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怪盗イタッチ大作戦!!  作者: ピラフドリア
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第48話 『遊園地へ行こう』

怪盗イタッチ大作戦!!




著者:ピラフドリア




第48話

『遊園地へ行こう』





「なんで俺がこんなところに……」




 ぼやくダッチ。その隣でははしゃぐアンが広場を駆け回った。




「ダッチさん、早く来てくださいよ〜!」




「おい、勝手に行くんじゃねぇ」










 一週間前のことだ。隣人がダッチの家を訪れた。




「ん、イタッチか。何の用だ?」




 隣人のイタッチはダッチに封筒を手渡した。




「喫茶店の常連がくれたんだが、店の修復の件で行けないんだ。代わりに使ってくれ」








 その時手渡されたのが、近所にある遊園地のチケット。店長とバイトの娘用に渡したのだろう。大人用と子供用の二枚が入っており、当日予定のなかったダッチは、引き受けてしまった。




「なんで俺がこんな幼稚なところに……」




 後悔をしながらも来てしまったものは仕方がない。ダッチはアンを連れて遊園地を巡る。




「っんで、ガキ。どこ行く?」




「あれやりたいです!!」




 そう言ってアンが指さしたのは、一回転するジェットコースター。

 乗り物に乗っている乗客は絶叫している。




 その様子を見たダッチは少しだけ期待をする。




「こいつは楽しそうだ」




 アンを連れてダッチはジェットコースターに向かうが、並ぼうとすると店員が駆けつけてくる。




「すみません。こちら身長制限がありまして。そちらのお子様は乗れないんです」




 結局ジェットコースターには乗れずに、二人は諦める。




「乗れませんでした」




 耳を畳んで悲しそうになるアン。




「お前はチビガキだからな」




「ダッチさんは乗らなくてよかったんですか?」




「……良いんだよ」




 アンを一人にするわけにもいかず、諦めたことをダッチは言えずにそっぽを向く。

 そっぽを向いたダッチはさっきのジェットコースターの反対にあるもう一つのジェットコースターを発見した。




「あれなら子供も乗れるみたいだぞ」







 今度は身長制限にも引っかからず、無事にジェットコースターに乗ることができた。

 二人はコースターの真ん中辺りの席に座り、ボルトが閉められた。




「こっちはあれより速度出ませんが、ワクワクしますね」




「ッチ。ガキのくせに距離と時間で速度計算してるんじゃねーよ」




 ぱっと見の距離と一つ前のコースターが出発して帰ってくる時間から、アンがどれくらいの速度が出ていたのかを計算する。

 隣で変わった楽しみ方をするアンに呆れている中、ジェットコースターが進み出した。




 カタカタと音を立てながらコースターが山を登る。この山はこの遊園地で一番高いアトラクションだ。




「登ってますよ、登ってますよ!!」




「見れば分かるよ」




 山を登り切ると、ジェットコースターが急降下する。身体が引っ張られて、耳が大きく揺れる。




「……こんな絶叫いつもの仕事に比べれば」




 隣でアンが叫ぶ中、ダッチは呟いた。だが、その呟いた言葉にデジャヴを感じる。




 そんなこと前に言ったことはない。だが、心がモヤモヤする。




 ジェットコースターが螺旋状のコースを降ると、ダッチはそのデジャヴを思い出した。




 それは小さな頃。故郷の国で連れられていった遊園地。

 ソフトクリームを持って、前を歩く大きな亀の甲羅を追う光景。




「……そんなこともあったか…………」




 気がつけばコースターは一周回り、アトラクションが終わる。

 ベルトが外されて、降りようとするアンがコースターの高さに苦戦して降りられずにいると、後ろからダッチがアンを持ち上げて外に出した。




「ありがとうございます」




 礼を言うアン。ダッチも外に出ると、アンの背中を押した。




「次行くぞ次、一日は短いぞ」




 サングラスで見えないダッチの顔。だが、声からその表情はアンに読み取れた。




「はい!」




 元気よく返事をして次のアトラクションへ向かう。




 次についたのは自転車を漕いで進めることができるアトラクションだ。

 二人乗りと一人乗りがあり、レールは坂道などもある。




「お前、自転車なんて漕げるのか?」




「漕げますよぉ〜」




 二人乗りのアトラクションに乗り、二人で一緒に漕いで進む。

 しかし、アトラクションの半分に行く前に、




「疲れました〜」




「おい!!」




 疲れたアンが漕ぐのをやめる。結局そこから先はダッチだけが漕ぎ、アトラクションを一周した頃には、ダッチはヘトヘトになっていた。




「はぁはぁ、ガキ……お前のせいで明日筋肉痛だぞ、これは……」




 疲れ切ったダッチが文句を言う。アンはそんなダッチの足を指で突く。

 ダッチは身体を震わせて、痛がった。




「やめろ!!」




「ダッチさんも運動不足だから行けないんです。ほら、次行きましょ、時間は短いんですよね」




 笑顔で進んでいくアン。足を叩いて気合を入れたダッチは愚痴りながら追いかけた。




「あんなこと言うんじゃなかった……」




 次に入ったのはお化け屋敷。中からは叫び声が聞こえるが、二人は一度も怖がることなく進んでいく。




 お化け役の人達が飛び出して脅かそうとしてくるが、ダッチの顔を見ると怯えて逆に隠れてしまう。




「なんでお化けに怖がられるんだ」




「ダッチさんの顔が怖いんですよ」




「俺そんなに怖いか?」




 暗がりの中、ダッチは確認してもらおうとアンの方を向く。




「はい、迫力がヤバいです」




 お化け屋敷を出て、次はゴーカート。運転をアンに任せて、ダッチは助手席で腕を組む。




「採点したりしないでくださいよ」




「教習所じゃねーんだ。するかよ。子供のお遊びに口出しするか」




 アンはアクセルを踏み、ゴーカートを進める。しかし、アンの運転を見たダッチは無言であることを思った。




 ……こいつ運転上手くね?




 一度も壁にぶつからず、最高速度で一周して、アンはタイムアタックの記録を塗り替えた。




「なぁ、今度仕事の時運転しないか?」




「やめときます。イタッチさんやダッチさんの方が上手いですし」




「…………それは、どうだろうな」




 アトラクションを巡り、陽が赤く染まる。トイレを見つけ、ダッチはアンに待っているように伝えて、便所に入る。




 お手洗いを済ませたダッチが手を洗っていると、隣の洗面所に同じように手を洗う人が現れる。




 ハンカチを取り出して手を拭くと、隣の人物も手を拭き終えると、




「動くな」




 ハンカチに隠していた拳銃をダッチに向けた。




「……お前は」




 拳銃を向けてくる虎。その顔にダッチは見覚えがある。




「なんでお前がここにいる。ウンラン」




「……俺はお前に宣戦布告していることを忘れてないよな」




「なんだ、忘れられたか心配できたのか? しつこい奴は嫌われるぜ」




 ウンランは銃をしまい、ダッチに背を向ける。




「ダッチ、覚えているか? 俺とお前の出会いを……」




「覚えねぇな。お前みたいな面倒な奴との思い出なんて、忘れたよ。……なんだ、思い出話にでも来たのか?」




「そうか……」




 ウンランは小さく呟き、そして、




「もう時期準備が完了する。その時は覚悟しろ」




 便所を出て姿を消した。ダッチはウンランを追って外に出るが、ウンランを見つけることができない。




「あいつ……」




 ダッチは急いでアンと合流しようと探す。しかし、周りを見渡すが、アンの姿も見えない。




「まさか、ウンランのやつ」




 ダッチは走って探し回る。休日の遊園地、人混みをかき分けて進むがなかなか前に進めない。

 焦るダッチの手を何かが掴んだ。




「ダッチさん、どこ行こうとしてるんですか!」




 ダッチが下を向くと、そこにはアンがダッチの手を引っ張っていた。




「アン、無事だったのか!」




「無事って……私は言われた通り待ってたんですよ、そしたらダッチさんが走り出して……」




 ダッチが探していた時、丁度人影に隠れ見えなかったようだ。




 ダッチはホッと息を吐く。その様子にアンは不思議に思い聞く。




「何かあったんですか?」




 心配するアン。ダッチの様子から何か起きたのは確実だ。

 しかし、ダッチは否定する。




「……いや、何でもない」




 そしてアンを連れて遊園地を出ようとする。




 早足になり、急ぐダッチをアンは止めた。




「待ってください」




「なんだよ」




「最後に一つだけ」




 出口の前でアンは遊園地の奥にあるアトラクションを指さした。

 それは他のアトラクションに比べて一際大きく、円状のもの。




「観覧車?」




 狭い空間で逃げ場がなく、襲撃されると抵抗の手段が限定される。




「ダメだ。帰るぞ」




「なんでですか?」




「それは……なんでもだ!!」




 何があったのか説明をしないダッチは、ただ否定することしかできない。

 しかし、アンは出入りの人混みから離れて、観覧車の方へと走る。




「おい、ガキ!!」




「早く来てください」




 ダッチはアンを追いかけて、観覧車の前まで来る。すると、アンは振り返り、ダッチに笑顔を向けた。




「何もなかったんですよね。なら大丈夫です。それにダッチさんがいれば、何があっても安心です」




 ダッチは前足で耳を掻くと、観覧車の入り口へと歩き出した。




「乗るならさっさと乗れ。俺は早く帰りたいんだ」










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