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『バラ戦争』とは、リーダー一人とサブリーダー二人を決め、それぞれ四人ずつのメンバーを選出し、五人部隊を三組、計一五人が戦場で思う存分しのぎを削るバトルロイヤル方式の戦争だ。
各リーダーは胸に飾ったバラを飾り(リーダーは紫。サブリーダーは赤)そのバラを散らされないように相手のバラを狙う。
サブリーダーの赤いバラなら、各々の部隊が戦争から除外。
リーダーの紫のバラならばその時点で勝利となる実にシンプルなものだ。
だがこのバラ戦争……いろいろと抜け道はある。
そういう風にわざと考えたんだからな、そこをうまく利用して俺の想像を超える戦いを見せてもらいたいものだ。
観戦はVIPルームにポップコーンを沿えて 烏山 炎羊
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戦争前、最後の作戦会議は重い空気が漂っていた。
それは本番前のプレッシャーからではなく、信介のイライラが玉繭会会長室を蔓延していたからである。
「……で? どうしても引くつもりはないんだな」
不機嫌さを隠すつもりはないらしく、目の前で手と膝をつく那須に冷たく言い放った。
悟史が「那須一与も戦争に参加させて欲しい」と口にした時点で、那須もまた信介がそういう態度をとることは最初から予想は出来たが、それでもまだ中学校を卒業したばかりの少女であるため、無意識のうちに目に涙が溜まっていた。
それでも那須は、信介から顔をそらすことなく、顔を赤くして見つめている。
ここで引き下がれば今までの苦労が全て無駄になるからだ。
「俺からも頼むよ信介。ここまでやってくれてるんだか――」
「――悟史は黙ってろ」
悟史はフォローのつもりで口を挟むが、信介に睨みつけられて声が出なくなった。
「お願いです根岸さん。私にチャンスを下さい。次からは二度とわがままな口はききませんから!」
「次はないんだよ。ここでヤタガラスに負ければ全てが終わりなんだよ」
「ならここで足を引っ張って負けてしまったら、一生根岸さんには逆らいません」
それはちょっとと悟史が声をかけようとしたが、その前に信介が口を開いた。
うっすらと笑みが浮かんでいる。
「言ったな那須一与。一生私には逆らわないんだな」
「はい! なんでも言う事を聞きます」
「なんでもというのは、私が死ねと言ったらすぐ死ぬぐらいのものだよな?」
那須は言葉を発することなく、大きく首を縦に動かした。
「……よし、なら参加を認めよう。そこまでの覚悟がある人間を無下に扱うのも悪いしな」
もう下がっていいぞ、と信介は那須に告げると、ゆっくりと立ち上がり、悟史の隣にあるパイプイスまで戻った。
「本当にあんなこと言っていいの那須さん。信介はホントにどんなことでも容赦なくやらせるからね。慈悲とか温情なんて言葉は、あいつの辞書にはないよ」
「大丈夫です。負けなければいいんですから」
と力強く応えた那須は、それ以上無駄口を叩くことなく正面の信介を見た。
作戦会議用に用意したホワイトボードの前に立ち、黒マーカーを手にした信介は柔らかな表情で右手を動かした。
「では本題に入ろう……今回玉繭会がヤタガラスに仕掛けたバラ戦争は、ご存知のとおり一人のリーダー、二人のリーダーを置くことになる。普通に割り当てるのならばリーダーが悟史、サブリーダーに副会長である私と、実力から野木胡桃を選ぶべきだが……今回は」
ホワイトボードには、【リーダー鴨志田悟史】の他に【サブリーダー坊主頭、ポシェット】と書いた。
「この二人をサブに置くことにした。異議のある者は?」」
あるぞ! と手を上げたのは坊主頭。
「坊主頭とポシェットって何だよ! ちゃんと本名で説明しやがれ」
「断る。この学園において異名はともかく、本名はなんの意味も為さない」
「ならせめて異名で書けよ。俺のカッコいい異名である【豪腕マキシマム】と書け!」
信介はふぅと、溜め息を付いた後、手提げカバンから二枚の紙を取り出し、二人に渡した。
その紙には異名変更手続きと銘打たれ、北カントー学園運営委員会会長である烏山炎洋の判も押してあった。
「その異名は無効にした。正式に手続きも済ませている。お前らの今の異名は【坊主頭】に【ポシェット】だ」
「はぁぁぁぁ! 何てことしやがるんだこの野郎!」
「お前らにそんな長ったらしく、口にするとちょっとイタい異名は目立ちすぎるから変えた――話を元に戻そう」
ショックを受けたまま固まっている坊主頭と、何故か満足げなポシェットを無視し、信介は説明を再開した。
「この二人をサブリーダーにした理由は、リーダーとサブリーダーは必ず胸ポケットにバラを挿さなければならないからだ。バラが散った時点で戦争から除外されるというバラ戦争では、常にバラを意識しなければならない。それは戦う事において邪魔にしかならない。特に野木胡桃は狸塚剛健と戦わなければならないので、あえて外した。だがバラを守らなければならないのも事実なので、ある程度実力者である二人を選んだ。腐っても玉繭会の元会長副会長コンビ。不足はないだろう」
そう問いかけられると、まんざらでもない様子で坊主頭は、照れながら「任せろっ!」と大きく胸を叩いた。
腐ってもと言われているのに、何故その部分に引っ掛からないのだろうかと悟史は思った。
「で、肝心の鴨志田悟史率いる本隊だが、私と野木胡桃と鴨志田スー……そして那須一与で行く。役割としてはまず私が坊主頭とポシェットの部隊を率いて指示統制を行いヤタガラス本隊を倒しにいく。野木胡桃は先程も言ったように、狸塚剛健と一騎打ちに持ち込み、奴の足止めを頼む」
「足止めなどする気はない。狸塚には必ず勝つからな」
「無論勝つつもりでぶつかって欲しいが、現実的に考えると狸塚に勝つのはかなり厳しい。だから最悪でも私たち本隊が烏山妖虎を倒すまでは絶対に倒れるな。死んでも負けるな」
「だから勝つと言ってるだろうクズが……放つぞ」
何を放つつもりだよ! と心の中でツッコミつつ、悟史はまぁまぁと彼女を宥めた。
「次に鴨志田スーだが、お前はリーダーである悟史の護衛。それに全力を尽くしてくれ。お前の実力なら狸塚剛健以外なら力で圧倒できるし、鼻もきくから奇襲や不意打ちの対応力も充分だ。鴨志田スー以上の適任者はいない。頼んだぞスー」
あいあいさーぞよと抜けた声でスーは応え、ケルとベロも同じタイミングで「わん」と軽く吼えてみせた。
「とりあえず坊主頭とポシェットの部隊は、それぞれ旧玉繭会の武闘派のメンバーを選んでおいた。この一〇人で烏山妖虎の首を取るつもりだ。気合を入れて自分の責務をしっかり果たすように――以上」
信介が説明を終えると同時に、那須が申し訳なさそうに手を上げた。
「あの……私はどうすれば」
「お前の参加は私の計画には入ってなかったから考えていない……。攻め込んでもいいし、悟史の護衛でもいい。私たちの邪魔さえしなければな自由に動いていいぞ」
信介は何事もなかったかのようにホワイトボードに目を戻した。
信介の中では那須の存在は厄介者でしかないとその態度が示していた。
スッと手を下ろし俯いた那須の体は若干震えていた。
「……大丈夫、那須さん?」
「心配無用ですよ鴨志田くん! こういう態度をとられることは初めから覚悟してました。それに自由に動けるってことは、私が手柄を上げれば、そのまま私の評価に繋がるわけですから……こんな所でくじけるわけにはいきませんよ!」
心配無用ですと言い切った那須の表情からは、今まで以上の覇気が満ちていた。
「私が鴨志田くんを勝者にしてあげますよ」
那須は前髪を揺らしながら、力強く握りこぶしを作った。
「ここに質問を受けると時間がかかりそうなので、あとはプリントアウトした資料を読んでおくように。では最後に現玉繭会会長――鴨志田悟史。最後に締めの一言を頼む」
パイプイスから立ちあがった悟史は、信介と入れ替わるようにホワイトボードの前に立った。
「野木さんを筆頭に、スーや玉繭会の武闘派が集まり、そこに的確な指示を与えることが出来る信介がいる。そんな強い仲間はいるこのチームは、例え相手が王女様のチームだとしても負ける要素はほとんどない。今の玉繭会は、最大にして最強だ。だからここで俺ははっきり言うよ……絶対勝とう」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ! 悟史が言葉をきると同時に叫びにも似た歓声が会議室を揺らした。
その瞬間悟史の中で、カチッと歯車がか噛み合わさる音がした。
ここにいる誰もが、ヤタガラスとの戦争に脅える者はおらず、あとはただ、その日を待つだけだった。
来る五月吉日――時刻は八時五八分。ヤタガラスとの戦争開始まであと残り二分を切っていた。
玉繭会メンバーは講義棟最上階南端の三年三〇組の教室にいた。
対するヤタガラスは一階の北端にある一年一組の教室に陣取っている。
「最終確認だ。野木胡桃は狸塚剛健の足止め。私と、坊主頭とポシェットの部隊は王女のバラを狙って前進する。スーはここで悟史の護衛を――」
「――では私も、ここで鴨志田くんの護衛に回ります! スーちゃんだけだと多人数で攻められた時対応が難しいと思うので」
手に和弓を備えた那須が割り込むように口を動かした。
「スーだけではないぞよ。ケルとベロもいるぞよ」
「あぁうん。じゃあケルベロスの三人? と一緒に鴨志田くんを護衛します」
相変わらずぞよぞよ五月蝿いスーを那須は軽く流した。
「……まぁそれでいいだろう。ではもう間もなく始まるが最後に一言だけ。今この学園中にはこの戦争を記録する為にありとあらゆる場所にカメラが用意されている。このカメラを通して、生放送で配信されているから玉繭会、ヤタガラス以外の生徒も見ているだろう。つまり全員の一挙手一投足が全て人の目に触れることになる。私があえてカメラについて言及した意味は言わずとも分かるよな」
――逃げたりしたらバラすぞ。追い込むぞ。レンズを通しても、信介の力のこもった瞳はそう語りかけていた。
「おい信介……戦争前にテンション下げるような事言うなよな」
「そうか? こっちの方が気合が入ると思ったのだが……」
「まぁ気合は入ったよ。余計負けられなくなったからね、だろ皆」
悟史の言葉に教室にいる全員(野木胡桃を除く)が大きく頷いた。
「さて、もう間もなく始まるな」
野木胡桃は座っていたイスから立ち上がり、窓から校庭を眺めていた。
「ん~……眠いぞよ」
スーは大きなあくびをし、緊張感というものを全く感じていないようだ。
那須は目を閉じて精神を集中させている。
「あと、一〇秒……」
信介は腕時計に目を落とした。
九、八、七、六、五、四、三、二、一。キーンコーンカンコーン……キーンコーンカンコーン……。
チャイムが鳴ると同時に、信介と坊主頭、ポシェットの部隊は教室を飛び出した。
「坊主頭部隊は北端階段まで走り、上から教室に攻め込め! ポシェット部隊は私に続け!」
信介の声と廊下を走る足音が徐々に小さくなり、改めて戦争が始まったと実感した。
「……さて私も行くか」
野木胡桃は窓を開け、クマの着ぐるみのもこもこボディを押し込むように外に飛び出そうとしていた。
「えっ、野木さん、一体何を! ここ三階だよ」
「あぁ……だが、奴が誘っているんでな」
悟史は野木胡桃とは別の窓を開け身を乗り出すようにして見下ろした。
校庭の真ん中に薄っすらと赤い光が浮かんでいた。
その光に目を凝らしてみると、黒く大きな影が浮かび上がる。
「もしかして……狸塚剛健」
「どうやらあの男も待ちきれなかったようだ。じゃあ行くぞ」
「いやいやいや行くって何さ? さっきも言ったけどここ三階だよ」
「大丈夫だ。落下の勢いのまま狸塚にぶつかる」
「そんなの避けるよ普通。いや避けなくても死ぬって」
「平気だ。この日のためにレモン牛乳を多めに摂取している」
「レモン牛乳って! カルシウムはそこまで万能じゃな――」
ふわっと野木胡桃の身体が宙を待った。
「じゃあまた後でな鴨志田。必ず勝って戻ってくる」
そう言い残すと野木胡桃は校庭に輝く赤い光に向かう。
校庭へと落ちながら青いオーラが身体を包んでいった。
「本気で来てくれ。野木胡桃」
狸塚剛健も待ちわびていた。
自分の力を推し量る事ができる――強敵を。
一直線に狸塚に向かって落ちていく野木胡桃。
それを迎え撃つ狸塚の咆哮が重なった。
青と赤の光が衝突し、鋭い光が学校全体に広がった。




