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第六話 悪役令嬢は恋愛指南書を書きたいようです

 第六話 悪役令嬢は恋愛指南書を書きたいようです


 現在の戦績。


 破局〇組。


 恋愛成就五組。


 帰還まで残り二十組。


「おかしい」


 私は庭園のベンチで頭を抱えていた。


 本当におかしい。


 ここまで五連敗である。


 恋愛妨害のはずが全て恋愛支援になっている。


 もしかすると私は恋愛の才能があるのではないかと一瞬思ったが即座に否定した。


 前世で彼氏が一人もいなかった女にそんな才能があるはずがない。


 その時だった。


 空から光が降ってくる。


 もう説明不要である。


 女神だ。


「六組目です」


「帰れ」


「今回は自信ありますか」


「ある」


 女神が驚いた顔をした。


 失礼な神だった。


 私は資料を受け取る。


 ふむ。


 なるほど。


 確かに今回はいける。


 相手は侯爵令嬢クラリッサ。


 そして相手の男性は学院教師のアルフレッド。


 年齢差恋愛である。


 しかも問題があった。


 二人とも奥手だった。


 驚くほど奥手だった。


 聞けば一年以上片想いしているらしい。


 にも関わらず進展ゼロ。


 話すだけ。


 挨拶だけ。


 たまにお茶。


 それだけ。


 恋人ですらない。


 ここへ割り込めば勝ちである。


 私はほくそ笑んだ。


「今回はいける」


「前も聞きました」


「帰れ」


 女神は帰った。


 殴れないのが悔しい。


 翌日。


 私は調査を開始した。


 超視覚。


 超聴覚。


 加速装置。


 全部発動。


 その結果。


 分かった。


 二人とも恋愛経験ゼロだった。


 私は勝利を確信した。


 素人同士なら簡単である。


 とりあえず恋愛の危険性を教え込めばいい。


 私は変装能力で占い師に化けた。


 完璧だった。


 自分でも惚れ惚れする変装技術である。


 そしてクラリッサへ接触した。


「恋は危険ですよ」


 私が言う。


「危険ですか?」


「はい」


 私は真顔で頷いた。


「男というものはですね」


「はい」


「部屋を散らかします」


「え?」


「靴下をその辺へ脱ぎ捨てます」


「そ、そうなんですか?」


「朝は寝坊します」


 私は前世の会社の男性社員達を思い出していた。


 だいたいそんな感じだった。


 するとクラリッサは深刻そうな顔になる。


 よし。


 効いている。


 勝った。


 そう思った。


 翌日。


 アルフレッドが学院へ現れた。


 何故か身だしなみ完璧。


 靴も綺麗。


 服も綺麗。


 寝坊もしない。


 どうやらクラリッサが遠回しに注意したらしい。


 結果。


 好感度上昇。


 なんで。


 私は意味が分からなかった。


 次の作戦へ移行する。


 今度は手紙作戦である。


 私はクラリッサへ恋愛指南書を送りつけた。


 題名。


 男が百年の恋も冷める女性の行動百選。


 完全オリジナル。


 徹夜で書いた。


 努力した。


 偉い。


 その内容は。


 食事中ずっと仕事の話をする。


 会話の途中で帳簿を確認する。


 褒められても経費削減を提案する。


 などである。


 前世の私だった。


 今思うとひどい。


 だが効果は抜群のはずだ。


 そう思っていた。


 一週間後までは。


 私は超聴覚で二人を観察した。


 すると。


 クラリッサが真剣な顔で話している。


 嫌な予感。


「私はこういう女性なんです」


「なるほど」


 アルフレッドが頷く。


「恋愛より仕事を優先するかもしれません」


「素晴らしいですね」


 は?


「責任感が強い女性は尊敬できます」


 は?


「むしろ私はそういう方が好きです」


 は?


 私は思わず生垣へ頭から突っ込んだ。


 意味が分からない。


 さらに最悪なことに。


 クラリッサは顔を赤くしていた。


 好感度が爆上がりしている。


 どうして。


 世の中おかしい。


 そして運命の日が来た。


 学院祭である。


 ここで必ず告白するらしい。


 私は決意した。


 絶対に邪魔する。


 今度こそ。


 私は空を飛んだ。


 学院上空。


 風になる。


 そして怪力で巨大な横断幕を持ち上げる。


 告白現場へ落とす。


 完璧。


 雰囲気崩壊。


 勝利確定。


 しかし。


 放り投げた瞬間。


 強風が吹いた。


 横断幕が反転した。


 嫌な予感。


 そこには。


 私が練習で書いていた文章が。


 でかでかと書かれていた。


『好きなら言えばいいじゃない』


 沈黙。


 学院中が静まり返る。


 全員が見る。


 当然。


 クラリッサも見る。


 アルフレッドも見る。


 そして。


 告白。


 成功。


 大歓声。


 拍手。


 祝福。


 紙吹雪。


 私は屋根の上で膝をついた。


 終わった。


 何もかも終わった。


 さらにその夜。


 二人が私の屋敷へ来た。


 なぜ。


 本当にやめてほしい。


「ミレイユ様」


 クラリッサが涙ぐむ。


 嫌な予感しかしない。


「ありがとうございました」


「違う」


「背中を押していただきました」


「違う」


「おかげで幸せになれます」


「違う」


 アルフレッドまで頭を下げる。


「恋愛の先生ですね」


「違う!」


 大声だった。


 屋敷にいた使用人達が全員振り返った。


 私は泣きそうだった。


 その夜。


 女神が現れる。


 もはや日課だった。


「六組目です」


「帰れ」


「恋愛成就が」


 私は枕を投げた。


 避けられた。


 悔しい。


 そして。


 女神は少し笑った。


「ところで」


「なに」


「エリオットさんからお茶会の誘いが来ていますよ」


 私は首を傾げた。


「なんで?」


 女神は遠い目をした。


「それを二十話くらいかけて理解するんだと思います」


 意味が分からなかった。


 本当に分からなかった。

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