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第八話 魔女は弟子を取りたいようです

 第八話 魔女は弟子を取りたいようです


 現在の戦績。


 破局〇組。


 恋愛成就七組。


 帰還まで残り二十組。


「そろそろおかしいとかいう次元じゃない」


 私は真顔で呟いた。


 七連敗である。


 野球なら完全試合を食らっている。


 戦争なら国家が滅ぶ。


 にもかかわらず私はまだ諦めていなかった。


 前世で培った社会人根性は伊達ではない。


 多分。


 きっと。


 恐らく。


 そんなことを考えていると窓が光った。


 もう条件反射でクッションを投げる。


「ぎゃっ」


 命中。


 女神の額に直撃した。


 珍しく避けなかったらしい。


 少しだけ気分が良くなった。


「八組目です」


「帰れ」


「理不尽です」


「私の方が理不尽だよ」


 女神はぶつぶつ言いながら資料を差し出した。


 私は受け取る。


 読む。


 そして。


 笑った。


 勝った。


 今回は勝った。


 絶対に勝った。


 今回の標的は。


 天才魔術師ソフィア。


 そして。


 その弟子である少年ルーク。


 年齢差。


 師弟関係。


 しかも双方無自覚。


 周囲だけが気付いている状態。


 これは恋愛に発展する前に潰せる。


 完璧である。


「その顔やめてもらえます?」


 女神が不安そうに言った。


 私は満面の笑みだった。


 翌日。


 私は調査へ向かった。


 王立魔術学院。


 巨大な塔。


 膨大な蔵書。


 そして。


 研究以外何も興味がなさそうなソフィア。


 二十歳。


 宮廷魔導師。


 史上最年少。


 天才。


 美人。


 だが変人。


 資料の余白に研究メモがあった。


 恋愛経験ゼロ。


 よし。


 勝てる。


 私は確信した。


 まずはソフィアへ接触する。


 変装能力発動。


 老魔術師へ変身。


 完璧。


 私は研究室へ侵入した。


「恋愛は研究の敵ですぞ」


 第一声だった。


 我ながら分かりやすい。


 ソフィアは眼鏡越しにこちらを見る。


「そうなんですか?」


「そうですぞ」


「なるほど」


 よし。


 素直。


 扱いやすい。


 私は畳み掛けた。


「弟子など取っている場合ではありません」


「確かに」


「恋愛など無意味」


「確かに」


「研究こそ人生」


「確かに」


 私は勝利を確信した。


 だが。


 その一週間後。


 ソフィアは弟子のルークへ以前より優しくなっていた。


 意味が分からない。


 調査開始。


 超聴覚。


 結果判明。


 ソフィアは私の言葉をこう解釈していた。


 研究に集中するため弟子へ仕事を任せよう。


 結果。


 二人で過ごす時間が増えた。


 終わった。


 本当に終わった。


 私は第二作戦へ移行した。


 弟子を遠ざける。


 これである。


 シンプルだ。


 私はルークの机に偽手紙を置いた。


 内容は辺境への推薦状。


 魔術研究留学。


 期間五年。


 完璧だった。


 若者は旅立つ。


 先生は残る。


 恋愛終了。


 勝利。


 だが。


 数日後。


 学院中が騒がしくなった。


 理由。


 ソフィアも同行することになった。


「なんで!?」


 私は叫んだ。


 どうやら。


 弟子一人では心配だかららしい。


 保護者か。


 保護者なのか。


 そして旅立ちの日。


 私は最後の作戦を決行する。


 強制的に別行動。


 これだ。


 私は夜中に荷馬車を移動させた。


 怪力で。


 持ち上げて。


 五キロほど。


 完璧。


 朝になれば別々の街へ行く。


 終わり。


 そう思った。


 思ったのだ。


 しかし。


 荷馬車を運ぶ途中で橋が崩れた。


 老朽化だった。


 私は反射的に橋を支えた。


 さらに通行人も助けた。


 ついでに荷馬車も守った。


 結果。


 学院中で話題になる。


 ソフィアとルークも現場へ来る。


 私。


 まだ荷馬車を担いでいる。


「凄い……」


 ソフィアが呟く。


 ルークも驚いている。


 やめろ。


 見ないでほしい。


 その時だった。


 ソフィアが言う。


「やっぱり二人の方が効率良いですね」


「え?」


「困難は協力して越えるべきです」


 誰のせいだと思っている。


 結果。


 二人旅決定。


 私の妨害終了。


 一年後。


 帰ってきた二人は婚約していた。


 もう驚かない。


 私は成長した。


 少しだけ。


 ほんの少しだけ。


 そして祝賀会。


 ソフィアがやってくる。


 嫌な予感しかしない。


「ミレイユさん」


 笑顔だった。


 天才魔術師が笑うと破壊力が高い。


「ありがとうございました」


「違う」


 反射である。


 もう癖になっている。


「研究ばかりの私に」


「違う」


「人と歩く大切さを教えてくれました」


「違う」


「人生の師匠です」


「違う!」


 周囲から拍手が起きた。


 何故。


 本当に何故。


 私は恋愛妨害業者だ。


 人生相談員ではない。


 その夜。


 女神が現れる。


 私は無言でクッションを構えた。


 女神も無言で盾を構えた。


 最近慣れてきている。


 腹立たしい。


「八組目です」


「帰れ」


「恋愛成就が」


 私は投げた。


 防がれた。


 悔しい。


 すると女神がぽつりと言う。


「ところで」


「なに」


「エリオットさんがお茶会だけでなく夜会にも誘ってますよ」


 私は首を傾げた。


「暇なのかな」


 女神は頭を抱えた。


 私は本気でそう思ったのである。

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