恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 84
そして、そこまで、考えたとき、
「…彼女には、謎がある…」
と、正造が、言った…
「…謎?…」
「…そうです…」
「…なにが、謎なんですか?…」
「…まずは、父が、彼女を選んだこと…」
「…選んだこと?…」
「…米倉報公会の名簿には、多数の人間が、います…ですから、なぜ、彼女なのか、わからない…それが、謎です…」
「…」
「…そして、もう一つは…」
「…もう一つは?…」
「…なぜ、今の職場に配属されたのか?…」
「…どういう意味ですか?…」
「…彼女が、今の職場に、配属されたのは、高見さんより、先です…ですが、高見さんと、同じ職場に配属された…」
「…」
「…これは、単なる偶然か? それとも…高見さんが、配属されるのを、事前に知っていて、あらかじめ、同じ職場に、配属したのか?…」
正造が、言う…
実に、意味深に言う…
まるで、解けないミステリーのように、言う…
が、
それでは、まるで、私が、重要人物…
それでは、まるで、私をマークするように、彼女を配置したことになる…
そう、考えると、ちゃんちゃら、おかしかった…
なにしろ、私だ…
私、高見ちづるだ…
生まれも、平凡なら、育ちも、平凡…
平凡そのものの女だ…
そんな平凡な女を、まるで、重要人物のように、扱う…
それが、面白かった…
同時に、バカバカしかった…
だから、
「…正造さん…それでは、まるで、私が、重要人物のようですよ…」
と、笑った…
笑って言った…
「…私が、そんな大物のわけ、ないじゃないですか?…」
私が、言うと、
「…いえ、大物です…」
と、正造が、答えた…
至極、真面目な感じで、答えた…
私は、思わず、
「…ふざけないで、下さい!…」
と、怒鳴りかけたが、それでは、面白くない…
だから、
「…あら、一体、私が、どうして、大物なんですか?…」
と、真逆に正造に、聞いてやった…
その方が、面白いと、思ったからだ…
すると、正造が、電話の向こう側から、
「…人脈ですよ…」
と、一言、答えた…
「…人脈?…」
「…そうです…」
「…一体、私にどんな人脈があるんですか?…」
「…水野透と、米倉好子…」
「…二人が、どうか、したんですか?…」
「…二人とも、高見さんが、好き…高見さんを、頼りにしている…」
「…頼りにしている? そんなことは、ありませんよ…」
「…いえ、高見さんが、思っていないだけです…」
「…」
「…それに、二人の素性です…」
「…素性?…」
「…透は、次期水野クループ総帥…好子は、米倉家当主です…ですから、二人とも、大物です…」
「…大物…」
「…高見さんは、近付き過ぎたんですよ…」
「…近付き過ぎた?…」
「…ボクが、言うのも、なんですが、二人とも、凄い肩書です…二人の結婚は、高見さんも、ご承知のように、テレビやネットで、大々的に話題になりました…でも、身近に、いて、親しくなれば、なんともない…なんとも、思わない…」
「…なんとも思わない?…」
「…二人とも、至って、平凡な人間です…だから、高見さんも、最初は、二人の生まれを見て、緊張したかも、しれませんが、じきに、なんとも、思わなくなったでしょ?…」
米倉正造に、言われると、その通り…
その通りと、頷かざるを得なかった…
最初は、この正造に、あの米倉の豪邸に、招かれ、緊張した…
次には、あの透と、知り合った…
透は、身分を隠して、私と会ったが、元来は、透は、軽い性格…
その後、水野財閥の御曹司と、わかったが、それでも、偉いとは、思えなかった…
私より、偉いとは、思えなかった(笑)…
そういうことだ…
好子さんに、しても、そう…
好子さんに、しても、同じだ…
最初は、大金持ちのお嬢様だから、私とは、身分が違うと思ったが、知り合って、会話を交わす間に、だんだんと、距離が、縮まり、仲良くなった(苦笑)…
つまりは、私は、いつのまにか、二人と仲良くなったということだ…
私とは、身分違いの二人と、仲良くなったということだ…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…だから、高見さんが、重要なんですよ…」
と、正造が、電話の向こう側から、念を押した…
「…私が、重要?…」
「…二人に、影響力がある…だから、高見さんを監視する必要がある…」
「…私を監視?…」
「…たぶん、あの米沢京子が、高見さんと、同じ職場に配属されたのは、そのためです…」
正造が、断言した…
私が、思ってもいないことを、断言した…
と、同時に、驚いた…
私が、そんな重要人物扱いされていることに、驚いた…
が、
しかしながら、そう、言われれば、わかる…
そう、説明されれば、わかる…
私が、重要人物であることがわかる(苦笑)…
監視したくなるほどの重要人物だということが、わかるのだ…
「…ですから、くれぐれも、気を付けることです…」
正造が、言った…
そして、それを、最後に、電話を切ろうとした…
「…いいですか? 自分の立ち位置、影響力を考えて、行動して下さい…」
「…影響力?…」
「…そうです…」
その言葉を最後に、正造が、電話を切った…
私は、まだ、正造と、話したかった…
だから、電話を正造に、かけようかと、思った…
一瞬だが、思った…
が、
止めた…
これ以上、正造と話しても、情報が、得られないと、思ったからだ…
正造は、おしゃべりではない…
それゆえ、余計なことは、言わないだろう…
いくら、私が、聞いても、しゃべらないだろう…
これが、おしゃべりな人間なら、違う…
私と話している最中に、つい、余計なことを、しゃべってしまうからだ…
だから、それを、狙って、会話を続けることが、できる…
が、
正造は、おしゃべりではない…
こちらが、聞いても、肝心なことは、はぐらかすだろう…
それが、わかっているから、電話をかけるのは、止めた…
それに、しても…
それに、しても、ストレスがたまる…
一体、なにが、目的だ?…
一体、なにを、目的にして、動いているのか?
さっぱり、わからない…
誰が、なにを、目的に、動いているのか?
さっぱり、わからない…
それゆえ、不満が、たまった…
ストレスが、たまった…
私は、そんなことを、考えながら、お風呂に入った…
お風呂に入って、湯船に浸かり、考える…
すると、なんだか、ホッとする…
ホッとして、考えが、浮かぶ…
今回の一件は、私が、今のM商会に、入社してから、始まった…
M商会は、水野グループ…
M商会のMは、水野のM…
M商会の支店、いや、営業所が、私の自宅から、近い場所にあったから、そこに入れてもらった…
透の父親である、水野グループ総帥の水野良平に入れてもらった…
以前、勤めていた、金崎実業の居心地が悪くなり、自分から、退職せざるを得なくなったからだ(涙)…
だから、働く場所をなくした私に水野良平が、手を差し伸べてくれた…
それゆえ、私は、良平に感謝した…
滅茶苦茶、感謝した…
が、
さっきの米倉正造の言葉で、ふと、気付いた…
見方を変えれば、私は、良平が、トップの水野グループで、働いている…
それゆえ、私の動静は、すべて、良平に伝わっているに、違いない…
見方を変えれば、私は、監視されているに、等しい…
良平に監視されているに、等しいのだ…
私は、それに、気付いた…
遅まきながら、気付いた…
つまりは、私は、良平の手のひらの中にいる…
私の一挙手一投足は、良平に伝えられている可能性がある…
だとしたら、一体、良平は、なぜ、そんな真似をするのか?
すべては、透のため?…
息子の透のためだ…
透は、私と親しい…
それゆえ、私を監視していれば、透の動静がわかる…
今、透は、制御が、効かなくなっている…
父の良平に無断で、サウジアラビア政府と共同で、なにやら、ビッグプロジェクトをやると、大風呂敷を広げた…
とても、水野グループのすることではない…
水野グループの実力をはるかに、超えている…
それが、できるのは、日本では、三井や、三菱、住友、そして、五井ぐらいのものだ…
サウジアラビアのような大国と共同で、プロジェクトを立ち上げることなど、水野グループの力では、到底できない…
それが、わかっている良平は、心配して、私に相談した…
この高見ちづるに、相談した(苦笑)…
この高見ちづるに、胸の内を明かした…
が、
考えてみれば、おかしい…
こんな平凡な私に、水野グループの総帥が、そんなことを、打ち明けるのは、おかしい…
なにしろ、私だ…
高見ちづるだ…
平凡な女だ…
どこにでも、いる平凡な女だ…
他人様よりも、優れているとすれば、ルックスだが、それでも、この世の中には、私よりも、キレイな女は、ごまんといる(苦笑)…
現に、私は、米倉好子さんと、ルックスが似ている…
姉妹レベルで、似ている…
つまりは、私レベルのルックスの女は、世の中に、ごまんといるということだ…
が、
私は、たしかに、その好子さんとも、仲がいい…
なぜか、わからないが、仲がいい…
いや、
なぜか、わからないのでは、ない…
なぜなのか、わかっている…
それは、今も言ったように、私と好子さんが、姉妹のように、似ているから…
同じタイプの美人だから…
身長、155㎝ほどの小柄な美人だからだ…
それゆえ、好子さんは、私に悩みを打ち明けた…
学生時代から、大勢の男に告白された悩みを打ち明けた…
これは、普通なら、できない…
なぜなら、普通にそんなことを、打ち明ければ、いかに、仲の良い同性の友人でも、調子に乗っていると、思われるからだ…
美人だから、調子に乗っていると、思われるからだ…
だから、相談することが、できない…
打ち明けることが、できない…
そういうことだ…
だが、それが、私なら、できた…
私なら、話すことが、できた…
同じルックスだから、同じような環境だろうと、推察されたからだ…
同じように、大勢の男たちから、コクられた経験があると、思われたからだ(笑)…
だから、仲良くなれた…
そして、そこまで、考えたとき、あらためて、良平が、私を手元に置きたい理由がわかった…
水野グループに置きたい理由が、わかった…
透と、好子さんと、仲が良い私…
私、高見ちづる…
私を監視することで、二人の動静を知ることが、できる…
そう、思ったに違いなかった…




