恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 99
病院に着いたのは、かなり時間が、経ってからだった…
正直、これでは、単純に、自宅まで、送ってもらった方が、早かったのではと、思った…
が、
さすがに、それは、口にできない…
私も、それぐらいの常識は、持ち合わせている(苦笑)…
いくらなんでも、それぐらいの常識は、持ち合わせている…
着いた病院は、やはりというか…
立派な病院だった…
水野グループの系列の病院の名前に恥じない病院だった…
クルマから降りて、良平に付き添われて、病院の建物の中に入って、そう思った…
そして、そう思いながら、
…なんで、病院なんだろ?…
と、思った…
企業の価値を高めるために、自分のグループ内で、病院を持つのは、わかる…
が、
なぜ、病院なのか、わからない…
例えば、病院を持つより、球団を持つとか、した方が、知名度が上がる…
正直、水野は、地味というか…
戦前からある企業だというが、世間的な知名度は、微妙…
知っているひとは、知っているが、知らないひとは、知らない(苦笑)…
それゆえ、病院を持つより、プロ野球球団でも、持つ方が、知名度が上がると、思ったのだ…
が、
会社の知名度うんぬんではなく、ただ従業員のため…
従業員ファーストで、自社のグループに病院を持ったのだろうか?
その方が、従業員のためになるからだ…
だから、私は、
「…会長…水野グループが、病院を持つのは、やはり、水野グループの従業員の方たちの健康を考えてのことですか?…」
と、直球で、聞いた…
すると、良平は、その質問に驚いた様子だった…
それから、声を潜めて、
「…ここだけの話ですが、そんな大層な話じゃ、ありません…さっきも、言ったように、妻の春子が、見栄っ張りで…」
と、答えた…
「…見栄っ張り? だったら、プロ野球球団を持った方が、もっと、有名になるんじゃ…」
「…私もそう思いましたが、五井が、病院を持っているので…」
「…五井? どうして、五井が、病院を持っているのと、一体、なんの関係が…」
「…いえ、実は、春子が、昔、若い頃に、五井の女帝と言われる諏訪野和子さんという女性が、いらっしゃるんですが、その方と、なにやら、ゴタゴタがあったようで…それ以来、五井を目の敵にして…」
「…」
「…それで、五井が、病院を持っているなら、うちも持つと言って…」
良平が、告白する…
私は、その言葉で、ある事実を思い出した…
そういえば、以前、たしか、新造さんが、言っていた気がする…
米倉正造の弟の新造さんが、言っていた気がする…
五井の女帝と呼ばれた、女性と、水野の春子さんは、若いときに、同じ男を取り合って、それ以来の犬猿の仲だと、聞いたことがある(苦笑)…
私は、今、それを、思い出した…
が、
さすがに、それを、口にするわけには、いかない…
おそらく、夫の良平も、それが、わかっているだろうが、わからないフリをしているのだろう…
私は、考えた…
だから、それ以上は、聞かなかった…
それ以上は、この話は、打ち切り…
それ以上、しなかった…
良平が、訪れると、わかると、慌てて、年配のお偉いさんと思しきひとたちが、数人、駆け足で、やって来た…
すでに、良平が、やって来るのを、聞いていたのだろう…
クルマの中で、良平が、ケータイで、おそらく、この病院の関係者と、やりとりしていたが、私は、ボーっとしていたというか…
半ば、夢の中にいた(苦笑)…
おおげさではなく、意識が、混沌としていた…
おおげさに、言えば、白昼夢を見たというか…
それに、近い状態…
それは、今、考えれば、クルマに乗って、座席にカラダを預けていたのが、まずかった…
なぜ、まずかったのか?
その方が、楽だからだ…
だから、つい、ウトウトと、うたたねしてしまった…
これが、自分一人で、歩いて、自宅まで、帰るのなら、まさか、うたたねは、できない…
また、うたたねするほど、体調も悪くない…
電車に乗っても、気が張っているから、簡単にうたたねできない…
真逆に、電車で、うたたねするのは、調子が、いいとき…
体調に不安がなく、ただ疲れているときは、つい、電車のソファで、うたたねしてしまう…
まあ、隣に、良平が、いるにも、関わらず、私が、クルマの中で、軽くうたたねしてしまったのは、やはりというか…
自分が、思っている以上に、私の体調が悪いのだろう…
そして、それを、思えば、良平に半ば、強引に、この病院に連れて来られたのは、ラッキー…
実に、ラッキーかも、しれなかった…
そんなことは、ありえないと、思うが、家に帰って、布団にくるまって、寝ているより、きちんと、病院で、検査を受けた方が、安心できるからだ…
私が、そんなことを、思っている間にも、良平を見て、速足で、やってきたお偉いさんたちが、
「…これは、わざわざ、ご足労頂き、恐縮です…」
と、良平に、ペコペコ頭を下げていた…
私は、その光景を見て、あらためて、この水野良平が、水野グループ総帥であることを、再認識した…
あらためて、この良平は、偉いんだと、再認識した…
この良平もだが、この良平の盟友の、あの米倉平造、そして、その息子の正造もだが、誰もが、例外なく偉いのだが、その偉さが、イマイチわからないというか…
実感がなかった…
それは、なぜか?
それは、彼らが、会社で偉い存在であるということを、見たことがなかったからだ…
あらためて、そう、思った…
いかに、会社で、社長をしていると、言われても、その会社に行き、その会社の従業員が、皆、その人物に、ペコペコしている姿を、見なければ、イマイチ実感が沸かない…
そういうことだ…
私は、良平にペコペコ、頭を下げる、おそらく、この病院のお偉いさんたちの姿を、目の当たりにして、そう、思った…
そして、私が、ぼんやり、そんなことを、考えている間に、私は、いきなり、
「…こちらに…」
と、強引に腕を掴まれ、別の白衣を着た医療関係者に、歩き出した…
いいも、悪いも、ない…
私が、なにも、言わないにも、関わらず、半ば、強引に、連れていかれた…
そして、その光景を目の当たりにした良平が、
「…あまり、無茶は、しないように…」
と、きつい口調で、注意した…
「…その女性は、未来の水野グループの社長夫人になるかも、しれない方だ…」
良平が、仰天のセリフを言った…
途端に、私のカラダを掴んでいた、白衣を着た、医者が、驚いた…
驚いて、私のカラダを掴みながらも、動きが止まった…
「…ホ、ホントですか?…」
驚愕の表情で、良平に聞く…
「…ウソを言って、どうする?…」
良平が、強い口調で、返した…
そして、その言葉を聞いて、私のカラダを半ば、強引に、おそらくは、病室に連れて行こうとした医師が、驚いた顔で、見た…
私を見た…
そして、少しして、言った…
「…もしかして、この女性は、米倉…米倉好子さんですか?…」
と、聞いた…
ためらいながら、聞いた…
それを聞いた良平は、即座に否定した…
「…好子さんとは、離婚した…彼女は別人だ…」
「…別人?…」
「…その女性は、高見ちづるさんと言って、透が、惚れてる女性だ…」
良平が、断言した…
「…でも、顔が…」
「…よく似ているんだ…そっくりさんと思われるほどに…」
良平の言葉で、その医師が、これまで以上に、ジロジロと、ぶしつけに、私を見た…
それから、
「…そうですか…でも、実に好子さんに、似ている…」
と、呟いた…
「…姉妹レベルで似ているんだ…私も初めて、高見さんに会ったときは、驚いたよ…」
良平が、感想を述べる…
「…それより、高見さんを早く、診察してくれ…それと、病室を手配してくれ…診察が、終わったら、その病室で、過ごせばいい…」
良平が、仰天の提案した…
「…病室に…入院ですか?…」
私は、驚いて言った…
たいしたことは、ない…
たかが、風邪を引いただけだ…
いくらなんでも、おおげさ過ぎる…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
だが、良平は、私を見て、
「…そうです…検査を受けて、しばらく、ここで、入院すれば、いい…無理に、自宅に帰らなくても、一晩でも、二晩でも、ここで、寝て過ごせばいい…そうすれば、体調も、回復します…」
「…でも、それでは、会社が…仕事が…」
「…会社には、私から、連絡します…なに、高見さんの勤める会社は、水野グループだ…私が、連絡すれば、大事にも、なにも、ならない…」
「…それは、そうでしょうけれども…」
曖昧に、言葉を濁した…
たしかに、私の勤めるM商会は、水野グループ…
その総帥の水野良平が、言うのだから、間違いはない…
わかりきっている話だ…
だが、まさか、この良平が、あの営業所に連絡するのか?
いや、
まさか、そんなことは、ないだろう…
M商会の本社の社長とか、お偉いさんに連絡するのだろう…
なにしろ、いきなり、あの営業所の所長の前沢に電話をして、水野良平と、名乗っても、本物か、どうか、悩むからだ…
だから、上から下に…
M商会の社長にでも、連絡するのだろう…
なんとか、営業所に、所属する高見ちづるが、数日の間、風邪で、休むとでも、連絡するのだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えている間に、
「…では、早速、検査を…」
と、隣の医者に、言われた…
私は、戸惑った…
…たいしたことはない…
…ただの風邪に過ぎない…
それが、こんな大事になって、いいのだろうか?
戸惑った…
なにやら、話が、とんでもなく、大きくなった気がした…
私の予想を超えて、大きくなった気がした…
もはや、私のことだが、すでに、私の手を離れて、しまった…
私の手を離れて、私の手の届かない場所に、行ってしまった…
どうして、こうなったのかは、自分でも、わからない…
なぜ、こうなってしまったのかは、自分でも、よくわからない…
ただ、話が、あまりにも、大事になった…
そう、思った…
そう、思ったのだ…




