恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 91
そして、そんなことを、考えながら、またも、目の前のカフェオレを飲んだ…
そして、まだ、目の前の船見さんが、コーヒーに手をつけてないことに、気付いた…
それゆえ、
「…船見さん…コーヒーを飲んだら…」
と、勧めた…
「…せっかく、頼んだのだから、早く飲まないと、冷めちゃうわよ…」
と、勧めた…
彼女は、一瞬、戸惑ったが、しぶしぶ、私の言葉に従った…
たしかに、私の言う通り、早くコーヒーを飲まないと冷めてしまうと、思ったのだろう…
冷めたコーヒーほど、まずいものは、ない…
とても、飲めたものでは、ないからだ…
一方、私はと、言えば、私の勧めで、無言で、コーヒーを飲む船見さんを、見ながら、なにを、言おうか、考えた…
もちろん、私は、前沢さんと不倫など、していない…
しかし、いくら、それを、言っても、目の前の船見さんは、聞く耳を持たないだろう…
だと、すれば、言っても、無駄…
無駄だ…
だから、それを、考えれば、とりあえず、話を変えるに、限る…
そう、思った…
そう、考えた…
それゆえ、
「…一体、どこから、そんな話を聞いたんですか?…」
と、聞いた…
さすがに、まったく話を変えることは、できない…
まっすぐに、不倫を否定することではなく、その周辺から話を始めるのが、一番だと、気付いた…
「…誰か、会社の同僚ですか?…」
私が、聞くと、船見さんが、黙った…
黙って、コーヒーを飲んでいた…
私は、これ以上、聞くのは、どうかと、考えた…
今、彼女は、答えない…
それなのに、これ以上、聞いても、仕方がない…
逆切れでも、されたら、困る…
困るのだ…
しかし、それに、しても、あの前沢が、不倫とは?
予想だに、しなかった…
たしかに、目の前の船見さんは、魅力的…
魅力的だ…
私のようなちっぽけで、やせっぽちの女より、魅力的…
背が高く、胸も、お尻も、大きい…
たしかに、男の視線から、見れば、魅力的に決まっている…
昔、父が、笑いながら、私に対して、言った…
「…ちづるは、服を着ているから、いいんだよ…」
と、笑って、言った…
「…どういう意味?…」
と、私。
「…ちづるは、親のボクから見ても、掛け値なしの美人だけれども、水着を着て、プールや、海水浴場に行けば、目立たないよ…」
「…どうして、目立たないの?…」
「…だって、プールや海水浴場では、水着を着た大柄な、スタイルの良い女のコの方が、目立つ…いくら、顔が良くても、誰もが、真っ先に、カラダに目が行く…」
「…」
「…これは、ボクが、男だから、余計に、そうなのかも、しれないけれども、たぶん、女のひとも、そうじゃないのかな? そうだろ? 母さん?…」
と、父は、隣にいる、母に聞いた…
すると、母は、笑いながら、
「…知りませんよ…それは、お父さんの言い分でしょ?…」
と、答えた…
「…でも、お父さんの言うことも、わかります…普段は、学校や会社で、いつも、接していても、誰も、水着姿なんて、見たことが、ないでしょ? それが、水着姿になれば、どうしても、男のひとも、女のひとも、背の高い、スタイルの良いひとの方に、つい、目が入ってしまうものよ…」
と、母が、笑って答えた…
そして、私も母の言葉に同意した…
激しく、同意した…
たしかに、そう言われれば、わかる…
父の言うことも、わかる…
そして、そのときは、わからなかったが、後で、こっそりと、母が、私に教えてくれた…
「…お父さんはね…ちづるに、調子に乗るなと、言いたかったんだと、思うよ…」
と、言った…
「…私が、調子に? どうして?…」
「…ちづるは、お父さんの目から見ても、キレイで、可愛いけれども、それで、調子に乗っては、ダメだと、言いたかったんだと、思うよ…」
「…」
「…だから、いくら、美人でも、カラダの大きな、スタイルの良い女の人の方が、水着になれば、ちづるより、魅力的だと、言いたかったんだと、思うよ…私の深読みのし過ぎかも、しれないけれども…」
母が、説明した…
そして、そう、言われると、母の言うことも、わかった…
たしかに、母の言う通り、父が、忠告してくれた当時は、私は、中学生…
言葉は悪いが、色気付いた頃だ(苦笑)…
だから、当時、私は、クラス中の男どころか、他のクラスの男のコや、違う学年の男のコからも、コクられた…
私が、若い頃の女優の常盤貴子さんに、似た美人だったからだ…
だから、コクられた…
告白された…
自分で言うのも、なんだが、当時、私の通う中学校で、私に匹敵する、美人の女のコは、いなかった(爆笑)…
だから、自分でも、気付かないうちに、調子に乗っていた…
それが、父の目にも、わかったのだろう…
だから、私に釘をさす意味で、言ったのだろう…
そして、私も歳を取り、少しは、周囲を見る目ができてきた…
大学を出て、就職…
会社に入る前にも、学生時代にアルバイトをして、さまざまなひとたちと、接した…
すると、当たり前だが、私と同じくらいの美人や、明らかに、私以上の美人を目の当たりにすることになった…
それを、見て、当たり前だが、世の中には、案外、美人が、多いものだと、納得した(苦笑)…
ただ、それまでは、私の周りに、私以上の美人が、いなかっただけ…
そう、納得した…
そう、心の底から、納得した(苦笑)…
そして、父が、言った、ナイスバディの女のひと…
それは、私も大学生や社会人になって、友人と、プールや、海にいって、父の言うことを納得した…
背が高く、スタイルの良い、モデルのような女のひとを、見て、圧倒された…
それまでは、普段、どこかで、すれ違っても、意識しないようなひとでも、水着になると、ハッと、目を引く…
どうしても、カラダが、大きく、スタイルが良ければ、目を引く…
とりわけ、男のひとから目を引くことが、彼女たちを見る、男たちの視線から、わかった(爆笑)…
そして、なにより、そんな場所では、誰も、私を見ない(苦笑)…
普段、美人と、周囲にチヤホヤされた私を見向きもしない(涙)…
正直、それが、ショック…
自分でも、ビックリするほど、ショックだった…
それまで、長く伸びた私の鼻っ柱を、思いっきり、へし折られた気分だった…
そして、それ以来、私も少しは、天狗にならなくなった…
以前ほど、天狗ではなくなった…
さすがに、この経験が、ショックだったからだ…
そして、それ以来、トラウマになった…
背の高く、スタイルの良い、モデル体型の女性に対して、トラウマになった…
コンプレックスになった…
背の高いモデル体型の女には、勝てない…
どうあがいても、勝てない…
潜在的な恐怖にすら、なった…
そして、今、目の前に、そのタイプの女が、いる…
ずっと、以前、私が、勝てないと、感じた女がいる…
これって、皮肉…
もしかしたら、皮肉と、思った…
神様からの皮肉と、思った…
あの米沢京子は、目の前の船見さんと、同じタイプの背の高く、スタイルの良いモデル体型の女で、彼女の方が、船見さんより、美人だが、いわゆる、男好きするタイプではない…
この船見さんは、男好きするタイプ…
顔は、良くないが、色っぽい…
それゆえ、男好きするタイプ…
あの前沢が、船見さんと、不倫していても、驚かない…
さも、ありなんと、納得する…
そういうことだ…
私は、目の前の船見さんを、見ながら、そう、考えた…
考えたのだ…
そして、目の前の船見さんに、どう言えば、いいか?
考えた…
考え続けた…
そして、考え続けた結果、今、思ったことを、言えば、いいのでは?
と、気付いた…
父が、私に警告をしたことを、言えば、いいのでは?
と、考えた…
そして、少し、考えて、それを、実行に、移した…
「…船見さん…」
と、呼びかけて、実行に移した…
「…なんですか?…」
「…私なんて、船見さんから、見れば、お子様…小学生のお子様よ…」
「…お子様? どういう意味ですか?…」
「…カラダの大きさよ…」
「…カラダの大きさ?…」
「…船見さん、170㎝近くあるでしょ?
私は、155㎝…正直、船見さんのカラダを見て、私のカラダを見てみたいなんて、男のひとは、誰もいないわ…」
「…」
「…どうしても、水着や裸になれば、背が高く、スタイルがいい女性が、有利になる…私なんて、自分で、言うのも、なんだけれども、服を着ているから、良く見えるのよ…服を着なければ、お子様…ただのお子様よ…」
「…お子様?…」
「…もちろん、男のひとの好みも、さまざま…ひとそれぞれでしょうけれども、船見さんと、お付き合いして、私と、付き合うなんて、私が、男のひとなら、考えられないわ…」
私は、言った…
力強く、言った…
そして、それは、目の前の船見さんにも、伝わったようだ…
「…私と付き合って、高見さんと、付き合うなんて、考えられない…」
船見さんが、小さく、呟いた…
「…もちろん、船見さんが、私の言葉を信じるか否かは、わからないわ…でも、私は、前沢さんと、お付き合いしていない…これは、断言できる…」
私は、言った…
力強く言った…
「…でも、それを、信じるか否かは、船見さん次第…私は、もう、これ以上、なにも、言うつもりは、ないわ…」
私は、言った…
「…だから、この話は、これで、おしまい…もし、この話以外の話が、なければ、私も船見さんも、これが、飲み終わったら、この店を、出ましょう…」
と、言った…
船見さんも、私の言葉を聞いて、根負けしたというか…
なにも、言わなかった…
話は、平行線…
決して、交わることはない…
一方は、
「…不倫しているでしょ?…」
と、言い、もう一方は、
「…不倫は、していない…」
と、答える…
これでは、話は、平行線…
どこまで、いっても、交わらない…
そういうことだ…
そして、船見さんも、それが、わかったのだろう…
これ以上、なにも、言わなかった…
これ以上、なにを、言っても、水掛け論になる…
一方は、
「…前沢さんと、付き合っているでしょ?…」
と、言い、もう一方は、
「…付き合ってない…」
と、言う…
これでは、何度も言うように、平行線…
いつまで、経っても、平行線のままだ…
それゆえ、それが、わかった船見さんも、またこれ以上は、なにも、言わなかった…
ただ、黙っていた…
なにより、不倫の話題を、店の中で、するのは、マズい…
誰が、聞いているか、わからないからだ…
壁に耳あり、障子に目がありではないが、まさか、衆人環視の店の中で、これ以上、不倫の話をするのは、マズい…
それが、船見さんにも、わかったのだろう…
それゆえ、それ以上は、なにも、言わなかった…
私に話しかけなかった…
私を、それを、見て、請求書を手に取り、
「…お先に…」
と、言って、席を立った…
店の会計で、船見さんと私の分を払って、店を出た…
当たり前だが、船見さんは、私を追って、来なかった…
私は、歩いて、駅に向かって、家に帰った…




