第三話 獣人姫は駆け落ちしたいようです
第三話 獣人姫は駆け落ちしたいようです
現在の戦績。
破局〇組。
恋愛成就二組。
帰還まで残り二十組。
「おかしくない?」
私は真剣に考えていた。
ベッドの上で寝転がりながら。
天井を見上げながら。
本当に真剣に。
「おかしいよね?」
誰もいない部屋で呟く。
おかしい。
絶対おかしい。
私は恋愛妨害をしている。
応援しているわけじゃない。
恋愛成就率百パーセントとかいう意味不明な記録を更新するために活動しているわけではない。
なのになぜか全員幸せになっている。
理不尽だった。
その時だった。
窓の外でぴかっと光る。
嫌な予感。
振り向く。
案の定。
女神だった。
「三組目です」
「帰れ」
「頑張ってください」
「話聞け」
聞いていなかった。
私はため息を吐く。
どうせ逃げられない。
資料を見る。
今回の標的は。
獣人王国第三王女。
レナ。
犬耳。
尻尾付き。
可愛い。
そして相手は人間。
辺境伯家次男。
ルーク。
問題があった。
身分差ではない。
種族差だった。
人間と獣人。
両国は仲が悪い。
つまり。
駆け落ち寸前である。
「なるほど」
私は頷いた。
今回は楽勝だ。
駆け落ち前に引き離せばいい。
単純明快。
前回までとは違う。
私は頭が良い。
天才スキル持ちだ。
失敗するはずがない。
数時間後。
私は獣人王国上空を飛んでいた。
文字通り。
飛行能力で。
今思うと本当にどういう原理なのだろうこれ。
女神の趣味だろうか。
城壁を越え。
王宮へ侵入。
超視覚と超聴覚発動。
即発見。
王宮の庭園。
レナとルークがいた。
見つめ合っている。
近い。
距離が近い。
恋愛イベントである。
私は石を投げた。
百メートル先から。
怪力込みで。
結果。
ゴォォォォッ!
隕石みたいな音がした。
庭園の噴水が吹き飛んだ。
やりすぎた。
しかし。
これで雰囲気は壊れる。
そう思った。
思ったのだ。
「レナ!」
ルークが叫ぶ。
「危ない!」
彼は咄嗟に彼女を抱き寄せた。
結果。
超密着。
至近距離。
見つめ合う二人。
「ルーク……」
「レナ……」
終了。
私は撤退した。
敗北が早い。
だがまだだ。
次の日。
私は変装能力を使った。
今回はメイドだ。
完璧な潜入。
私は王女の恋文を回収する。
そして燃やす。
これで終わり。
私は完璧だった。
だが。
恋文を発見した瞬間。
問題が起きた。
王女の部屋に火事が発生した。
偶然だった。
本当に偶然である。
ろうそくが倒れた。
カーテンへ引火した。
私は考える。
恋文を焼く手間が省けた。
ラッキー。
しかし。
王女は部屋の奥にいた。
逃げ遅れている。
「えっ」
まずい。
死なれると困る。
恋愛以前に物語終了である。
私は加速装置起動。
マッハ五。
部屋へ突入。
王女救出。
ついでに恋文も回収。
完璧。
そう思った。
思ったのだ。
だが。
火事の中で王女を抱き抱えながら飛び出した私を。
ルークが目撃した。
「何があった!」
「恋文です!」
私は答えた。
「恋文?」
「あ」
しまった。
口が滑った。
ルークは受け取った。
王女宛の恋文を。
彼女が命がけで守っていた恋文を。
結果。
感動イベント発生。
次の日。
ルークが告白した。
早い。
展開が早い。
だがまだ終わらない。
私は最後の手段を使うことにした。
駆け落ち当日。
港である。
大型船もある。
ここを封鎖する。
私は怪力で船を持ち上げた。
文字通り。
片手で。
百メートルほど移動。
これで出港できない。
勝った。
そう思った。
しかし。
その様子を見た港の人々が驚き。
噂が広まり。
兵士も集まり。
獣人国王まで出てきた。
そして。
目撃した。
王女が真剣な顔でルークを見つめるところを。
「お父様」
王女は頭を下げた。
「私はこの人を愛しています」
ルークも頭を下げた。
「命を懸けても守ります」
周囲が静まり返る。
私は船を持ち上げたまま固まった。
なんで。
なんでこうなる。
すると。
国王がため息を吐いた。
そして。
許可した。
「好きにせよ」
大喝采。
拍手。
歓声。
祝福。
私は船を落とした。
港が半分壊れた。
数か月後。
盛大な結婚式が開かれた。
人間と獣人の歴史的和解。
英雄物語。
愛の奇跡。
新聞。
吟遊詩人。
劇。
全部それだった。
私は遠くから見ていた。
笑顔の二人を。
祝福される二人を。
そして。
王女が私を見つけた。
最悪である。
彼女は駆け寄ってくる。
満面の笑みで。
「ミレイユ様!」
もう嫌な予感しかしない。
「全部あなたのおかげです!」
「違う」
「ありがとうございます!」
「違う」
「命の恩人です!」
「違う」
「恋のキューピッドです!」
「違う!」
誰も聞いてくれなかった。
その夜。
私は枕を抱きながら泣いていた。
女神が現れる。
私は無言だった。
女神は手帳を開く。
「三組目です」
「帰れ」
「恋愛成就が」
私は枕を投げた。
今度は天界まで吹き飛んだらしい。
女神が翌日ギプス姿でやってきた。
少しだけスッキリした。




