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第十六話 最強の聖女は隠居したいようです

 第十六話 最強の聖女は隠居したいようです


 現在の戦績。


 破局〇組。


 恋愛成就十五組。


 帰還まで残り二十組。


「もうこの数字を見るだけで頭が痛い」


 私は机へ突っ伏した。


 最近の生活は単純だった。


 朝起きる。


 恋愛妨害する。


 失敗する。


 結婚式へ呼ばれる。


 感謝される。


 女神に報告される。


 エリオットがお茶を持ってくる。


 終わり。


 もはやルーティンである。


 その時だった。


 ピカッ。


 窓が光る。


 私は無言でクッションを投げた。


 ガシッ。


 受け止められた。


 悔しい。


 女神も成長している。


「十六組目です」


「帰れ」


「最近雑になってません?」


「最初からだよ」


 私は資料を受け取った。


 そして。


 少し驚いた。


 今回の標的。


 聖女セレス。


 二十二歳。


 歴代最強。


 災害級魔物討伐。


 大規模治癒。


 奇跡の再現。


 全部できる。


 凄い。


 私と違ってちゃんとした化け物だった。


 そして恋の相手は。


 護衛騎士のライル。


 寡黙。


 忠誠心高い。


 長身。


 イケメン。


 強い。


 人気が出そう。


 嫌な予感しかしない。


 さらに問題があった。


 セレスは隠居を考えていた。


 聖女を辞めて静かに暮らしたいらしい。


「これだ」


 私は頷いた。


 恋愛どころではなくなる。


 隠居に集中してもらう。


 勝利。


 完璧。


 久々の成功が見えた。


 翌日。


 私はセレスを調査した。


 超視覚。


 超聴覚。


 便利である。


 本当に便利である。


 使い方はさておき。


 すると分かった。


 セレスは疲れていた。


 本当に疲れていた。


 朝から晩まで働いている。


 魔物討伐。


 治療。


 祝福。


 会議。


 休みなし。


 前世の私を見ているみたいだった。


 少し親近感が湧いた。


 だからこそ。


 隠居計画を応援する振りをして恋愛を潰す。


 完璧だった。


 私は変装能力を発動した。


 田舎の不動産仲介人である。


 我ながら何でもできる。


「山奥の別荘があります」


 私が言う。


「静かです」


 セレスの目が輝いた。


「人も来ません」


 さらに輝く。


「仕事もありません」


 凄く輝いた。


 これは勝った。


 隠居ルート確定である。


 だが。


 三週間後。


 そこにライルも住み始めた。


 なんで。


 意味が分からない。


 調査結果。


 護衛だから。


 終わりである。


 だが私は諦めない。


 第二作戦。


 二人を別々にする。


 私はライルへ偽命令書を送った。


 辺境勤務。


 期間三年。


 流石にこれなら離れる。


 勝利。


 そう思った。


 しかし。


 翌月。


 セレスも辺境へ移住した。


 なんで。


「護衛がいないと心配ですので」


 本人がそう言っていた。


 私は湖へ石を投げた。


 十キロくらい飛んだ。


 少し落ち着いた。


 しかしまだだ。


 最後の手段がある。


 私は恋愛イベント自体を潰すことにした。


 辺境には古い吊り橋がある。


 有名な観光地。


 夕日。


 絶景。


 告白スポット。


 完全に恋愛フラグである。


 私は橋を撤去しようとした。


 だが。


 怪力で支えた瞬間。


 老朽化を発見してしまった。


 危ない。


 凄く危ない。


 数日後には崩れていた。


 私は反射的に修理を始めた。


 ついでに補強。


 ついでに装飾。


 ついでに展望台。


 ついでに花壇。


 完成。


 辺境最大の観光名所が出来上がった。


 私は何をやっているのだろう。


 そして夕方。


 もちろん二人は来た。


 セレスが感動している。


 ライルも珍しく笑っている。


 嫌な予感しかしない。


「綺麗ですね」


 セレスが言う。


「はい」


 ライルが答える。


「あなたと見られて良かった」


 やめろ。


 その言い方やめろ。


 知ってる。


 もう十五回見た。


 ライルが固まる。


 顔が赤い。


 終わった。


 そして。


 告白。


 成立。


 終了。


 私は夕日に向かって叫んだ。


 だが辺境なので誰にも聞かれなかった。


 少しだけ助かった。


 数か月後。


 結婚式。


 私はもう驚かなかった。


 お祝いの品まで用意した。


 成長である。


 本当はしたくなかった。


 すると。


 いつものように二人が来る。


「ミレイユ様」


 幸せそう。


 眩しい。


 本当に眩しい。


「ありがとうございました」


「違う」


 反射だった。


 もう呼吸と同じである。


「私が休む決断をできたのは」


「違う」


「あなたのおかげです」


「違う」


 ライルも頭を下げる。


「人生の恩人です」


「違う!」


 全員同じことを言う。


 何故なのか。


 本当に不思議だった。


 その夜。


 女神が現れる。


 私はクッションを構える。


 女神は盾を構える。


 完全に様式美である。


「十六組目です」


「帰れ」


「恋愛成就が」


 クッション投擲。


 防御成功。


 悔しい。


 その時だった。


 扉が開く。


 エリオットだった。


 最近はノックすらしない。


 どうなのそれ。


「紅茶です」


「ありがとう」


 自然に受け取る。


 自然すぎて女神が頭を抱えた。


 するとエリオットが私の向かいへ座った。


 そして少し躊躇う。


 珍しい。


 いつも落ち着いているのに。


「ミレイユ様」


「なに?」


「もし」


 そこで言葉が止まる。


 私は待った。


 だが。


 結局彼は笑った。


「なんでもありません」


 変な人だ。


 私はそう思った。


 本当にそれだけだった。


 だから。


 女神が窓の外で。


「あと四話で気付くかなあ」


 と呟いていたことにも全く気付かなかったのである。

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