第一話 悪役令嬢は恋を壊したいようです
第一話 悪役令嬢は恋を壊したいようです
私の名前はミレイユ・フォン・ローゼンタール。
公爵家令嬢である。
そして元三十五歳独身会社員でもある。
転生した理由は知らない。
気付いたら豪華な天蓋付きベッドの上で目を覚ましていた。
ちなみに前世の私は恋愛経験ゼロだった。
仕事一筋。
残業大好き。
新人教育担当。
後輩から恐れられるお局様。
そんな人生だった。
だから当然である。
恋愛なんて分からない。
分からないのだが。
目の前の女神は私に無茶振りをしてきた。
「二十組のカップルを破局させてください」
私は紅茶を吹いた。
「は?」
「二十組です」
「なんで」
「そういう契約です」
「そんな契約した覚えないんだけど」
女神は無視した。
本当に神様なのだろうかこの人。
「成功したら元の世界へ帰れます」
「帰れるの?」
「帰れます」
私は考えた。
正直言って前の世界に未練はない。
だが異世界も不安である。
よし。
やろう。
私は決意した。
こうして悪役令嬢ミレイユの恋愛破壊作戦が始まったのである。
ちなみに与えられた能力は。
加速装置。
飛行能力。
怪力百万馬力。
超視聴覚。
変装能力。
紅蓮の炎。
深海活動。
人間兵器。
天才頭脳。
「世界征服できない?」
「恋愛妨害用です」
「絶対違うよね!?」
女神は笑顔だった。
後で殴ろうと思った。
無理だけど。
最初の標的はすぐ見つかった。
王立学園の中庭。
聖女アリアと第一王子レオナルド。
どう見ても恋愛イベントだった。
木漏れ日。
花壇。
二人きり。
微笑み合う男女。
完璧だ。
「壊そう」
私は冷静に判断した。
まずは接触阻止である。
二人が会わなければ恋は始まらない。
簡単な話だ。
私は加速装置を起動した。
奥歯のスイッチを噛む。
世界が遅くなる。
風が止まる。
鳥が静止する。
人も止まる。
私だけが超高速で動く。
素晴らしい。
私は二人の間へ向かった。
そして。
王子のポケットから恋文を盗もうとした。
その瞬間だった。
足元の小石に躓いた。
「え?」
加速状態の私は音速近くで転倒した。
結果。
ものすごい勢いで花壇へ突っ込み。
無数の花束を作ってしまった。
偶然だった。
本当に偶然だった。
しかし。
アリアは感動した。
「綺麗……」
王子も感動した。
「君に贈ろう」
「えっ」
「この花束を」
私は花壇に埋まった。
初手失敗である。
その後も頑張った。
頑張ったのだ。
アリアへ偽の脅迫状を送った。
結果。
王子が助けに来た。
二人の仲が深まった。
デート現場を尾行した。
結果。
怪しい男がいると王子がアリアを守った。
仲が深まった。
変装して二人を別々の場所へ誘導した。
結果。
迷った先で偶然再会して運命を感じた。
仲が深まった。
屋上から怪力で巨大な彫像を落とし恋愛イベントを潰そうとした。
結果。
王子がアリアを抱き寄せて助けた。
仲が深まった。
「なんで!?」
私は叫んだ。
理不尽である。
すると女神が笑った。
腹が立つ。
数週間後。
事件は起きた。
アリアが魔物に襲われたのだ。
学園の森で。
危険だった。
かなり危険だった。
私は思った。
別に助けたくない。
だが死なれると困る。
破局カウントにならないから。
私は飛んだ。
文字通り飛んだ。
森へ突入。
超視覚で位置を特定。
加速装置起動。
マッハ五。
魔物の群れを突破。
ついでに怪力で木を全部吹き飛ばす。
さらに口から炎を吐く。
魔物全滅。
「助かったぁ……」
聖女は泣いていた。
私は逃げようとした。
その時。
王子が現れた。
遅い。
本当に遅い。
もう終わった。
しかし。
彼はアリアを抱きしめた。
「無事で良かった」
「レオナルド様」
「君を失うかと思った」
「私もです」
見つめ合う二人。
抱き合う二人。
そして。
キスする二人。
私は森の影で震えた。
「なんでぇ……」
数週間後。
婚約発表が行われた。
聖女アリアと第一王子レオナルド。
国中が祝福した。
学園も祝福した。
教師も祝福した。
生徒も祝福した。
私以外。
その夜。
女神が現れた。
私は期待した。
「一組目失敗です」
絶望した。
だが。
女神は楽しそうだった。
「おめでとうございます」
「何が」
「恋愛成就率百パーセントです」
「要らないそんな才能!」
女神は爆笑していた。
私は枕を投げた。
当たらなかった。
神だから。
こうして。
悪役令嬢ミレイユの恋愛破壊計画は。
記念すべき一組目から大失敗に終わったのである。
現在の成績。
破局〇組。
恋愛成就一組。
帰還まで残り二十組。
先が思いやられる。




