恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 79
私は、驚いた…
まさに、仰天した…
まさか、この五井の若き当主が、本気で、私を口説いている?
さっきも、私を口説くような素振りを見せたが、まさか、本気?
本気で、私を口説いている?
そう、思ったからだ…
だから、私は、慌てて、この五井の若き当主の顔を見た…
いや、
顔では、ない…
目を見た…
目を見て、本気か、どうか、知りたかったからだ…
だから、目を見た…
本気で、私を口説いているのか、知りたくて、目を、見た…
すると、だ…
私を見ながら、
「…やっぱり、気が強そうですね…米倉さんの言う通りだ…」
と、言って、笑った…
実に、楽しそうに笑った…
とっさに、私は、この五井の若き当主に、
…からかわれている?…
あるいは、
…試されてる?…
と、思った…
おそらくは、あの米倉正造から、私のことを、詳しく聞いているのだろう…
この私、高見ちづるのことを、詳しく聞いているのだろう…
それゆえ、この私が、米倉正造の言う通りの女なのか?
試したかったに、違いない…
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
だから、
「…いくら、なんでも、失礼ですよ…」
と、憤って、言った…
わざと、憤慨して、見せたのだ…
「…私を好きでも、なんでもないのに、私を口説くフリをするなんて…」
と、憤って、見せた…
それから、続けて、
「…いくら、お金持ちでも、やっていいことと、悪いことがあります…諏訪野さんは、あの米倉正造さんのお友達ですから、きっと、米倉さんから、悪い影響を受けたのだと、思います…ですから、友達を選ぶことです…」
と、言ってやった…
憤慨して、言ってやった…
すると、どうだ?
目の前の五井の若き、当主が、目を白黒させた…
目を白黒させて、驚いた…
それから、一転、
「…気が強いと、聞いていたが、これほどとは?…」
と、言って、爆笑した…
「…これでは、たしかに、米倉さんが、一度、高見さんと、会って、妹の好子と比べて、みれば、いいと、言ったのが、わかる…」
と、言った…
私は、それを、聞いて、
「…どう、わかるんですか?…」
と、聞いた…
当たり前だった…
この目の前の大金持ちのボンボンが、私と、好子さんを、比べて、どう、思ったのか、知りたかったからだ…
「…二人とも、小柄な美人で、まるで、姉妹のように、似ている…しかも、二人とも、物凄く、気が強い…」
目の前の大金持ちのボンボンが言う…
私と好子さんを評して、言う…
しかも、
しかも、だ…
その評価には、頷かざるを得ない…
納得せざるを得なかった…
「…でも、ボクの見るところ、高見さんの方が、好子さんより、気が強いような…」
「…えっ?…ウソ?…」
「…高見さんの方が、たぶん、好子さんより、芯が強い…それは、たぶん、好子さんが、生粋のお嬢様のせいなんじゃ、ないかな?…」
「…どうして、お嬢様より、私の方が、芯が強いんですか?…」
「…それは、たぶん、高見さんが、普通のひとだからでしょう…好子さんは、生活の苦労がない…だから、内弁慶というか…周囲が、彼女を王様にしている…王様…いや、女王様に、している…だから、おそらく、打たれ弱い…逆境を経験したことが、ないから、打たれ弱い…それに、比べ、失礼ながら、高見さんは、金持ちでも、なんでもない…だから、好子さんに比べて、強い…ボクは、そう、思う…」
そう、言われると、納得せざるを得なかった…
納得せざるを得なかったのだ…
たしかに、私は、好子さんと、比べて、平凡…
平凡、極まりない家庭の出身だからだ…
なまじ、好子さんと、外見が、よく似ているから、周囲の人間に比べられる…
外見が、よく似ているから、以前、血の繋がっていない、好子さんを、父の平造が、狙っていると、誤解した、息子の正造が、私を、平造に与えようとした…
好子さんの代わりに、与えようとした…
つまり、私は、好子さんの身代わり…
身代わりだった…
と言うことは?
と言うことは、今は、どうなんだろ?
やはり、あの米倉正造は、好子さんの代わりに、私をこの五井の若き当主に、与えようとしているのか?
捧げようとしているのだろうか?
そのために、私をこの屋敷に、呼び出すように、仕向けたのだろうか?
私は、思った…
私は、考えた…
だから、それを、口にした…
「…諏訪野さんは、今日は、どうして、私を、ここへ、呼び出したんですか?…」
と、口にした…
しかし、私が、思っているよりも、目の前の五井の若き当主の口調は、軽かった…
「…米倉さんが、妹の好子と、そっくりの女性が、いますから、ぜひ、一度会ってみれば? と、提案されたんです…」
…やはり…
…やはり、そうか?…
「…でも、米倉さんの内心は、違う…本音は、違う…」
「…違う? …どう、違うんですか?…」
「…たぶん、ボクと、好子さんが、いっしょになるのが、心配だったのでしょう…」
「…心配?…」
「…ボクと、どうにか、なって、ボクが、捨てたりしたら、困ると、思ったのでしょう…実に、妹思いのお兄さんだ…」
目の前の五井の当主が、笑った…
実に、愉快そうに笑った…
「…米倉さんは、友人…その友人の妹さんと、ボクは、付き合うつもりは、まったくありませんよ…」
「…どうしてですか? どうして、付き合わないんですか?…」
「…仮に付き合って、うまくいかなければ、その友人と気まずくなる…でしょ?…」
「…それは…」
「…だから、ボクは、友人の妹さんや、姉さんとは、付き合わない…米倉さんは、ボクの大切な友人です…その友人を失いたくない…」
「…」
「…これは、お金の貸し借りと同じですよ…」
「…お金の貸し借りですか?…」
「…金の切れ目が縁の切れ目…お金がからむと、人間関係が、おかしくなるものです…」
目の前の五井の若き当主が、穏やかに説明する…
「…だから、ボクは、米倉さんの妹さんとは、付き合わない…」
と、断言した…
が、
私は、その真意を、おもんぱかった…
もしや?
もしや、これは、五井が、米倉の再建に力を貸さないということを、遠回しに言っているのでは、ないか?
そう、思ったのだ…
いや、
明らかに、そう、言ったに違いない…
つまり、私の口から、あの米倉正造に、そう伝えてもらいたいと、遠回しに、言ったに違いなかった…
私は、考えた…
考えたのだ…
一方、米倉正造の真意も、考えた…
私をなぜ、この五井の若き当主に、会わせたのか?
考えた…
それは、やはり、好子さんを、護るため?
好子さんと、この五井の若き当主が、男女の関係になることを、危惧したから、私に、会わせた?
そう、考えた…
「…実は、好子そっくりの女のひとを、知っています…会ってみませんか?…」
と、言われれば、誰でも。会いたくなるものだ…
だから、誘い文句といえば、実に、巧妙…
実に、巧妙だ…
が、
米倉正造の狙いがわからない…
なぜなら、好子さんと、この五井の若き当主と、男女の関係になった方が、実は、米倉にとっては、好都合…
実に、好都合だからだ…
好子さんと、目の前の五井の若き当主が、男女の関係になれば、五井が、米倉の再建に力を貸してくれる可能性が高くなる…
これは、誰にでも、わかること…
中学生でも、わかることだ…
もちろん、当事者である、この五井の若き当主にも、わかることだ…
それゆえ、この五井の若き当主は、好子さんに、手を出さなかった…
好子さんと、男女の関係になって、米倉の経営する大日産業に、融資をするのは、ごめんだったからだ…
また、それは、おそらく、見え見えというか…
すでに、そんなことは、あの米倉正造にも、わかっていたはずだ…
だから、私をこの五井の若き当主に紹介した目的がわからない…
まさか、あの平造に、私を与えようと画策したように、好子さんの代わりに、私を与え、その見返りに、米倉、いや、大日産業への融資を、この五井の若き当主に、求めるわけでは、あるまい…
だから、わからない…
あの正造の目的がわからない…
私は、悩んだ…
私は、考えた…
すると、だ…
この目の前の、五井の若き当主が、私を面白そうに、見ているのが、わかった…
見ている=観察しているのが、わかった…
あるいは、楽しそうに観察しているのが、わかった…
だから、私は、
「…なにを、見ているんですか?…」
と、聞いた…
直球で、聞いた…
すると、私の質問を受けて、すぐに、
「…やはり、違いますね…」
と、言って、笑った…
実に、楽しそうに、笑った…
「…違う? なにが、違うんですか?…」
「…米倉好子さんとの、違いです…」
「…どんな、違いですか?…」
「…米倉さんは、高見さんほど、悩まない…高見さんほど、考えない…」
「…」
「…だから、行動が、ストレートというか…変に裏表がない…」
「…だったら、私は、裏表があると、おっしゃりたいんですか?…」
「…そこまでは、言いません…ただ…」
「…ただ、なんですか?…」
「…手ごわそう…」
「…手ごわそう?…」
「…こんなことを、言っては、失礼ですが、学生時代に、見た目より、男にモテなかったでしょ?…」
五井の若き当主が、私に言った…
仰天することを、言った…




