第二話 転生聖女は駆け落ちしたいようです
第二話 転生聖女は駆け落ちしたいようです
現在の戦績。
破局〇組。
恋愛成就一組。
帰還まで残り二十組。
「終わった……」
私は自室の机に突っ伏していた。
初戦があそこまで酷い敗北になるとは思わなかった。
恋愛妨害とはこんなにも難しいものだったのか。
いや違う。
単純に私が恋愛を知らないのだ。
前世を思い出してみる。
仕事。
会議。
残業。
新人指導。
仕事。
会議。
残業。
仕事。
終わり。
恋愛イベントが存在しない。
だから今の失敗も仕方ない。
私は悪くない。
そういうことにしておこう。
その時だった。
窓の外が光った。
嫌な予感がする。
案の定。
女神がいた。
本当に暇なのかこの神様。
「二組目が発生しました」
「クエストみたいに言うな」
「頑張ってください」
「帰れ」
帰らなかった。
女神は空中に映像を出した。
そこに映っていたのは銀髪の少女だった。
神殿で働く聖女。
名前はフィリア。
しかも。
彼女も転生者らしい。
「へぇ」
私は少し興味を持った。
フィリアは平民出身の聖女。
そして相手は。
第三騎士団副団長。
若き英雄。
アレン・グランツ。
なるほど。
身分差恋愛だ。
人気が出そう。
「人気が出そうじゃありません」
女神が呆れた顔をした。
「破局させてください」
「分かってるよ」
私は立ち上がった。
今度こそ。
今度こそ成功させる。
まずは情報収集である。
超視力発動。
超聴覚発動。
私は屋敷の屋根へ飛んだ。
さらに加速。
マッハ一。
マッハ二。
マッハ三。
私は凄まじい速度で王都を移動する。
普通に考えれば化物だった。
でも恋愛妨害のためである。
仕方ない。
結果。
半日で調査は終わった。
二人は互いに好意を抱いている。
だが告白はまだ。
つまり今なら間に合う。
勝った。
私は確信した。
数日後。
作戦開始。
最初の作戦は恋文の回収だった。
告白の切っ掛けを潰す。
恋愛漫画でもよくある展開だ。
私は夜の王都を走った。
超聴覚で位置を探る。
発見。
アレンだった。
恋文を持っている。
私は変装能力を発動した。
王都の猫に変身。
完璧。
そして窓から侵入。
恋文へ近寄る。
勝った。
そう思った瞬間だった。
アレンがこちらを見る。
「おお」
何故か目を輝かせた。
「可愛いな」
やめろ。
撫でるな。
私は猫だぞ。
しかも今は潜入任務中だ。
「首輪もないのか」
やめろ。
嫌な予感がする。
三十分後。
私はアレンの膝の上にいた。
何故だ。
恋文は?
手紙は?
気付く。
アレンが何か書き始めた。
恋文だった。
そして。
文末にこう書く。
『追伸 最近うちへ迷い込んできた猫がとても可愛い』
私は固まった。
その恋文。
私のせいで長くなってる。
数日後。
フィリアがそれを読んでいた。
凄く嬉しそうだった。
終了。
一敗。
だがまだだ。
次の作戦。
駆け落ち阻止。
私は二人の密会を発見した。
夜の河川敷。
雰囲気が良い。
だから壊す。
私は空から突撃した。
高度五百メートル。
流星のような速度。
着地。
大爆発。
土煙。
轟音。
完璧。
さあ気まずくなれ。
気まずくなって帰れ。
すると。
フィリアが転びそうになった。
危ない。
私は反射的に怪力で橋を支える。
ついでに飛んでいた瓦礫も全部受け止める。
さらに崩れた土手も片手で直す。
沈黙。
二人が見ていた。
まずい。
私は逃げようとした。
その時。
フィリアが抱き付いた。
アレンに。
「怖かったです!」
「もう大丈夫だ!」
お前かよ。
なぜ私じゃない。
二人は抱き合う。
見つめ合う。
近い。
距離が近い。
やめろ。
私は恋愛妨害中だぞ。
結果。
翌日から交際開始。
なんで。
意味が分からない。
私は枕を殴った。
百個くらい壊れた。
怪力のせいで。
さらに翌月。
最悪の報告が届く。
婚約である。
早い。
展開が早い。
フィリアが神殿を退職した。
アレンが騎士団を辞めた。
そして。
二人は辺境へ移住した。
理由。
平和に暮らしたいから。
完全勝利だった。
二人の。
そして半年後。
私は二人を見に行った。
失敗の原因分析である。
決して悔しさからではない。
本当だ。
辺境の村に到着。
家があった。
畑があった。
笑顔があった。
そして。
子供までいた。
早い。
展開が早すぎる。
私が呆然としていると。
フィリアがこちらへ気付いた。
「ミレイユ様!」
まずい。
逃げよう。
だが遅かった。
彼女は私の手を握る。
「ありがとうございました!」
「え?」
「助けてくれたでしょう!」
違う。
私は邪魔した。
全力で。
だが。
フィリアは笑う。
幸せそうに。
本当に幸せそうに。
「私達が結ばれたのはミレイユ様のおかげです!」
隣でアレンも深く頷いた。
私は天を見上げた。
神様は理不尽である。
帰宅後。
女神が現れた。
私は聞いた。
「今何組目」
女神が答える。
「二組目です」
私は希望を持った。
まだ十八組ある。
女神は続けた。
「恋愛成就が」
私は枕を投げた。
今度は女神の顔面に命中した。
神様なのに。
普通に痛そうな顔をしていた。




