恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 98
私は、驚いた…
実に、驚いた…
まさか、良平が、声をかけてくるとは、思わなかった…
目の前の光景に、目を疑った…
が、
これは、事実…
これは、現実だ…
良平の姿を見るなり、
「…ご無沙汰しています…」
と、慌てて、頭を下げた…
頭痛が、吹っ飛んだとまでは、いわないが、頭痛どころではなくなった…
会社を退社して、再発した頭痛が、見事なまでに、なくなった(苦笑)…
頭痛どころでは、なくなったからだ…
そして、そんなことより、
…なんで?…
…どうして、良平が、ここに?…
考えた…
考え込んだ…
水野グループ総帥の水野良平が、一体、なんで、私に、声をかけたのだろう?
いや、
なんで、私を待ち構えていたんだろう?
考えた…
考え込んだ…
が、
当然、答えは、出ない…
出るはずもない…
当たり前だ…
私が、戸惑っていると、
「…高見さん…お久しぶりです…」
と、良平が、ニコニコしながら、私に声をかけてきた…
その良平の笑顔を見て、
…このひとは、私を好きなんだろうな…
と、思った…
単純に思った…
私に変に下心があるわけでも、なんでもない…
ただ、私を好きなんだろうな…
と、思った…
好きと言っても、いろんな好きがある…
下心がある好き…
ハッキリ言えば、
…こんな女と寝てみたい…
という好きもあれば、
…ただ、単にいっしょにいるのが好き…
という好きもある…
そして、それは、当人も、そうだが、傍から見れば、余計に、わかるものだ…
第三者である、他人から、見れば、余計にわかるものだ…
そして、私の場合は、後者…
確実に、後者だった…
いや、
それより、なにより、良平だって、私と寝たいなんて、これっぽっちも思ってないに違いない…
そう思うのが、失礼ながら、私が、船見さんを見たから…
彼女を見たからだ…
たしかに、失礼ながら、顔は、あまり良くないが、ナイスバディの持ち主…
身長が、170近くあり、胸もお尻も大きい…
ナイスバディの持ち主だ…
彼女を見ると、圧倒される…
身長、わずか、155㎝に、過ぎない私は、圧倒される…
そして、こんなふうに言っては、船見さんに失礼だが、女は、顔だけじゃないな、と、あらためて、思わされる…
やはり、カラダも必要…
そう、思わせる…
身長、155㎝の痩せっぽちの私から、見れば、そう、思わせる…
そう、思わせるのだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…どうかしましたか?…」
と、良平が、心配そうに、声をかけてきた…
私は、一瞬、慌てたが、すぐに、
「…いえ、風邪をひいていて…」
と、曖昧に、ごまかした…
まさか、良平が、私に下心があるか、ないか、考えていたなんて、おおげさに言えば、口が裂けても、言えないからだ(苦笑)…
私が、そう言うと、良平が、
「…そう言えば、高見さん…今日は、顔色が悪い…」
と、心配そうに、言った…
「…いつも、色が、白いのに、今日は、いつもにも、まして、色が、白い…」
と、続けた…
それを、聞いた私は、なんて、答えていいか、わからなかった…
これでは、褒められているのか、私の体調を心配しているのか?
どっちだか、わからなかったからだ(苦笑)…
だが、どっちだか、わからないが、とっさに、
「…心配して頂き、ありがとうございます…」
と、だけ言って、頭を下げた…
こう言っておけば、間違いがないからだ(笑)…
だから、こう言った…
だが、それが、いけなかった…
「…わかりました…では、家まで、お送りしましょう…」
と、良平が、言ったからだ…
私は、唖然として、言葉を失った…
どう言っていいか、わからなかった…
まさに、予想外の展開になったからだ…
すると、良平が、
「…すぐ近くに、クルマを待たせてあります…それで、ご自宅まで、お送りしましょう…」
と、続けた…
私は、唖然としたが、すぐに、正気を取り戻したというか…
慌てて、
「…いえ、大丈夫です…」
と、良平に告げた…
「…ひとりで、家に帰ります…」
と、言った…
が、
良平は、
「…大丈夫じゃ、ありませんよ…」
と、言って、すぐに、どこかに、電話をかけた…
ケータイを、取り出して、電話をかけていた…
「…至急、来てくれ…そうだ…今、すぐに、だ…」
良平が、強い口調で、命じる…
私は、
「…いえ、大丈夫です…」
と、続けた…
「…たいしたことでは、ありません…」
と、続けた…
が、
良平は、そんな私の言葉に、耳を貸さなかった…
「…もうすぐです…すぐに、来ます…」
と、言って、私のカラダを掴んだ…
私の肩を掴んだ…
良平は、大柄…
背が高い…
180㎝、近くある…
それに対して、私は、155㎝…
ビックリするほど、小柄だ…
だから、可愛いのかも、しれない…
ふと、思った…
自分が、大きいから、小さい私が、可愛いのかも、しれない…
そう、気付いた…
誰もが、そう…
自分にないものに、憧れる…
背が低いものは、背が高いものに…
背が、高いものは、背が低いものに…
頭が、良くないものは、頭が、良いものに…
自分にないものに、憧れるからだ…
私は、良平に肩を掴まれ、そう、思った…
そう、思ったのだ…
そして、そう、思っている最中とまでは、言わないが、まもなく、クルマが、やって来た
黒塗りの大きなクルマが、やって来た…
クルマが、私と良平のいる場所に、止まった…
良平は、すぐに、後部座席のドアを、開けた…
「…さあ、高見さん…」
と、私の肩を掴んで、私を後部座席に座らせようとした…
私が、嫌もなにも、なかった…
ほとんど、無理やり…
半ば、強制的だった…
私の意思は、無視…
これが、私が、嫌がっていたら、小柄な私を大柄な良平が、抱き上げて、クルマの後部座席に押し込むのでは?
そんな気がした…
なにしろ、私は、155㎝しかない…
180㎝近くある、大柄な良平から、見れば、子供…
まるで、小学生の低学年のような子供だ…
良平が、その気になれば、私を、子供のように、抱き抱え、クルマの後部座席に、座らせることも、可能だっただろう…
そして、そんなことを、思ったとき、今さらながら、小柄な女が、大柄な男に憧れる気持ちが分かった気がした…
要するに、お姫様だっこ(爆笑)…
大柄な男に、自分を抱き上げてもらいたい…
自分をお姫様のように、扱ってもらいたい…
そういう気持ちだ…
私も、そういう女の気持ちがわからないではないが、今、ひとつ実感がなかった…
なにより、そんなことを、されれば、抵抗できない…
それが、嫌だった…
元々、155㎝と、小柄なのに、そんなことを、されれば、間違いなく、抵抗できなくなる…
それが、本能的な恐怖だったのかも、しれない…
が、
今、この良平に、お姫様だっこではないが、大柄な男に、丁寧に扱われ、小柄な女が、大柄な男に憧れる気持ちがわかった気がした…
たしかに、便利というか…
自分が、できないことを、してくれる…
それが、嬉しい…
そんな気がした…
が、
そんな気がしたのは、一瞬に近い…
なぜなら、すぐに、私は、良平の手で、丁寧に、クルマの後部座席に、座らせられたからだ…
考える時間もなく、座らされたに近い…
そして、私が、後部座席に座ると、良平も、すぐに、隣に、座った…
そして、少し、考え込んだが、
「…病院へ…」
と、告げた…
…病院って?…
…そんな大げさな?…
私は、慌てて、隣の良平を見て、文句を言おうとしたが、それを、制するように、
「…水野記念病院に…」
と、運転手に告げた…
…水野記念病院?…
…なに、それ?…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私は、その病院が、どんな病院か、聞こうとした…
が、
その前に、良平が、口を開いた…
「…水野グループの病院です…」
と、口を開いた…
「…水野グループの病院って?…」
私は、仰天した…
水野は、自分のグループで、病院まで、持っているのか?
と、仰天した…
これでは、まるで、三井や、三菱のような、歴史ある大企業のグループのようだ…
私は、考えた…
そして、私の考えが、わかったわけでは、ないだろうが、
「…妻が、見栄っ張りで…」
と、良平が、告白した…
「…奥様が、見栄っ張り?…」
「…私は、水野グループで、病院は、必要ないと、思ったのですが、妻が、春子が…」
と、言った…
私は、その言葉で、この良平が、妻の春子に頭が上がらないことを、思い出した…
「…ですから、その水野の系列の病院が、近くにありますから、念のために、そこで、診てもらいましょう…」
良平が、告げる…
私は、
「…そんな大げさな…ただの風邪ですよ…」
と、言ったが、良平は、私の言葉を無視した…
「…いえ、風邪は、万病の元と言います…気を付けるに、越したことは、ありません…」
良平が、言った…
そう言われると、私は、どう答えていいか、わからなかった…
なにしろ、良平は、私の身を心配して、言ってくれている…
そんな良平の気持ちを無視することも、できなかった…
だから、私は、黙った…
これ以上、なにも、言わなかった…
そして、私も良平も、無言になった…
運転手を含め、誰もなにも言わなかった…
車内が、無言のまま、黒塗りの高級車だけが、病院に向かって走っていった…




