恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 97
結局、やはりというか…
船見さんは、その日は、出社しなかった…
会社を休んだ…
しかしながら、それが、話題になることは、なかった…
なぜなら、所長の前沢が、休みだったからだ…
前沢が、この営業所の責任者…
一番、偉いからだ…
その一番偉い、前沢が、休みだから、公に船見さんを問い詰めることはないというか…
船見さんが休んでも、なんの影響もなかった…
淡々と、日常が、過ぎていった…
淡々と、時間が、過ぎていった…
当たり前のことだ…
私は、一人で、黙々と、与えられた業務に励んだ…
そして、一人で、黙々と、業務に励んでいると、つい、以前、勤めていた会社を思い出した…
金崎実業を思い出した…
私は、大学を卒業して、ずっと、金崎実業に、勤めていた…
そして、毎日、基本は、パソコンとにらめっこしていた…
それで、淡々と、日常が、過ぎていった…
時間が過ぎていった…
若さが、なくなっていった(苦笑)…
今、考えると、そう、思ってしまう…
あるいは、他に、選択肢はなかったのか?
別の会社に入社すれば、別の人生が、待っていたのだろうか?
つい、考えてしまう…
そんなバカなことを、考えてしまう…
そして、そんなバカなことを、考えるのは、やはり、学生時代に、それなりに、さまざまなバイトをしたせいだろう…
いくつかの、職場を、経験したからだろう…
今、振り返れば、そう、思う…
人生は、複雑怪奇と言えば、おおげさだが、例えば、就職する会社は選べても、職場や、同僚は、選べない…
どんな会社か、事前に、ネット等で、調べていても、自分が、入社してみなければ、どんなひとたちと、いっしょに、仕事をするのか、わからない…
そういうことだ…
そして、今、振り返ってみれば、金崎実業のときは、日々が、淡々と、過ぎていった…
それは、なぜかと、言えば、金崎実業の同僚が、ハッキリ言えば、平凡なひとたちだったからだろう…
頭も平凡…
人間も平凡…
性格も、取り立てて、悪い人物もいない…
だから、居心地が良かった…
そういうことだろう…
この世の中には、稀に、
「…ウソ! ホントに、こんな職場があるの?…」
と、叫び出したくなるような職場もある…
学生時代に、バイトして、驚愕した…
なぜなら、その職場にいる、人間は、癖の強い、ひとたちばかり(笑)…
一癖も二癖もある人間たちばかりだったからだ…
典型的なブラック企業(笑)…
しかしながら、そんなことは、バイトをする前には、わからなかった…
まさか、求人情報に、
…うちは、典型的なブラック企業です…
なんて、載っているわけはないからだ(爆笑)…
そして、そういうブラック企業は、ひとの回転が速い…
ひとの回転というのは、ひとの入れ替わりが、早い…
どんどん、ひとが、辞めてゆく…
そして、一方で、どんどん、ひとが、入って来る…
残るのは、せいぜい一割ぐらいか(爆笑)…
大抵のひとたちが、数か月、あるいは、早いひとは、数日で、辞めてゆく…
いや、
一日で辞めたものも、いたらしい…
初日に、その職場にいただけで、
「…こんな職場は、絶対嫌!…」
と、ばかりに、辞めたらしい(笑)…
この世の中には、案外、そんな職場も、数多く存在するものだ…
そういう私も、そんな職場は嫌で、数日、バイトに行っただけで、すぐに逃げ出した…
だから、そんな職場にいた人間は、どんなひとたちだったか、覚えていない…
ただ、癖の強い人間が、多かったというだけしか、覚えていない(笑)…
そして、こう言っては、なんだが、癖が強いからこそ、そんな職場で、やっていけるのだろう…
後で、振り返って、そう、思った…
誰もが、大半が、逃げ出す会社だ…
まともな神経の持ち主ならば、逃げ出す…
そこで、やってゆけるのだから、こういっては、なんだが、まともな人間ではない…
まともな人間ならば、逃げ出すからだ(笑)…
そして、学生時代に、そんな経験をしたからだろうか?
金崎実業に、十年超いた…
もちろん、入社して、良いことばかりだったわけではない…
悪いことだって、いっぱいあった…
しかし、だからと言って、逃げ出したいと、思ったことはない…
それは、やはり、学生時代に、それなりに、バイトをして、他の職場を知っていたからに、他ならない…
他の、とんでもない職場を知っていたからに、他ならない…
他の職場を知らなければ、自分のいる職場が、いいのか、悪いのか、皆目、見当もつかない…
この世の中、どんな会社に行っても、似たようなものだと、考えてしまう…
あるいは、
諦めてしまう(涙)…
しかしながら、私にそれは、なかった…
私、高見ちづるに、それは、なかった…
そして、それは、おそらく、父の助言のおかげ…
今となっては、そう、思う…
父が、
「…学生時代には、いろんなバイトして、世の中を、見てみなさい…」
と、言ってくれたからだ…
就職すれば、一社だけ…
その会社しか、知らない…
あるいは、
その職場しか、知らない…
それでは、困るからだ…
それが、わかっていた父は、私に、そう、助言した…
若い学生時代に、さまざまなバイトをすることで、私の視野が広がることを、期待したのだろう…
そして、そんなアドバイスをした、父は、苦労人だった…
さまざまな職場を転々としたらしい…
それゆえ、娘の私に、そんな苦労はさせたくなかったのだろう…
今、振り返れば、そう、思う…
実に、そう、思う(笑)…
そして、そんなことを、考えながら、一日が、過ぎていった…
滞りなく、過ぎて、いった…
そして、なにより、朝、起きたときは、風邪を引いたと、思っていた、頭痛が、いつのまにか、なくなっていたことに、気付いた…
率直に言って、会社で、パソコンで、にらめっこをしているときには、すっかり、頭痛のことは、忘れていた…
きれいさっぱり忘れていた…
頭痛のことは、考えもしなかった…
つまりは、頭痛がなくなった…
それが、わからなかった…
おそらく、緊張していたからだろう…
仕事に、集中していたからだろう…
私自身、あまり意識していないが、やはり、私は、だいぶ、緊張しているらしい…
らしいと、いうのは、あまり、私自身は、自覚がないからだ…
緊張している自覚がないからだ…
それゆえ、軽い頭痛だから、なくなったというか…
意識しなかったのだろう…
緊張していることで、軽い頭痛が、吹き飛んだというか…
全然、意識しないほどだった…
病は、気からという言葉があるが、それと、同じだ…
軽い頭痛だから、忘れていた…
これが、重い頭痛ならば、病は気からという言葉は、当てはまらない…
なにをしようが、痛いときは、痛い(涙)…
仕事中だから、気にするなと、他人に、言われても、どうにか、なるものじゃ、ないからだ…
幸いなことに、私の風邪は、たいしたことが、なかった…
なにしろ、風邪を、引いた原因は、昨日の長風呂が、原因…
アレコレと、風呂場で、長居して、考え込んだのが、原因だったからだ…
だから、自業自得…
自分が、悪い…
母に知られたら、激怒されただろう…
33歳にも、なって、風呂場に長居して、風邪を引くなんて、と、言われて、激怒されただろう…
やはり、母は、怖い…
父は、優しいが、母は、怖い…
そして、そんなバカなことを、考えながら、会社の一日が、終わった…
「…お先に失礼します…」
と、言って、会社の女子社員が、次々と帰る…
私も、例外ではなかった…
「…お先に失礼します…」
と、言って、私も帰った…
当然、引き留めるものも、いない…
私は、ひとり、会社を出た…
そして、一人で、会社を出て、まもなく、頭痛が、した…
頭痛が、再発した…
おそらく、会社にいるときは、緊張していたせいで、頭痛が、消えていたのだろう…
頭痛が、引っ込んでいたのだろう…
私は、頭痛が、再発したことに、驚いたが、それ以上に。驚いたのが、いかに、自分が、今度の会社で、緊張していたか、だ…
自分自身、そんなに、緊張しているなんて、考えもしなかった…
やはり、それは、歳のせいだろうか?
以前、学生時代に、アルバイトで、あちこちの職場を、転々としていたときは、あまり、緊張したこともなかった…
それは、やはり、アルバイトのせいもあるだろう…
正社員の今とは、責任が、違うからだ…
それと、若さ…
どうしても、若いと、あまり、考えない…
職場の同僚と話す言葉ひとつとっても、
…こんなこと、言っちゃ、マズい…
とか、
…あんなこと、言っちゃ、ヤバい…
とか、考える…
要するに、言葉ひとつでも、相手に、どう思われるか、考えてしまう…
相手を傷つけないかとか…
つまるところ、相手に、どう思われるか、考えてしまう…
それゆえ、気軽に話せない…
気軽に、相手と、話すことが、できない…
その結果、なにを言っていいか、わからなくなる…
会話ひとつとっても、話す内容を考えてしまう…
若い頃には、考えなかったことを、考えるようになる…
それが、歳を取るということだ(苦笑)…
私は、頭痛に、悩まされながら、そんなことを、考えた…
そんなバカなことを、考えた…
一刻も早く、自宅に戻って、休もう…
ベッドに入って、寝ようと、思った…
たかが、頭痛…
されど、頭痛…
やはり、こうしていても、頭が痛い…
だから、早く、家に帰るに限る…
一刻も早く、家に帰るに、限る…
私は、いつのまにか、速足になった…
駆け出すまでは、なかったが、速足になった…
そんなときだった…
「…高見さん?…」
と、いう声がかかった…
明らかに、私の名前を呼ぶ声が、かかった…
…まさか、こんなときに?…
そう、思った…
なにより、一時も早く、家に帰りたい…
布団にくるまって、寝たいと、考えている…
そんなときに、いきなり、声をかけられるなんて…
…一体、誰だろう?…
考えた…
一体、誰が、こんなときに、私に声をかけたのだろう?…
男の声であることは、わかる…
しかし、誰だかは、わからない…
声を、かけてきた相手の正体を知るべく、私は、声のする方を振り返った…
そして、その姿を見て、仰天した…
私に声をかけてきた相手は、水野良平…
透の父の良平…
水野グループ総帥だった…




