第九話 王女様は冒険者になりたいようです
第九話 王女様は冒険者になりたいようです
現在の戦績。
破局〇組。
恋愛成就八組。
帰還まで残り二十組。
「なんでなの」
私は机へ突っ伏していた。
もう最近は毎朝これである。
使用人達も慣れたらしい。
誰も心配しない。
公爵令嬢が朝から机へ突っ伏していても誰も気にしない家ってどうなのだろう。
その時だった。
窓の外が光った。
反射でクッションを投げる。
ドゴッ。
「痛っ!」
命中。
最近百発百中だった。
女神が涙目になっている。
少しだけ申し訳なくなった。
少しだけ。
「九組目です」
「帰れ」
「それ先に言うんですね」
「慣れた」
女神は深いため息を吐くと資料を置いた。
私は読む。
そして。
眉をひそめた。
今回の相手は王女だった。
第三王女アイリス。
十七歳。
剣術好き。
冒険譚好き。
城の生活が嫌い。
自由を愛するお姫様。
そして恋の相手は。
若き冒険者レオン。
平民。
剣士。
とても爽やか。
絶対人気出るやつだった。
「なるほど」
私は頷いた。
今度は簡単だ。
冒険者になりたい王女。
その夢を叶えれば恋愛どころではなくなる。
完璧である。
「その顔やめてください」
女神が言った。
失礼だった。
翌日。
私は王都を飛んでいた。
文字通り。
飛行能力はやはり便利だった。
貴族令嬢としてどうかと思うけど。
空の上から王城を見下ろす。
そして発見した。
王女。
庭園。
そして冒険者。
見つめ合う二人。
最近こればっかり見ている気がする。
私はため息を吐いた。
まずは接触だ。
私は変装能力を使った。
冒険者ギルド職員へ変身。
完璧。
そして王女へ近付いた。
「冒険者試験?」
アイリスが目を輝かせた。
「はい」
私は頷く。
「合格すれば自由です」
嘘だった。
かなり。
「受けます!」
よし。
掛かった。
恋愛より夢である。
王道少女漫画の逆を行けば勝てる。
私はそう思った。
三日後。
王女は冒険者試験を受けた。
合格した。
さらに。
護衛役としてレオンが付くことになった。
「なんで?」
私は真顔になった。
意味が分からない。
どうやら王族だかららしい。
危険だかららしい。
結果。
二人きりの旅が始まった。
終了である。
いやまだだ。
私は諦めない。
旅の途中で仲違いさせればいい。
私は尾行を開始した。
超視覚。
超聴覚。
加速装置。
全開。
もはや国家機密レベルの追跡だった。
そして。
事件は起きた。
山賊襲来。
絶好の機会だった。
私は思った。
ここでレオンが失敗すればいい。
少しだけ。
本当に少しだけ。
だが。
山賊の数が多すぎた。
王女が危ない。
私は反射的に飛び出していた。
怪力発動。
山賊吹き飛ぶ。
加速発動。
武器回収。
飛行能力発動。
山賊全員木の上へ吊るす。
十分後。
戦闘終了。
「凄い……」
アイリスが呟く。
まずい。
目立った。
すると。
彼女はレオンを見る。
「私」
嫌な予感。
凄く嫌な予感。
「レオンが来てくれたから怖くなかった」
私じゃないの!?
私頑張ったよ!?
木に吊るしたよ!?
関係なかった。
レオンが笑う。
王女も笑う。
終了。
さらに旅は続く。
森。
川。
山。
洞窟。
その度に私は妨害した。
つもりだった。
橋を壊そうとして補強した。
地図を隠そうとして最短ルートを作った。
荷物を減らそうとして便利な野営地を発見した。
全て逆効果だった。
天才とはなんだったのか。
そして旅の終点。
竜の湖。
夕暮れ。
湖面が輝く。
恋愛イベントの匂いしかしない。
私は最後の妨害を決行した。
湖へ巨大な岩を投げ込む。
雰囲気破壊。
完璧。
だが。
怪力百万馬力で投げた岩は。
湖の底を貫通した。
温泉が湧いた。
絶景になった。
カップル向け名所が誕生した。
王女が感動した。
レオンも感動した。
告白した。
受け入れられた。
終了。
完全敗北。
私は湖へ顔を突っ込んだ。
冷たかった。
後日。
二人の婚約が発表された。
王国中が祝福した。
冒険好き王女と若き英雄。
とても人気だった。
私は壁を殴った。
怪力で屋敷が少し揺れた。
その時。
エリオットが訪ねてきた。
最近やたら来る。
「大丈夫ですか」
「大丈夫じゃない」
正直だった。
「何か嫌なことでも」
「凄くある」
エリオットは少し困ったように笑う。
最近気付いた。
この人よく笑う。
そして話を聞いてくれる。
新人時代の後輩達と違って逃げない。
根性あるなあと感心した。
「お茶でも飲みませんか」
「飲む」
即答だった。
悩みがある時は甘い物である。
恋愛より仕事。
恋愛よりお菓子。
これが前世から変わらない私の価値観だった。
だから。
お茶を淹れてくれるエリオットが毎回少し嬉しそうな顔をしている理由も。
私にはさっぱり分からなかったのである。




