恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 80
私は、頭に来た…
怒髪天を衝くほど、頭に来た…
と言いたいところだが、それほどでも、なかった…
なぜ、それほどでも、なかったのか?
それは、目の前のボンボンに、私が、そんなことを、言われるとは、思っても、みなかったからだ…
だから、あまりに突然のことで、どう対応して、いいか、わからなかった…
どう、返答していいか、わからなかった…
それゆえ、唖然として、目の前のボンボンを見た…
目の前の苦労知らずのボンボンを見た…
そして、考えた…
もしかして、これが、生まれ?
これまで、四十数年生きてきて、なんの生活の苦労も、したことが、なく、生きてきたことへの答え?
そう、思った…
そう、考えた…
生まれつき、上流階級に生まれる…
それゆえ、平民を小馬鹿にする…
平民に上から目線で接する…
そう、思ったからだ…
だから、そう考えると、許せなかった…
目の前の、ボンボンを許せなかった…
だから、
「…失礼ですよ!…」
と、言ってやった…
怒って言って、やった…
が、
この目の前のボンボンには、通じなかった…
私の怒りが、通じなかった…
「…でも、事実でしょ?…」
と、笑って言ったからだ…
私は、頭に来たが、どう答えていいか、わからなかった…
なんて、返答していいか、わからなかった…
だから、質問することにした…
質問に質問で、返すことにしたのだ…
「…どうして、そう思うんですか?…」
と、質問した…
なぜ、そう、思うのか、知りたかった…
文字通り、知りたかった…
すると、笑いながら、
「…高見さん、気が強すぎ…」
と、答えた…
「…気が強すぎって?…」
「…いくら、美人でも、男は、あまりにも、気が強い女に、誰もが、手を出しませんよ…」
と、笑った…
「…猛獣じゃないけれど、手ごわそうと、思ってしまう…」
五井のボンボンが、笑った…
これまで、思ってみたことがないことを、笑って言った…
たしかに、言われてみれば、わかる…
学生時代、
「…高見は、美人だけれども、気が強そうで、あれじゃ…」
と、言うのを、何度か、聞いたことがある…
遠巻きに、聞いたことがある…
しかしながら、今のように、目の前で、言われたことは、ない…
一度もない…
私は、思った…
私は、考えた…
だから、頭に来た…
余計に、頭に来た…
が、
真逆に、目の前のボンボンは、楽しそうだった…
明らかに、楽しそうに笑っていた…
それは、私をバカにしているのではなく、ただただ、楽しそうに、笑っていたからだ…
「…もしかしたら、ボクは、米倉さんの仕掛けた罠にハマったのかも…」
と、言って、笑った…
「…罠? どんな罠ですか?…」
私は、怒って言ってやった…
「…ボクが、高見さんを、好きになる罠…」
と、言って、笑った…
仰天することを、言って笑った…
「…まあ、本音では、あの米倉さんが、どうして、ボクに、高見さんと会ってみれば、いいと言ったのかは、わかりませんが、ボクが、高見さんを好きになったのは、たしかです…」
と、臆面もなく、言う…
普通なら、気恥ずかしくなることを、あっさり言う…
私は、それを、見て、
…これは、やはり、生まれの違いなんだろうか?…
と、思った…
普通なら、まるで、ドラマや小説の中のセリフのようなことを、あっさりと、言う…
こんな歯の浮くようなセリフは、普通なら、なかなか、言えないものだ…
いくら、家の中で、二人きりで、いても、なかなか言えないものだ…
しかしながら、それこそが、生まれの差…
生まれたときから、一度も、生活の苦労をしたことのない、金持ちのボンボンだから、言えるセリフなのかな?
と、考えた…
と、思った…
ハッキリ言えば、世間知らずだから、言えるのかなと、思った…
思ったのだ…
それゆえ、そんなふうに、考えると、ここで、私が、怒っても、仕方がないことかも、しれないと、考えた…
なにしろ、相手は、世間知らずのボンボン…
そんなボンボンに、常識を説いても、そもそも、世間の常識がわからないに違いないからだ…
そう、思うと、怒るのが、バカバカしいというか…
仕方がないことだと、考えた…
なにを、言っても、仕方がないことだと、悟ったというか…
そもそも、私のような一般人と感覚が、違うんだと、思った…
だから、そう考えると、怒りも、なくなった…
なにを、言っても、話が嚙み合わないかも、と、思ったからだ…
だから、なにを、言っても、仕方がない…
が、
やはり、なんで、私を好きになったのか?
知りたい…
そう、思ったからだ…
それゆえ、
「…好き? …どうして、私を好きなんですか?…」
と、聞いた…
聞いてやったと言うのが、正しいかも、しれない…
なぜなら、こんな世間知らずのボンボンの相手をしても、仕方がないからだ…
が、
その世間知らずのボンボンが、真顔で、
「…ボクが、おとなしいからです…」
と、答えた…
「…おとなしい?…」
思わず、目の前のボンボンの言葉を反芻した…
「…それが、どうか、したんですか?…」
「…渡る世間は鬼ばかりという言葉じゃないが、夫婦二人とも、おとなしくては、この厳しい世間は、生きることが、難しい…だからです…」
一瞬、絶句した…
そう、言われれば、誰もが、納得する…
誰もが、納得せざるを得ない…
たしかに、夫婦二人とも、おとなしくては、困る…
どちらかが、強くなければ、いけない…
二人とも、おとなしくては、この厳しい世間の荒波を受けて、生きることは、難しいからだ…
だから、おとなしい、このボンボンが、私を好きになったと、言うのは、わかった…
この気の強い、私、高見ちづるを好きになったのは、わかった…
が、
私より、気が強い女が、身近にいることを、思い出した…
ふと、思い出した…
あの米沢京子を思い出した…
が、
あの米沢京子が、このボンボンと知り合っては、マズい…
そんなことは、ありえないと思うが、あの米沢京子が、このボンボンと知り合って、このボンボンに気に入られたら、マズいと、思った…
あの米沢京子が、天下の五井家の跡取りと結婚しては、マズいと、思ったのだ…
そんなことになれば、あの米沢京子が、金持ちになってしまう…
とんでもない大金持ちになってしまう…
それは、許せない…
断固として、認められない…
だから、そんなことがあっては、困る…
困ると、思ったのだ…
そして、そんなことを、考えていると、
「…おや、また、なにか、考えていますね?…」
と、楽しそうに、言った…
実に、愉快そうに、言った…
私は、この大金持ちのボンボンの上から目線の態度に、頭に来た…
実に、頭に来た…
が、
怒っていいのか、どうか、わからない…
なぜなら、この私と、常識が、違う…
この平凡な生まれの高見ちづると、この大金持ちのボンボンとは、常識が違うからだ…
だから、怒っていいか、どうか、わからなかった…
わからなかったのだ…
すると、だ…
「…諏訪野さん…いい加減にしたら、どうですか?…」
と、いう声がした…
女の声がした…
私は、急いで、その声のする方を振り返った…
と、
そこには、寿さんが、いた…
あのフリーアナウンサ―お近藤サトさんに、若い頃に似た容姿の寿さんが、いた…
いつのまにか、この部屋に入って来たに、違いなかった…
なにしろ、この部屋は、広い…
畳に数えれば、何畳あるか、わからない…
その大きな部屋に、これまで、このボンボンと、私が、二人きりで、いたのだ…
考えてみれば、変だが、もしかして、このボンボンが、誰も、この部屋に入って来ないように、あらかじめ、言っていたのかも、しれない…
その可能性が高い…
こんな大きなお屋敷だ…
当然、お手伝いの女性が、数人いるに違いない…
にも、かかわらず、今まで、誰も、来なかった…
これは、不思議というか…
ありえないことだからだ…
だから、そう、考えれば、ここに、あの寿さんが、現れても、驚かなかった…
納得した…
寿さんは、この家のお手伝いさんでは、ないと、思うが、この場に、寿さんが、現れても、おかしくないと、思ったからだ…
そして、その寿さんは、怒っていた…
明らかに、怒っていた…
怒った顔で、目の前のボンボンの近くに行き、ボンボンに詰め寄った…
「…伸明さん…アナタ、いい加減にして…高見さんに、失礼でしょ?…」
寿さんの、その言葉を聞いて、驚いた…
…ウソ?…
…寿さんが、私のために、怒ってくれている?…
と、思ったからだ…
だから、驚いた…
驚いたのだ…
それから、寿さんは、私に顔を向けて、
「…申し訳ありません…」
と、頭を下げて、詫びた…
「…この諏訪野さんは、わざと、高見さんを怒らせたんです…」
「…えっ? …わざと?…」
「…そう、わざとです…」
「…どうして、そんな真似を?…」
「…わざと、高見さんを、怒らせて、高見さんが、どう反応するのか、見てみたかったんだと、思います…」
「…えっ?…」
「…その反応を見ることで、そのひとが、どんな人間か、わかる…それは、この伸明さんの持論ですから…」
私は、驚いて、この目の前のボンボンを見た…
呆気に取られて、このボンボンを見た…




