第十三話 呪われた令嬢は幸せになりたいようです
第十三話 呪われた令嬢は幸せになりたいようです
現在の戦績。
破局〇組。
恋愛成就十二組。
帰還まで残り二十組。
「もう途中で条件変わってない?」
私は真顔で女神へ尋ねた。
最近本気で疑っている。
二十組恋愛成立させたら帰れる条件に勝手に変更されているのではないかと。
「変わってません」
女神は即答した。
怪しい。
非常に怪しい。
しかし証拠がない。
悔しい。
「十三組目です」
「帰れ」
「もう数字が増える度に言うんですね」
「様式美だから」
女神は深いため息を吐くと資料を置いていった。
最近ため息の回数が増えている気がする。
多分気のせいじゃない。
私は資料を読む。
そして少し眉をひそめた。
今回の相手。
侯爵令嬢リリア。
王都でも有名な不幸体質の少女だった。
婚約者死亡。
婚約者候補骨折。
お見合い相手が行方不明。
その他諸々。
真面目に呪われているのではないかと噂されている。
「大変そう」
私は少し同情した。
前世でもこういう人はいた。
何故か毎回トラブルに巻き込まれる人。
そして恋の相手は。
治癒術師クリス。
優しい。
誠実。
真面目。
嫌な予感しかしない。
こういう男は強い。
ものすごく強い。
多分人気もある。
「今回はどうします?」
女神が聞く。
私は即答した。
「呪いを利用する」
女神が顔を覆った。
失礼である。
私は天才なのだ。
今回の作戦は完璧だった。
リリアは不幸体質。
ならば恋愛も不幸になると信じ込ませればいい。
恋愛を諦める。
終了。
簡単な話である。
翌日。
私は変装した。
占い師である。
最近本当に変装ばかりしている。
もう悪役令嬢というより詐欺師だった。
そしてリリアへ接触する。
「見えます」
私は神秘的に言った。
「恋愛運が最悪です」
「やっぱり……」
効いた。
凄く効いた。
リリアは落ち込んだ。
よし。
勝った。
そう思った。
その日の夜までは。
私は超聴覚で様子を探った。
するとリリアが泣いている。
その隣にはクリスがいた。
嫌な予感。
とても嫌な予感。
「私は誰も幸せにできません」
リリアが言う。
「そんなことはありません」
クリスが言う。
「ですが」
「僕は幸せです」
終了。
私は壁へ頭を打ち付けた。
大理石が割れた。
怪力のせいだった。
次である。
私は諦めない。
第二作戦。
接触回数を減らす。
これだ。
私はクリスへ偽の手紙を送った。
辺境の村から治療依頼。
大規模な疫病発生。
緊急事態。
さすがに行くだろう。
数か月は帰らない。
勝利。
完璧。
だが。
三日後。
クリスは戻ってきた。
しかもリリア同伴で。
「なんで?」
どうやらリリアも手伝いに行ったらしい。
さらに。
二人で協力して村を救ったらしい。
しかもお互いへの信頼が深まったらしい。
もう本当に意味が分からない。
私は天才なのに。
さらに最悪な事件が起きた。
王都で魔獣が暴れた。
偶然だった。
本当に偶然である。
私は高所から観察していただけだった。
その時。
足を滑らせた。
屋根が崩れた。
私が落ちた。
そして怪力で鐘楼を壊した。
大鐘が落下する。
魔獣へ直撃。
討伐成功。
ついでに逃げ遅れたリリアも救出。
さらにクリスまで助けてしまった。
私自身何をしているのか分からない。
だが。
周囲から見れば英雄だった。
最悪である。
「またミレイユ様だ」
誰かが言う。
やめてほしい。
本当にやめてほしい。
その後。
リリアは泣きながら言った。
「私のせいでまた誰か傷付くところでした」
すると。
クリスが彼女の手を握った。
「違います」
やめろ。
その流れは知っている。
十二回見た。
十三回目である。
「君がいたから助かった人もいます」
やめろ。
「だからもう自分を責めないでください」
やめろ。
「僕が証明します」
やめてください。
そして。
告白。
成立。
私は空を見上げた。
最近よく見上げる。
神への抗議である。
数か月後。
婚約発表。
さらに半年後。
結婚。
ここまで来ると驚かない。
むしろ予定調和だった。
そして結婚式。
私は端の席でケーキを食べていた。
現実逃避である。
するとリリアがやってくる。
嫌な予感しかしない。
「ミレイユ様」
幸せそうだった。
本当に幸せそうだった。
「ありがとうございました」
「違う」
即答だった。
「私を助けてくださって」
「違う」
「勇気をくださって」
「違う」
「恋を教えてくださって」
「違う!」
全く教えていない。
むしろ私が教えてほしい。
恋愛とは何なのか。
その夜。
女神が現れた。
私は無言でクッションを投げた。
防がれた。
最近成功しない。
悔しい。
「十三組目です」
「帰れ」
「恋愛成就が」
私は深いため息を吐いた。
その時だった。
窓が開く。
エリオットだった。
最近自然に入ってくる。
どうなのそれ。
貴族として。
「紅茶をお持ちしました」
「ありがとう」
私は受け取る。
最近もう自然だった。
女神が遠い目をしている。
放っておく。
するとエリオットが少しだけ笑った。
「毎回大変そうですね」
「大変だよ」
「でも皆幸せそうです」
私は頬を膨らませた。
確かにそうだ。
悔しいことに。
皆幸せそうなのだ。
その姿を思い出して少しだけ複雑な気分になっていると。
エリオットが優しい声で言った。
「ミレイユ様もいつか幸せになりますよ」
私は即答した。
「私は仕事人間だから」
前世から変わらない価値観である。
女神が机へ突っ伏した。
エリオットも何故か苦笑していた。
だが私は気付かない。
気付くわけがない。
なぜなら私は恋愛成就率百パーセントのくせに、
自分の恋愛だけは相変わらずゼロだったのである。




