第十七話 錬金術師は家族を作りたいようです
第十七話 錬金術師は家族を作りたいようです
現在の戦績。
破局〇組。
恋愛成就十六組。
帰還まで残り二十組。
「あと四組かぁ」
私は紅茶を飲みながら呟いた。
ここまで来ると逆に感慨深い。
十六組である。
十六人ではない。
十六組。
三十二人分の人生に関与している。
しかも全員幸せになっている。
悔しい。
本当に悔しい。
私だけ置いていかれている気がする。
その時だった。
窓が光る。
反射的にクッションを投げる。
ガシッ。
女神が受け止めた。
最近完全に読まれている。
悔しい。
「十七組目です」
「帰れ」
「あと少しです」
「私もそう思う」
お互い違う意味だった。
私は資料を受け取る。
そして少し考え込んだ。
今回の標的は錬金術師だった。
名前はロザリー。
若くして工房を運営する天才。
発明家。
研究者。
仕事人間。
なるほど。
少し親近感がある。
恋愛より仕事。
優先順位が分かっている人間だった。
そして恋の相手は。
家具職人のレオン。
真面目。
器用。
温厚。
子供好き。
優良物件だった。
悔しい。
こういう人は大抵結婚する。
「今回は何が問題なんですか」
私は資料をめくる。
そして答えを見つけた。
ロザリーが恋愛を理解していない。
つまり私と同類だった。
勝った。
今回は勝てる。
恋愛初心者同士の話はよく分かる。
私は自信を取り戻した。
翌日。
私は工房へ潜入した。
変装能力発動。
薬草商人。
完璧。
そしてロザリーへ接触する。
彼女は机へ向かっていた。
周囲は爆発の跡だらけだった。
親近感が湧いてきた。
「結婚など無駄ですよ」
私は断言した。
「そうでしょうか」
「時間が減ります」
「確かに」
「仕事が増えます」
「確かに」
「自由も減ります」
「確かに」
よし。
効いている。
私は確信した。
だが。
数日後。
ロザリーはレオンへ会いに行った。
理由。
確認。
意味が分からない。
私は尾行した。
超聴覚発動。
すると。
ロザリーが真剣な顔で聞いていた。
「結婚すると本当に時間が減りますか」
「減りますね」
レオンが答える。
よし。
勝った。
と思った。
「でも一人でやるより楽しいですよ」
終了だった。
私の知ってる答えと違う。
ズルい。
非常にズルい。
その後も会話は続く。
「仕事は増えますか」
「増えます」
「自由も?」
「減ります」
ロザリーの目が死んでいく。
よし。
その調子。
だが。
レオンは続けた。
「でも一人より幸せですよ」
台無しだった。
全部台無しだった。
私の努力を返してほしい。
第二作戦へ移行する。
今度は工房である。
仕事を増やす。
忙しくすれば恋愛どころではない。
前世で学んだ。
仕事量は全てを解決する。
私は夜中に工房へ忍び込んだ。
そして。
大量の素材を置いた。
錬金依頼を偽造した。
完璧。
三か月は忙しい。
勝利。
だが。
一週間後。
工房へ行くと。
終わっていた。
全部。
「はやくない?」
私は思わず呟いた。
調査する。
結果判明。
レオンが手伝っていた。
家具製作の技術で。
作業台まで改良していた。
さらに工房も拡張。
効率爆上がり。
結果。
空き時間増加。
なんで。
私は天を仰いだ。
そして運命の日が来る。
王都発明祭。
ロザリーが新発明を発表するらしい。
そこで私は会場設備をいじった。
恋愛イベント防止である。
だが。
設備が暴走した。
爆発した。
火花。
煙。
崩壊。
大惨事。
まずい。
私は飛んだ。
加速。
怪力。
炎制御。
全部発動。
会場を救う。
ついでにロザリーも救う。
さらにレオンまで救う。
十分後。
無事解決。
観衆大喝采。
最悪だった。
そして。
レオンがロザリーへ言った。
「君が無事で良かった」
やめろ。
「私は」
ロザリーが真っ赤になる。
やめろ。
「私もです」
終わった。
完全終了だった。
半年後。
婚約。
一年後。
結婚。
さらに二年後。
子供誕生。
早い。
展開が早い。
そんなある日。
私は二人の工房へ呼ばれた。
嫌な予感しかしない。
案の定だった。
「ミレイユ様」
ロザリーが子供を抱いている。
幸せそうだった。
本当に悔しい。
「ありがとうございました」
「違う」
反射だった。
もはや挨拶である。
「私に家族の素晴らしさを教えてくださって」
「違う」
「人生を変えてくださって」
「違う」
レオンまで笑顔だった。
「恩人です」
「違う!」
誰も聞いてくれない。
最近はもう訂正する意味すら怪しかった。
その夜。
女神が現れる。
私はクッションを構える。
女神は盾を構える。
完全に伝統芸能だった。
「十七組目です」
「帰れ」
「恋愛成就が」
クッション投擲。
防御成功。
悔しい。
その時だった。
エリオットがやって来た。
最近本当に毎日いる。
もしかして住んでいるのだろうか。
彼は紅茶を置いた。
自然だった。
そして珍しく真面目な顔をしている。
「ミレイユ様」
「なに?」
「もし帰らなくてよくなったら」
私は首を傾げた。
「帰らないけど?」
即答だった。
前世へ戻るのが目的のはずなのに。
気付けば。
今の生活が当たり前になっていた。
仕事があって。
友達がいて。
慕ってくれる人達がいて。
紅茶を淹れてくれる人がいる。
エリオットは少しだけ目を見開いた。
そして。
凄く嬉しそうに笑った。
どうしてそんな顔をするのか私にはまだ全然分からなかったのである。




