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第四話 婚約破棄された令嬢は恋をしたいようです

 第四話 婚約破棄された令嬢は恋をしたいようです


 現在の戦績。


 破局〇組。


 恋愛成就三組。


 帰還まで残り二十組。


「おかしい」


 私は朝から頭を抱えていた。


 本当におかしい。


 経営者が三年連続で赤字決算を出したら自分の経営方針を疑うだろう。


 将軍が三連敗したら作戦を見直すだろう。


 つまり私も恋愛妨害の方法を見直すべきなのだ。


「直接妨害が駄目なら心理戦よ」


 私は立ち上がった。


 天才スキルが導き出した答えだった。


 問題はその天才スキルが今まで一度も役に立っていないことである。


 その時だった。


 窓が光る。


 もう慣れた。


 振り向く。


 女神がいた。


 最近呼び鈴みたいな扱いになっている。


「四組目です」


「帰れ」


「今回は難易度高めです」


「聞いてない」


 女神は資料を置いて消えた。


 本当にマイペースだった。


 私は資料を見る。


 今度の標的。


 伯爵令嬢セシリア。


 十六歳。


 婚約破棄済み。


 相手の男は浮気。


 その結果婚約破棄。


 普通ならここで終わる話だ。


 だが。


 現在。


 別の男と恋愛中。


 相手は王国魔導騎士団所属。


 若き宮廷魔導士。


 アーノルド。


 しかも互いに好意あり。


 非常にまずい。


「なるほど」


 私は頷いた。


 今回は簡単だ。


 失恋した女は恋愛に慎重になる。


 そこを利用する。


 恋愛恐怖症にしてやればいい。


 完璧だ。


 私は自分の作戦に感動した。


 珍しく成功しそうだった。


 その日の午後。


 私は変装能力を使った。


 老人へ変身。


 白髭。


 猫背。


 完璧。


 そしてセシリアへ接触した。


「恋などやめておきなされ」


 私の第一声だった。


 セシリアは驚く。


 当然だ。


 知らない老人がいきなり恋するなと言ってきたのだから。


「なぜですか?」


「男は裏切る」


 私は断言した。


「男は浮気する」


 セシリアの顔が曇る。


 よし。


 効いている。


 私はさらに続けた。


「男など信用するな」


「……」


「一人で生きるのじゃ」


 完璧だった。


 恋愛漫画なら熟練の長老ポジションである。


 何も間違っていない。


 しかし。


 セシリアは静かに言った。


「それでも」


 嫌な予感。


 私は知っている。


 こういう台詞から恋愛フラグが立つ。


「それでも人を信じたいんです」


 ああ。


 駄目だこれ。


 知ってる。


 少女漫画で見たことある。


 敗北した。


 その数日後。


 私は第二作戦へ移行した。


 恋文作戦である。


 アーノルドからの手紙を回収し。


 代わりに別れの手紙を置く。


 完璧。


 私は加速装置を起動した。


 世界が遅くなる。


 人が止まる。


 風が止まる。


 私は手紙を発見した。


 そして入れ替えた。


 勝った。


 今度こそ。


 だが翌日。


 二人は抱き合っていた。


 意味が分からない。


 調査開始。


 超聴覚。


 結果判明。


 偽手紙を受け取ったセシリアが泣いた。


 アーノルドが慌てた。


 説明した。


 誤解だった。


 二人の仲が深まった。


 終了。


 私は壁へ頭を打ち付けた。


 痛かった。


 怪力持ちなので壁も壊れた。


 さらに一週間後。


 二人は舞踏会へ出席した。


 私は考えた。


 今回こそ。


 今回こそ絶対に妨害する。


 私は飛んだ。


 夜空を。


 文字通り。


 空中から会場へ侵入した。


 だが。


 運悪く。


 私が着地した場所はシャンデリアの上だった。


 嫌な音がした。


 ミシッ。


 沈黙。


 ミシミシッ。


「あ」


 落ちた。


 巨大シャンデリアが。


 会場中央へ。


 私は青ざめる。


 終わった。


 死人が出る。


 しかし。


 その瞬間。


 アーノルドが動いた。


 セシリアを庇った。


 さらに私も反射的に怪力でシャンデリアを支えた。


 結果。


 二人で支える形になった。


 会場大歓声。


 なぜ。


 セシリア涙目。


「アーノルド様!」


「セシリア!」


 見つめ合う。


 舞踏会参加者拍手。


 王族感動。


 楽団演奏開始。


 即席プロポーズ発生。


 私はシャンデリアを持ちながら現実逃避した。


 翌月。


 婚約成立。


 半年後。


 結婚式。


 一年後。


 第一子誕生。


 早い。


 何もかも早い。


 私は教会の屋根に座っていた。


 敗者である。


 すると。


 セシリアがやってきた。


 最悪だった。


 嫌な予感しかしない。


「ミレイユ様」


 笑顔。


 満面の笑み。


 幸せ満開。


 私は敗北を悟った。


「ありがとうございました」


「違う」


「人生を変えてくださって」


「違う」


「恋の大切さを教えてくださって」


「違う」


「人生の恩人です」


 私は天を仰いだ。


 なぜだ。


 私は恋愛破壊者である。


 恋愛救世主ではない。


 だが。


 誰も分かってくれない。


 その夜。


 女神が現れた。


 最近タイミングが良すぎて腹が立つ。


「四組目です」


「帰れ」


「恋愛成就が」


 私は枕を投げた。


 今度は避けられた。


 学習したらしい。


 少し悔しかった。


 そして。


 私は気付いていなかった。


 窓の外から。


 こちらを見ている青年がいたことに。


 茶色の髪。


 整った顔。


 穏やかな笑み。


 ローゼンタール公爵家と交流のある若き子爵。


 エリオット・アークライト。


 彼は私が恋愛妨害に失敗していることも。


 女神と話していることも。


 何一つ知らない。


 ただ。


 誰かのために必死に走り回り。


 結果として皆を幸せにしている令嬢を。


 少しずつ好きになり始めていた。


 もちろん。


 恋愛経験ゼロの私はその視線に気付くことすらなかった。

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