そうな表情を浮かべつつも、こめかみに青筋が浮いてるのが確認出来る。


「あのー……姐、さん」


「申し開きがあるなら聞くが?」


「その……姐さんが考案した武装は少々奇抜すぎて、開発にはかなり時間がかかるかと」


「オレは3日で造れと言った。それに対してお前は『はい』と返事をした、造れる見込みがあるからそう返答したんじゃないのか?」


 徐々に追い込まれていくカイは自棄になりながら「あーもう!」と叫ぶ。


「予想に反して機構が特殊すぎるんだよ! まあ、1対1の場なら運用できますが、多面的な戦況における運用方法を今模索中なんすよ」


「1対1か、丁度良い。それでいいからオレの機体に搭載しろ」


「ハァ?! 発注内容と違いますよ?!」


「勿論、一時的な運用だ。今回はオレとミツコで模擬戦を行う」


 ノブガの言葉にミツコは目を見開いた。


「え、野暮用ってもしかして……」


 ノブガは「おう!」と満面の笑みで元気良く言う。


「ミツコ、ちょっとオレの専用機の性能試験に付き合え!」


「……まあ、別にいいけれど」


 丁度良く話題が逸れたのをこれ幸いとばかりにカイはその場から退散しようとする。


「それじゃあ、俺は武装を整えるんでここら辺で」


 そして2人に聞こえるか聞こえないかぐらいの声でこそこそと立ち去った。

 少しずつ早歩きになってなるべくノブガ達から距離を取ってから改めて息を吐く。


「そろそろストレス性胃炎になりそうだ」


 思わず腹部を抑えるが、なんとかモチベーションを保とうと自身のラボに入る。


 数十分後、ノブガとミツコはそれぞれ自分の専用機に搭乗する。

 それぞれの機体に対応した家紋面が装着され、ヒヒイロカネ装甲が瞬く間に変色していく。


〈織田ノブガ並びにダイロクテン、出陣する!〉


〈明智ミツコ並びにヒナタカミ、出陣します!〉


 カタパルトデッキから発進し、2人は尾張国港町の裏手にある広大な草原地にて模擬戦を行おうとしていた。

 辺りにトシキのアナウンスが流れる。


〈それでは、模擬戦を開始します。何度も言ってますが、これはあくまでも模擬戦ですので“程々”にして下さいよ、整備が大変ですから。…………特にノブガ様〉


〈おい、トシキ! 聞こえてんぞ!〉


 ミツコは2人のやりとりに苦笑しつつ、ノブガの搭乗機であるダイロクテンの特徴をゴーグル越しに確認する。

 漆黒に染め上げられた装甲、全体的に鋭さを持ったデザイン。腰部と脚部はたまた腕部にまで銃火器が見られる事から恐らく遠距離戦闘を得意としているのが伺える。

 ダイロクテンとヒナタカミは互いに見合ったまま動かず、互いの動きを推し測る。


〈〈…………〉〉


 だが、先に動いたのは意外にもミツコだった。

 ミツコはブースターを最大解放して一気にダイロクテンとの距離を詰めると右手の刃指射出する。


〈こちらから行かせてもらうわ、刃指射出!〉


〈ハッ、そう易々と捕まるか!〉


 ノブガはダイロクテンの脚部に取り付けられたハンドガンを持つと刃指に対して狙いを定めて数発射つ。

 銃弾が刃指の1つ1つに見事命中し、刃指の軌道を変える。

 それを待っていたかのようにミツコはすぐに左足を振り上げる。確かに遠距離武装は近距離武装に比べてリーチに利点があるものの、こちらの挙動を捉えようとすれば必然とその足は止まる事となる。

 それを狙い、足先から放たれた小型粘着榴弾がハンドガンに接着するのを確認してからワイヤーを稼働させて軌道の逸れた刃指を素早く回収して脚部から取り出した剣を左手で構えてブースターの勢いを活かしてそのまま斬りかかろうとする。

 ノブガは軽く舌打ちするとすぐさまハンドガンをヒナタカミに向かって投げ捨てる。

 ハンドガンは小型粘着榴弾によってダイロクテンとヒナタカミの間で爆発し、粉塵を巻き上げた。

 しかし、2機は粉塵を斬り裂いて飛び出し激突する。

 ダイロクテンは両腕部から取り外したハンドガンを両手で持って乱れ撃ち、対するヒナタカミはその銃撃を全て斬り払いで対処していく。


〈中々やるな、ミツコ!〉


〈そっちこそ!〉


 ノブガは「はは!」と笑いながら、ダイロクテンの懐にまで攻め込んできたヒナタカミの一撃を防ぐために腰部に装着されたナイフを取り出す。

 ナイフと剣が激しくぶつかって「キーン」という金属音が響き、互いに獲物を強く押し合って動きが止まる。


〈ねえ、ノブガ!〉


〈何だ!?〉


 すると、ミツコからの通信が入った。ノブガは次の一手を考えながらミツコの言葉に返答する。


〈家督争いって言うけど、それは弟さんと戦争をするって事?〉


〈さあな。それはユキノの行動次第だ、アイツが大人しくオレに家督を譲る気があるんなら穏便に終わるが、そうはいかないだろうな〉


〈貴女はそれで良いの? ……実の家族と殺し合う事になっても〉


〈だったらどうした。お前のところみたいに、兄弟姉妹は仲良くしろってか〉


〈そういうわけじゃないけど!!〉


 ミツコが自分の身を憂いでいるのが伝わるのか、ノブガは鼻で笑い飛ばす。


〈生憎、オレは純粋に育ちが良い方じゃないんでね。オレの道を阻む奴は誰であろうと容赦するつもりは無い。それがたとえ、お前やヨシノ達だったとしてもな〉


〈ああ、そうですか!〉


 ミツコは自身の剣の重心をずらしてダイロクテンのナイフと共に右手を斬り落とす。

 右手を斬り落とされたダイロクテンは素早く後退してヒナタカミの様子を伺う。

 ノブガは右利きのため、左手でハンドガンを操作するとどうしても狙いが外れてしまう。なので、なんとか好機を狙おうと一旦距離を取る事にしたのだ。

 しかし、ミツコはそれを許す筈も無く再度ブースターを最大解放して距離を詰めようと迫ってくる。

 ノブガは狙いが定まらないのなら定まらないなりにヒナタカミにハンドガンの銃口を向けて適当に引き金を引く。これを威嚇射撃として、時間稼ぎを行う。

 ミツコを仕留める機会はカイに発注した新武装の発射タイミングのみ。ノブガはそう思ってただただその好機が舞い込むのを待つ。

 一方でヒナタカミはダイロクテンからの威嚇射撃を回避しながら大きく円を描く軌道をする事でダイロクテンを囲うように立ち回る。その際に片足を上げたり下げたりと奇妙な動きが目立つ。

 ノブガは思わず顔をしかめた。


(なんだ、あの動きは……? 一体ミツコは、何を狙っている?)


 そう思案していると、急にダイロクテンの動きが止まった。


〈なっ?!〉


 ダイロクテンの足が地面にくっついてピクリとも動かない。一体何が起きたのか。

 ふと、足元から「ピ、ピ、ピ」という点滅音が聞こえてくる。ダイロクテンの足元を見てみれば小型粘着榴弾によって足が地面に粘着していた。


〈くっ! まさか、こんな使い方が!!〉


〈はあああああ!!!〉


 ヒナタカミがダイロクテンにトドメを刺すために急接近してくる。

 だが、これはノブガにとっても好機である。


〈ただで負けるつもりは無いさ! 幻影弾、射出!!〉


〈っ?!〉


 すると、ダイロクテンの背部が展開されてまるで翼のようになり、その翼の先から小型ビーム砲――幻影弾が多数射出される。それらはワイヤーによって翼から伸ばされヒナタカミを囲うようにビームを一斉発射した。

 幻影弾による一斉射撃をヒナタカミが受けると同時にヒナタカミが辺り一面にばら蒔いた小型粘着榴弾が一斉に爆発する。


〈〈っ!!!〉〉


 辺りに「ドオオオオン!!!」という爆音が響き渡り、視界は再び巻き上がった粉塵によって塞がった。



〈両者、そこまで!!〉


 トシキのアナウンスが響き、両機はピタリとその動きを止めた。

 舞い上がった粉塵が収まると、ヒナタカミがダイロクテンの首元に剣先を当て、またダイロクテンはヒナタカミの額にハンドガンの銃口を当てていた。

 両機のヒヒイロカネ装甲は互いに無傷なものの、爆発の衝撃によって装甲が吹っ飛び、内部骨格が所々露出している。

 トシキは溜め息を漏らした。


〈これが貴女達にとっての程々ですか……〉


〈〈…………〉〉


 いたたまれないのか、ノブガとミツコはただただ沈黙する。その様子にトシキはもう一度「はぁ」と溜め息を漏らして低い声で「ただちに帰還して下さい」と指示した。

 ダイロクテンとヒナタカミは互いの獲物を納めるとトボトボとトシキの待つトレーラーにへと向かい始めたのだった。



「あーあ、ミツコが熱くなるからトシキから小言を言われちまったじゃねえか」


「ちょっと、私のせいだって言いたいの?」


 トレーラー内のリビングルームにて、ノブガとミツコは互いに睨み合う。


「オレが弟と戦うのがそんなに気に食わないのか」


「そういうわけじゃないわ。ただ、どうして弟さんと争ってまで家督を継ぎたいのか不思議なだけよ」


「なんだ、そんな事か」


 ミツコの言葉に対してノブガは腕を組んで「決まってんだろ」と得意気に語り始める。


「オレはな、何かに縛られるのが大嫌いなんだ。このままじゃ、どっか適当な家に嫁ぐか、はたまた厄介払いで出家させられるか。ま、どっちみち下手な事をしないように監視されて閉じ込められる事には変わりないだろうな」


 自嘲気味に笑い、力強く拳を握り締める。


「それを回避するためには、当主になるしかオレには道が無いんだよ」


「そう。なら、貴女の戦いは当主になるまで終わらないのね」


「……何が言いたい?」


 ミツコは小さく笑いながら何でもない事のように呟く。


「別に、ただこれからも貴女と一緒に戦う事になるんだろうなって思っただけよ」


「なんだと」


 ノブガは目を見開いてまるで信じられないものを見るかのように固まる。

 それに対してミツコは頬を大きく膨らませて「なによ」とそっぽを向く。

 ノブガは戸惑いながらも「い、いや……」とかろうじて言葉を発した。


「お前との取引は終わったから、てっきりお前はもう戦わないと思ってたんだが」


「それは、その……」


 ミツコは顔を俯かせてぽつりぽつりと話し始める。


「カイから聞いただけよ。貴女は戦場にしか自分の居場所は無いって思ってるって」


「あの野郎……」


 ノブガはカイに対して苛立ちを募らせる。それはミツコに下の名前で呼ばれてるのもあるが、何よりも自分のプライベートをペラペラと勝手に喋った事が大きい。

 ミツコはそんな事など知らず、構わずに話し続ける。


「出来る事なら、私はヨシノ達だけでなく貴女とも平穏な日々を過ごしたい。戦場以外にも貴女の居場所がある事を知ってもらうためにも、私は貴女を取り巻く戦争を全て終わらすまで、貴女と一緒に戦い続けるって決めたの」


「……ああ、そうかい」


「何よ、その言い方」


 ミツコはノブガを睨むが、反対にノブガは少しだけ表情が緩んでいる。

 そんな風に言ってくれた者は今まで居らず、だからこそ嬉しさが込み上がってくる。

 そんな時だ、慌ただしく扉を開けてトシキがリビングルームに飛び込んできた。


「ノブガ様、明智さん! 大変です!!」


 その尋常ならざる表情にノブガとミツコは互いに顔を見合わせてからトシキに事情を伺う。


「どうした、トシキ?」


「ヴェスティードの量産工場が、爆破されました!」


「な、なんだと?!」


 このタイミングでの爆破騒ぎ、考えられる事は唯1つ。ユキノかユキノ派の者による犯行が濃厚である。

 こちらの戦力を削る事で優位性を得ようとしているのか。


「爆破した人物は分かっているのか!」


「そ、それが……」


 トシキは言葉を濁してそれ以上語りたくないのか、口元に力を入れている。

 その様子にノブガは何か嫌な予感を感じつつ、敢えてトシキに「言え」と命じる。

 トシキは数秒程沈黙すると、震える声で呟いた。



「柴田……カイです」



 意外な人物の名前に、ノブガとミツコは表情を驚愕に染め、暫く呆然とした。

【次回予告】


 最初は小生意気な娘と思った。

 やがて傷を背負ってると知った。

 そして彼女を取り巻く環境に嘆いた。

 最後に彼は決意した。


次回、【始まる抗争】

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