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第五話 転生令嬢は恋文を書きたいようです

 第五話 転生令嬢は恋文を書きたいようです


 現在の戦績。


 破局〇組。


 恋愛成就四組。


 帰還まで残り二十組。


「いや減ってないからね?」


 私は真剣に抗議した。


 女神にである。


 ここまで四組も成立しているのに帰還条件の数字が全く減っていない。


 どう考えても詐欺だ。


 悪徳神だ。


 神界労働基準監督署へ通報したい。


「破局数が条件ですから」


 女神は平然としていた。


 殴りたい。


 物理的に。


 たぶん無理だけど。


 そして今回。


 五組目の標的が現れた。


 転生令嬢リリーナ。


 伯爵家の次女。


 しかも私と同じ転生者である。


 相手は騎士見習いのユリウス。


 貴族令嬢と平民騎士の恋愛。


 実に王道だ。


「今回はいける」


 私は断言した。


 女神が露骨に嫌そうな顔をした。


 失礼である。


 しかし今回は本当に勝算があった。


 なぜなら。


 リリーナは極度の人見知りだった。


 恋文を書いては破る。


 書いては破る。


 会いに行こうとして逃げる。


 そんな毎日を繰り返していた。


 つまり。


 恋文さえ届かなければ終了なのだ。


 簡単である。


 私は勝利を確信した。


 翌日。


 私は屋敷へ潜入した。


 変装能力でメイドへ変身。


 完璧。


 誰も疑わない。


 ついでに掃除までしてしまった。


 職業病だった。


 そして発見する。


 机の引き出し。


 恋文。


 十枚。


 二十枚。


 三十枚。


 どれだけ書いているのだ。


 恐ろしい執念だった。


 私は全て回収した。


 勝った。


 今回は本当に勝った。


 だが。


 その時だった。


 部屋の扉が開く。


 リリーナだった。


 まずい。


 私は咄嗟に窓から逃げた。


 逃げる途中で。


 恋文をばらまいた。


 風に乗って。


 全部。


 王都の空へ。


「あ」


 私の口から漏れた言葉だった。


 数百枚の恋文が。


 王都へ降り注いだ。


 地獄の始まりだった。


 翌日。


 王都中の人間が恋文を読んでいた。


 恋文の内容は凄まじかった。


 純愛だった。


 本気だった。


 全力だった。


 そして。


 読んだ人々が感動していた。


 意味が分からない。


 さらに最悪なことに。


 一通がユリウス本人の手へ渡った。


 終了。


 完全終了。


 恋文を読み終えたユリウス。


 感動。


 泣く。


 走る。


 告白。


 受諾。


 成就。


 早すぎる。


 展開が音速である。


 私は頭を抱えた。


 だがまだ終わらない。


 二人は正式交際を始めた。


 よし。


 ここからだ。


 恋人になってから別れさせる。


 それでいい。


 私は計画を変更した。


 まず喧嘩させる。


 恋愛漫画でよくある。


 誤解を作る。


 そして破局。


 完璧。


 天才である。


 私は超聴覚で二人を追跡した。


 すると。


 会話が聞こえる。


「私」


 リリーナが言う。


「王都中に恋文をばらまいた人には感謝しています」


 私はむせた。


「もしあれがなかったら」


 リリーナは笑う。


 恥ずかしそうに。


 幸せそうに。


「一生告白できませんでしたから」


 ユリウスも微笑む。


「俺もだ」


 終了。


 完全終了。


 私は木から落ちた。


 怪力持ちなので木が折れた。


 少しスッキリした。


 さらに一年後。


 結婚式である。


 もはや驚かない。


 私も成長した。


 会場の隅で現実逃避していると。


 リリーナがやってきた。


 本当に嫌な予感しかしない。


「ミレイユ様」


 笑顔。


 眩しい。


 幸せオーラが酷い。


「ありがとうございました」


「違う」


 反射だった。


 もう条件反射になっている。


「王都中へ恋文を届けてくださったんですよね」


「違う」


「運命って素敵です」


「違う」


「恋の妖精みたいでした」


「違う!」


 誰も信じてくれなかった。


 そしてその夜。


 女神が現れた。


 最近はもう定例会議みたいになっている。


「五組目です」


「帰れ」


「恋愛成就が」


 私は枕を投げた。


 しかし。


 今回は途中で止まった。


 女神が掴んだからではない。


 誰かが窓の外から受け止めたからだった。


 私は驚いて振り返る。


 そこには。


 エリオットがいた。


 最近よく見かける子爵家の青年である。


 彼は少し困った顔をしていた。


「令嬢が枕を投げるのはどうかと思います」


「返して」


「はい」


 素直だった。


 私は少しだけ安心した。


 そして。


 全く気付いていなかった。


 彼が受け止めたのが枕だけではなく。


 恋に不慣れで不器用で。


 誰かの幸せのためにいつも走り回る私自身へも。


 少しずつ心を奪われ始めていることに。


 もちろん。


 恋愛経験ゼロのお局OLだった私はその事実にまるで気付いていなかったのである。

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