第十二話 敵国の皇女は平和を望むようです
第十二話 敵国の皇女は平和を望むようです
現在の戦績。
破局〇組。
恋愛成就十一組。
帰還まで残り二十組。
「もういいかな」
私は紅茶を飲みながら呟いた。
「何がですか」
女神が聞いてくる。
「恋愛」
「駄目です」
即答だった。
腹が立つ。
私だって好きで十一連敗しているわけではない。
むしろ全力で邪魔している。
毎回。
本当に毎回。
すると女神が資料を差し出した。
「十二組目です」
「帰れ」
「働いてください」
「仕事だったんだこれ」
私は渋々資料を見る。
そして固まった。
「また王族?」
最近王族率が高い。
今回の標的は。
南方帝国第三皇女。
リリアーナ。
そして相手は。
王国軍所属の若き将軍。
ヴァイス。
問題があった。
敵国同士である。
しかも現在進行形で戦争中だった。
「無理でしょ」
私は断言した。
「そうでもありません」
女神が言う。
嫌な予感しかしない。
詳しく調査すると。
二人は和平交渉会議で出会ったらしい。
そこから文通。
そして恋。
最悪だった。
こういう真面目な二人は強い。
恋愛が成就しやすい。
今までの経験で分かる。
私は深いため息を吐いた。
だが諦めない。
まだ勝負は始まったばかりだ。
翌日。
私は加速装置で国境へ向かった。
現在戦争中。
つまり。
恋愛どころではなくなれば終わりだ。
私は天才だった。
まず和平会議を潰す。
シンプル。
完璧。
私は会議室へ潜入した。
変装能力発動。
外交官へ変身。
完璧。
そして。
重要書類を隠そうとした。
だが。
その途中で事件が起きる。
極秘文書が床へ落ちた。
そこには。
両国の戦死者一覧が記されていた。
私は咄嗟に拾う。
だが同時に。
皇女と将軍も拾った。
そして。
二人ともそれを読んでしまった。
沈黙。
重苦しい空気。
まずい。
恋愛イベントの匂いしかしない。
「もうやめたいですね」
皇女が呟く。
「そうですね」
将軍が答える。
「誰も幸せになっていません」
「その通りです」
私は頭を抱えた。
終了である。
これ絶対仲深まるやつだ。
数日後。
私は第二作戦へ移行した。
文通破壊。
恋愛の基本である。
手紙を届けなければいい。
私は超音速で伝書鳥を捕獲した。
勝利。
そう思った。
しかし。
手紙が届かなくなった結果。
双方が心配した。
そして直接会いに行くことになった。
何故だ。
本当に何故だ。
手紙の方が安全だろう。
なぜ危険な国境へ来る。
理解できない。
その結果。
二人の接触回数が増えた。
最悪だった。
そして運命の日。
大規模会戦。
ついに両軍が激突する。
私は思った。
これは流石に無理だ。
戦争である。
恋愛どころではない。
だが。
人生とは理不尽である。
開戦直前。
山崩れが起きた。
偶然だった。
本当に偶然だった。
私が偵察中に掴んだ崖が怪力で砕けただけである。
事故だ。
しかし。
大量の岩が両軍へ落下する。
まずい。
死ぬ。
たくさん死ぬ。
私は反射的に飛んだ。
怪力発動。
岩を受け止める。
更に炎で砕く。
加速して運ぶ。
飛び回る。
投げ捨てる。
十分後。
災害終了。
両軍無事。
私は満足した。
だが。
皆が見ていた。
両軍数万人が。
目撃していた。
私を。
「天使だ」
誰かが言った。
違う。
「聖女だ」
違う。
「女神の使いだ」
違う。
その後どうなったか。
戦争どころではなくなった。
王国軍と帝国軍が共同で私を捜し始めた。
意味が分からない。
さらに。
和平交渉が急加速。
そして。
皇女と将軍も急接近。
半年後。
婚約発表。
終了。
私は湖へ石を投げた。
百メートルくらい飛んだ。
八つ当たりだった。
そして恒例行事である。
婚約披露会。
逃げたかった。
だが逃げられなかった。
皇女が来た。
将軍も来た。
嫌な予感しかしない。
「ミレイユ様」
笑顔。
幸せそう。
本当に腹が立つくらい幸せそう。
「ありがとうございました」
「違う」
反射だった。
もはや芸である。
「あなたが両軍を救ったから」
「違う」
「戦争が終わりました」
「違う」
「愛する人を失わずに済みました」
「違う!」
誰も聞いてくれなかった。
最近みんな耳悪くない?
その夜。
女神が現れた。
私は無言でクッションを投げた。
避けられた。
悔しい。
「十二組目です」
「帰れ」
「恋愛成就が」
私は机に突っ伏した。
すると。
コンコン。
ノック音。
部屋の扉が開く。
エリオットだった。
「大丈夫ですか」
最近毎回来る。
「大丈夫じゃない」
「知っています」
知ってるんだ。
少し驚いた。
彼は紅茶を置く。
焼き菓子もある。
私の好きなやつだった。
「ありがとうございます」
珍しく素直に言った。
するとエリオットは少しだけ嬉しそうに笑った。
本当に不思議な人だ。
最近よく一緒にいるし。
話していて気が楽だし。
気付けば自然と探してしまう。
たぶん。
きっと。
優秀な部下みたいなものなのだろう。
前世のお局だった私はそう結論付けた。
窓の外で女神が頭を抱えていたが。
案の定、私は全く気付いていなかったのである。




