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チームの代表だからといって、安心するのはまだ早い。
大きな権力を持っている分、リーダーとしての責任や危険性は他のメンバーと比べてあまりにも重い。
なんせ代表の意向がそのままチームの意思として動くのだから、代表の言動一つでチームが崩壊する恐れがあるのだからな。
では無能なリーダーを選んでしまったメンバーはその時点で負けか?
いや、そんなことは無い。
その為に群雄割拠システムには『下剋上』という代表入替の仕組みを取り入れた。
代表にはメンバー全員の権利を受ける分、それ相応の義務と責任が課される。
代表としてその責務を全うできるか常に自分を見つめ返すことだ。
メンバーをよく見てみろ。
誰かが代表の座を狙っているかもな。
下剋上は男のロマンだと語る男 烏山 炎羊
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それから二日後、悟史は電子機器とコードに占領された信介の部屋を訪れた。
呼び出された理由は分からないが、カモネギCREWに関する事だとはなんとなく分かっていた。
結局あれからカモネギCREW最後のメンバーは見つからず、また野木胡桃とも関係を修復出来ないままで、チーム作りに暗雲が立ち込めていたからだ。
ドアを開くと、信介はパソコンを開いたまま悟史のほうを見た。
「一年八組の半数が正式にチームに参加表明した」
部屋の中に入りベッドに寄りかかるように座ると悟史の頭にはふと野木胡桃の姿が浮かんだ。
「あと一人、誰かがどこかのチームに入れば過半数。それで署名の効力が無くなって、野木さんに対する勧誘活動が再開されるってことだよな。信介の予想より大分早い」
「他クラスと比べると八組のチーム参加人数が圧倒的に多いんだ」
悟史の言葉を無視して、信介はパソコンを見つめながらキーボードを軽くタッチしていく。
「チームに所属した二〇人の内、一四人がヤタガラスに入った。明らかにヤタガラスが野木胡桃の勧誘禁止に関する署名の無力化を狙って八組の生徒を集中しているのだろう。くっくっくっ……どうみてもこれはカモネギCREWに対する宣戦布告だ」
光栄だと言わんばかりに信介は笑みを浮かべるが、現状を考えると悟史にはそんな余裕は生まれなかった。
「どうするんだよ信介。俺はともかく、またあのうざったい勧誘活動が始まるぞ。そんなことになったら今度こそ野木さんをチームに入れることは不可能になる」
「……悟史は何も分かってないな。その程度のこと別に問題にあげる必要すらない。それよりももっと重要視しなければならないことがあるだろう。よく考えてみろ」
信介の語るもっと重要視しなければならない事を考えてみるも、悟史はう~んと唸るばかりで解答は出てこない。
その様子を見て信介は溜め息混じりに口を動かした。
「八組には既に一四人のヤタガラスメンバーがいる。つまりあと七人でクラスの過半数がヤタガラスになるということだ。ここまで言えば分かるだろう?」
「ヤタガラスがクラスの過半数をメンバーに引き入れたら、絶対過半数制度を利用して、八組だけなら支配下に置き自由に操る事ができる」
「その通りだ。しかも私や悟史、野木胡桃やスーも今はチーム無所属の生徒だから、抵抗することすらできず、無茶な要望にも従わなければならない。例えば、八組のチーム無所属の生徒全員を退学させるとかな」
――全員退学!
そう声をあげようと思ったのだが、うまく声が出なかった。
「絶対過半数制度の絶対とは、そこまで『絶対』なんだ。……三〇年ほど前の話だが、あるチームが全校生徒の過半数をチームに引き入れた事があってな。そのリーダーはチームメンバー以外の生徒に殺し合いをさせていたという記録もある」
「なんだよそれ……無茶苦茶にも程がある」
「無茶苦茶でも何でもない。それが事実なんだからな。ここに入学した以上は群雄割拠システムに従って上を目指さなければ、そのような悲劇の当事者になりかねないんだよ!」
普段感情的にならない信介が、やけに声を荒げていた。
「そして今、その可能性の種が確実に芽生えようとしている」
いいか、よく聞けよ。と信介が念を押す。
「仮に一四〇〇人のメンバーが参加するチーム……Aがあったとしよう。この北カントー学園は全校生徒がちょうど三〇〇〇人とすれば、まだ過半数には一〇〇人ほど及ばないのは分かるな? それで、Aはある一学年の過半数を既にメンバーにしていると仮定しよう。そうするとその学年において、Aは自分の意思で動かす事ができるわけだ。そしてその学年のAに所属していないメンバーを二〇〇人退学させたとしよう。そうすると全校生徒は二八〇〇人、Aは全校生徒の過半数に到達し学園全体を支配下に置く事ができる」
道理は分かるのだが、ふと悟史の頭に疑問が浮かんだ。
「……そんな遠回りな事をしなくても、単純に一〇〇人メンバーに入れたほうが良くないか?」
「その一〇〇人の中に、チームを極端に嫌い、且つそのチームをひっくり返す程の力を持った――野木胡桃のような奴がいたらどうする? 加えて、その一〇〇人の多くは権利ばかりを主張し義務を果たさない無能な連中ばかり。そんな虫けらを仲間にしても百害あって一利なし。退学させた方がチームの力を維持するには効率的なんだ」
実に辛辣な言い方だが、信介の言い分は正しかった。
優秀な人材を募り、それ以外を退学させるという方法でチームを作っていけば、他のどのチームが努力しようと追いつく事のできない絶対的なチームが出来上がり、この学園の完全なる支配が実現可能となる。
「確かにそれが出来れば学園を統一できるかもしれないけど、なんか現実味がないな。机上の空論って感じ」
悟史が呟くように声を洩らすと、信介はパソコンを閉じてメガネを押さえた。
「今はそのチームをAと称したが、実際にこのAになりうるチームがある。それが王女烏山妖虎率いるヤタガラスだ。悟史も以前言っていただろう? 『今すぐでなければ、ヤタガラスが学園を制圧できる』とな」
確かにそんな事を言った覚えがあると悟史は思い返していた。
「ヤタガラスの狙いはまずこの第一学年の過半数を奪い、使える奴を味方にして、残りは退学処分にするだろう。悟史は王女様のお気に入りだから退学にはならないだろうが、私や野木胡桃といった危険分子は、まず間違いなく退学させられる。そうなったら最後、もはやヤタガラスを止められる人間はいない。二学年、三学年と勢力を伸ばしていき一年も経たぬうちにこの学園はヤタガラスのも――」
突然信介は途中で言葉を切って、頭を掻いて押し黙った。明らかに喋りすぎたといった表情を作っている。
その表情から悟史は信介の失態の意味を理解した。
信介は今、「このまま何もしなければ自分は退学になり、悟史は脅される心配が無くなる」ことをきっぱりと言い切ってしまったのだ。
そのうえ悟史は当然のように王族の加護を受ける事ができ、自身の望む平穏な学園生活を過ごせるという事実まで示してしまったのだ。
「馬鹿か私は……つい興奮して余計な事を口走ってしまった」
これで自分の計画は終わりだとばかりに、信介は大きく溜め息をついた。
その姿を悟史は見つめていた。
「……もういいぞ悟史。お前は帰れ」
信介は促すも、悟史は座ったまま、無言でその場を動こうとはしなかった。
「なんだよ悟史。頭の足りないお前でも今の発言でどうすれば最善なのかは判断できるだろ? だったらもうここにいる必要などないだろう!」
バンッとパソコンを叩き、声を荒げて追い出そうとしても悟史はその場を動かなかった。
いや動こうとすら思わなかったのだ。
初めて見せた信介の人間らしさ、そこには自分の可能性を求め、出来うる限りの努力をする一人の男の姿があった。
それは自分を変えるために同学年の自分たちに頭を下げる那須一与と同じではないだろうか?
何も出来ないけど、それを言い訳にして諦めたくないという人間の本質を、悟史には持ち合わせていないその向上心を、先程の信介の言葉から垣間見ることが出来たのだ。
このようなやる気のある人間に囲まれて、どうして自分だけ逃げる事ばかりに目を向けているのだろうか?
どうして自分は何の意思も持たない無機質な機械のようでいられるのだろうか?
信介とともにカモネギCREWを作っていけばそんな自分を変えることが出来るのではないか。
「決めたよ。俺は信介と一緒にこのカモネギCREWを北カントー学園最大のチームにする」
はぁ? と間の抜けた信介の声が室内を包んだ。
「情報屋といっても、さすがに人の心までは入り込むことは出来ないみたいだな」
声を抑えて悟史は笑い、初めて信介の優位に立った気がして嬉しくなった。
「……大丈夫か悟史。気でも触れたか?」
「ははは、違う違う。なんかよく分からないけどいろんなことが吹っ切れたんだよ。これも信介のおかげだ」
そう言って悟史は信介に抱きついた。信介の全身に鳥肌が立った。
「離れろこのド変態っ! とうとうお前まで珍獣になったのか!」
悟史を足で蹴って身体を離すと信介は叫んだ。それでもなお悟史はニコニコと笑顔を崩さない。
「……まぁいい。だがさっきの発言は事実なんだろうな。カモネギCREW作りに本気を出すというのは」
「本当だよ。なんか今まで以上にやる気に満ち溢れているね。今ならどんな事でも出来そうだ! なぁ信介、お前ならメンバーが揃わず、しかもヤタガラスからも目をつけられているこの最悪の状況を乗り切る方法があるんだろ?」
「……まぁな。本来ならカモネギCREWを発足してから実行に移すつもりだったが、状況が状況だ」
信介はパソコンを開き、いつもよりも素早くキーボードを叩く。
あるファイルにカーソルを合わせると、信介はエンターキー押した。
画面には、『玉繭会合併吸収計画』という文字が浮かんだ。
「これから私と悟史、そしてスーの三名は一旦、玉繭会にメンバーとして参加する!」




