恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 94
そして、そんなことを、考えながら、さっき、この正造が、言った…
「…米倉と水野の争いに巻き込んでしまった…」
と、いう言葉を思い出した…
アレは、一体、どういうことだろう?
早速、聞いてみた…
「…正造さん…」
「…ハイ、なんでしょうか?…」
「…さっき、私を米倉と水野の争いに、巻き込んでしまったと、おっしゃいましたよね?…」
「…ハイ、言いました…」
「…アレは、どういう?…」
「…スパイですよ…」
「…スパイ?…」
「…さきほども言いましたが、父と良平氏は、表面上は、仲良く振る舞っていますが、実際は、互いに猛烈なライバル心があります…それゆえ、常に相手を意識している…相手が、なにをしているのか? 常に知りたがっている…」
「…」
「…だから、互いが、相手の会社にスパイを置いている…」
「…スパイ?…」
「…そうです…要するに、互いの会社の社員を金などで、抱き込んで、相手の情報を探っている…」
「…そんな…」
「…そんなも、こんなも、ありません…それが、事実…真実ですよ…」
「…」
「…ボクも、米倉の中にいる、水野のスパイの人間に、めぼしは、つけていますが、気付いていないものも、それなりに、います…」
「…」
「…とりわけ、父の周辺にいる、水野のスパイには、気付かなかった…」
「…気付かなかった?…」
「…ハイ…」
「…高見さんの職場にいる、米沢京子さんという女性…高見さんは、ご存じですね?…彼女は、水野のスパイです…」
「…ウソ?…」
「…ホントです…ウソじゃ、ありません…」
「…だって、彼女は、アナタのお父様の平造氏に、面倒を見て、もらったんじゃ…」
「…だからですよ…」
「…えっ? どういうことですか?…」
「…彼女、米沢京子さんは、父に世話になった…調べたところ、父に、大学の学費等を出してもらったそうです…高見さんは、ご存じないでしょうが…」
私は、知っていたが、それを、知っていると、言うのも、どうかと、思った…
だから、黙っていた…
あえて、なにも、言わなかった…
すると、
「…要するに、父が、信用している人間ですよ…あるいは、信頼している人間ですよ…」
「…どういうことですか?…」
「…父が信用、信頼している人物を、スパイに仕立てれば、余計に、情報が入る…信用しているから、うっかり、聞かれては、まずい情報も、ポロリと漏らしてしまう…」
「…」
「…その米沢京子という女性も、きっと、なんらかの父に対する不満があったのでしょ? そういう人間が、狙われる…」
「…どうして、ですか?…」
「…父に対して不満があるからですよ…なにが、不満なのかは、ひとそれぞれですが、不満があるのは、間違いない…だから、寝返ってくれる…スパイになってくれる…」
「…」
「…その米沢京子という人物…わざと、高見さんに、自分を印象づけることを、していませんでしたか?…」
「…どうして、それが、わかるんですか?…」
「…たぶん、自分を印象づけるためです…」
「…印象づけるため? それは、一体、どうして?…」
「…そうしておけば、たぶん、どこからか、父の耳にも、入る…水野にいる米倉のスパイは、大勢います…」
「…大勢って?…」
「…つまり、わざと高見さんに、辛く当たるなり、真逆に、仲良くなったりするなりして、自分を印象づける…そうすれば、それが、父の耳に入り、どういうことだと、父が、彼女を呼びつけることになる…たぶん、それが、彼女の狙いです…」
…そうか?…
まさか、そんな狙いがあるとは、思わなかった…
それで、あのとき、熱海で会ったんだ?
私は、納得した…
実に、納得した…
そして、私が、ようやく、米沢京子の私に対する態度に、納得したときに、
「…高見さんも、気を付けて下さい…」
と、正造が、言った…
「…気を付ける? …なにを、気を付けるんですか?…」
「…透のことですよ…いや、父親の良平氏のことかも、しれない…」
「…どういうことですか?…」
「…いずれ、良平氏も、今度の騒動の真相を知るときが、来るでしょう…」
「…騒動の真相って…」
「…今、高見さんに、ボクが言った、透が、サウジアラビア政府と共同で、ビッグプロジェクトをやろうと仕掛けた張本人が、父の平造であると、良平氏も、時期に知るでしょう…」
「…それが、一体、なにか?…」
「…いえ、今回の騒動の真相を知った良平氏が、意趣返しというか…高見さんに、なにか、仕掛けてくるのか、それが、心配なんです…」
「…どうして、良平氏が、私になにか、仕掛けてくるんでしょうか?…」
「…それは…」
「…それは、なんですか?…」
「…それは、高見さんが、高見さん自身が、思っているよりも、はるかに、存在が大きいからです…米倉にとっても、水野にとっても…」
「…存在が大きい?…」
「…そうです…」
「…正造さん…」
「…なんですか?…」
「…私をからかわないで、下さい…」
「…からかう? ボクが…」
「…そうです…」
「…ボクが、いつ、高見さんをからかったんですか?…」
「…だって、今、良平氏が、私に意趣返しをするんじゃないかと、おっしゃったでしょ?…」
「…ハイ…言いました…」
「…どうして、私が、意趣返しの対象にならなくちゃならないんですか? 私は、そんな重要人物でも、なんでも、ありませんよ…」
「…重要人物ですよ…」
「…えっ?…」
「…高見さんが、気付いてないだけです…」
「…どうして、私が、重要人物なんですか?…」
「…だって、高見さんは、透にも、思われているし、好子も、高見さんには、気を許している…弟の新造も、そうです…高見さんには、気を許している…」
「…そんな大げさな…たまたまですよ…私は、VIPでも、なんでもありません…」
「…いえ、米倉と水野の中では、VIPです…」
「…ウソ?…」
「…ホントです…」
「…」
「…ですから、高見さんの身が心配です…」
「…どうして、心配なんですか? 私は、正造さんの言う通りなら、透さんにも、気に入られてます…仮に、それが、ホントなら、透さんの父親の良平さんが、私になにか、するなんて、ありえないことじゃ、ないですか?…」
「…それは、違います…」
「…どう違うんですか?…」
「…ひとは、どう行動するのか、わからない…」
「…えっ?…」
「…たしかに、高見さんの言うことは、わかります…息子の透が、高見さんを気に入っている…だから、父親の良平氏が、高見さんに、なにか、するわけはない…そう、考えるのは、わかります…」
「…」
「…でも、こう考えれば、どうですか? 例えば、高見さんを、わざと、苦境に陥らせる…それを、知った透が、父親の良平氏に、怒る…すると、良平氏が、オマエが、平造にそそのかされて、バカなことを、するから、オマエをこらしめるために、わざと、オマエが好きな高見さんを、苦しめたんだと、でも、言えば、どうですか?…」
「…そんなバカな…」
「…たしかに、バカなことですが、ありえないことでは、ないと思いますよ…」
「…」
「…それに、あの米沢京子さんと、言いましたっけ…まだまだ、謎が、ありますよ…」
「…謎?…」
「…これは、まだ調査中だから、高見さんに言うわけには、いきませんが、まだまだ謎があります…」
正造が、意味深に言う…
私は、戸惑ったが、その戸惑っている最中に、
「…では、これで失礼します…」
と、言って、正造が、電話を切ろうとした…
私は、慌てて、
「…ちょっと…ちょっと、待って下さい…まだ、お聞きしたいことが…」
と、言ったが、正造は、そんな私にお構いなく、プツンと、電話を切ってしまった…
私は、恨めし気に、電話を、見て、
「…正造のヤツ…」
と、呟いた…
正直、許せなかった…
私が、話しかけている最中に、電話を切ったのが、許せなかった…
許せなかったのだ…
私は、恨めし気に、手に握りしめたスマホを、見た…
ホントなら、思わず、投げ捨てたいぐらい、頭に来たが、まさか、それは、できない…
グッと、思い切って、握りしめることもできない…
感情に任せて、握り締めれば、壊れかねないからだ…
たかだか、身長155㎝足らずの私が、思いっきり、スマホを握り締めたところで、壊れるとは、思えないが、まさかと、いうことは、あるからだ…
だから、ただ、恨めし気に、スマホを見た…
そして、それから、お風呂に入ることにした…
ホントなら、会社から、帰って来たら、真っ先に、お風呂に入るのが、いつもの習慣だったが、今日は、船見さんのことも、あって、すぐに、お風呂には、入らなかった…
つい、自分の部屋で、考え事をしていた…
私は、今で言う、子供部屋オバサン(苦笑)…
子供の頃から、ずっと、この部屋で、暮らしている…
さすがに、33歳の今は、まだオバサンではないが、このまま、5年も、十年も、ずっと、この部屋にいれば、オバサンになる…
40歳を過ぎれば、誰もが、オジサン、オバサンだからだ…
以前、元AKBの大島麻衣さんという女性が、自分のことを、
「…35歳の女のコ…」
と、言って、世間から、失笑された…
さすがに、どこの世界でも、35歳の女のコは、いないからだ(爆笑)…
だから、私も、さすがに、自分のことを、
「…女のコ…」
とは、言わないが、まだ、オバサンとも、言いたくない(苦笑)…
しかし、オバサンと呼ばれるのは、もうすぐ…
そこまで、迫っている…
40歳で、オバサンと呼ばれない女は、誰もいないからだ…
当然、私も例外ではない…
そして、
そして、だ…
つい、最近、知ったのだが、時間の長さ…
5歳の子供と、50歳の大人では、時間に関する感覚が、違うということだ…
具体的には、5歳の子供の一日は、50歳の大人の十日に匹敵するそうだ…
通りで、大人になれば、時が、経つのが、誰もが、早いと、感じるはずだ…
誰もが、大人になれば、一日が、終わるのが、早い…
子供の頃は、一日が、もっと長く感じていたはずだ…
子供の頃は、当然、わからないが、大人になれば、誰もが、実感する…
しかしながら、5歳の子供の一日が、50歳の大人の十日に匹敵するというような具体的な日数は、わからなかった…
そして、そんなふうに、説明されると、私が、40歳になるのも、早い…
私が、思ったよりも、はるかに、早いに違いない…
つまり、私が、オバサンと呼ばれる日も、早いということだ(涙)…
生きていれば、誰もが、歳を取るのだから、仕方がないと、言ったものも、いるが、事は、そう単純なものではない(苦笑)…
女なら、誰もが、オバサンと呼ばれたくない…
いや、
オバサンと呼ばれるのは、仕方がないが、その日が来るのが、一日でも、遅く来て欲しい…
そういうことだ…
私は、思った…
強く、思った…




