第十話 亡国の王女は恋を諦めたいようです
第十話 亡国の王女は恋を諦めたいようです
現在の戦績。
破局〇組。
恋愛成就九組。
帰還まで残り二十組。
「そろそろ誰か褒めてくれてもよくない?」
私は庭園でお茶を飲みながら呟いた。
女神は無言だった。
最近は励ますことすら放棄している。
酷い話である。
「九人も幸せにしたんだよ?」
「本来は破局させるはずでした」
「細かいことはいいの」
「良くありません」
融通が利かない神だった。
私は資料を開く。
十人目。
区切りの相手である。
今回は少し事情が重かった。
ローゼ王国第一王女。
アリアナ。
王位継承権第一位。
そして恋の相手は。
滅ぼされた敵国の王子。
カイル。
なるほど。
重い。
非常に重い。
「昼ドラかな」
「昼ドラではありません」
「知らない世界なのに反応が早いね」
女神は視線を逸らした。
怪しい。
とても怪しい。
だが今はいい。
問題は目の前の恋愛である。
両国は戦争をした。
敵同士だった。
多くの兵が死んだ。
国も滅んだ。
普通なら結ばれない。
つまり。
私の出番である。
今度こそ勝てる。
私は珍しく本気で確信していた。
数日後。
私は調査を開始した。
超視覚。
超聴覚。
飛行能力。
全部使用。
結果。
状況は予想以上に深刻だった。
二人とも相思相愛。
だが結ばれない。
周囲が許さない。
貴族も。
軍人も。
民衆も。
誰も許さない。
完璧だった。
こんなの邪魔する必要すらない。
放置で終わる。
勝った。
私は勝利の紅茶を飲んだ。
おいしかった。
しかし。
人生とは理不尽である。
一週間後。
アリアナが家出した。
理由。
カイルと駆け落ちするため。
「なんで!?」
私は叫んだ。
放っておけば自然消滅だったではないか。
すると女神が言う。
「放置すると失敗フラグが回収される世界ですから」
「意味が分からない」
本当に意味が分からなかった。
私は慌てて追跡する。
夜の森。
王女。
元王子。
二人がいる。
「よし」
私は考えた。
捕まえればいい。
単純。
シンプル。
これなら失敗しない。
私は加速装置を発動した。
世界が遅くなる。
風が止まる。
葉が止まる。
私は二人へ近付いた。
その時だった。
アリアナの足元が崩れた。
崖だった。
王女が落ちる。
「うわっ!」
私は反射的に飛び込んだ。
怪力発動。
王女救出。
ついでにカイルも救出。
さらに崖そのものを支える。
完璧な救助だった。
そして。
最悪だった。
「ミレイユ様」
アリアナが涙ぐむ。
嫌な予感。
「私達を認めてくださるのですか」
「違う」
「命懸けで助けてくださった」
「違う」
「ありがとうございます」
違うのである。
本当に違う。
だが二人は聞いていない。
その後。
二人は王都へ戻った。
そして。
私が味方したと盛大に誤解した。
ローゼンタール公爵家は王国最大の名門である。
影響力は凄い。
結果。
王国中がこう思った。
あのミレイユが支持するなら。
きっと意味があるのだろう。
意味などなかった。
だが。
周囲は勝手に納得した。
戦争終結。
国交改善。
婚約成立。
大祝福。
はい終了。
十人目である。
私は広場の噴水前で膝から崩れ落ちた。
何もしていない。
いや。
むしろ邪魔しかしていない。
それなのになぜ。
「ミレイユ様!」
聞き覚えのある声。
振り向く。
嫌な予感しかしない。
案の定。
今まで結婚した人達がいた。
聖女。
王女。
令嬢。
騎士。
王子。
獣人姫。
魔術師。
全員集合である。
最悪だ。
「十組目です!」
「違う」
「恋の恩人です!」
「違う」
「縁結びの聖女様です!」
「違う!」
誰も聞いてくれなかった。
すると。
突然。
拍手が響いた。
一人の老人が言う。
「この方のおかげで娘が幸せになった」
次の人が言った。
「息子が結婚できた」
さらに別の人が言った。
「私達の家も救われた」
拍手。
拍手。
拍手。
私は青ざめた。
まずい。
とてもまずい。
噂というものは大抵ここから始まる。
案の定だった。
翌月。
王都で変な像が建った。
私の像だった。
なぜ。
翌々月。
恋愛成就祈願祭が始まった。
なぜ。
さらに翌月。
縁結びの聖女ミレイユなる呼び名が定着した。
本当にやめてほしい。
そしてその夜。
女神が現れた。
私は無言でクッションを投げた。
避けられた。
悔しい。
「十組目です」
「帰れ」
「恋愛成就が」
私は机に突っ伏した。
すると。
隣に紅茶が置かれる。
顔を上げる。
エリオットだった。
「お疲れですね」
「疲れた」
正直だった。
「少し休まれては」
「そうする」
エリオットは微笑んだ。
優しい笑みだった。
私は何となく安心した。
仕事で失敗した時に。
こうしてお茶を淹れてくれる人がいるのは悪くないなと思った。
そして。
その感想を女神が聞いていた。
女神は空を見上げた。
「この人本当に気付かないなあ」
何か言っていた気がするが。
私は紅茶に集中していたので全く聞いていなかったのである。




