恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 78
私は、驚いた…
文字通り、仰天した…
誰が、見ても、美人の寿さんの面倒を見ている…
にもかかわらず、男女の関係もなにもないなんて…
思わず、
「…ウソ?…」
と、呟いてしまった…
つい、口に出して、呟いてしまった…
それが、まずかった…
さすがに、まずかった…
が、
目の前の五井の若き当主は、笑いながら、
「…ウソでは、ありませんよ…」
と、答えた…
「…もちろん、信じてくれとは、言いません…寿さんは、ボクの友人の彼女です…」
「…友人の彼女?…」
「…だから、手は、出せない…残念ですが…」
と、笑った…
目の前で、この五井の若き当主が、笑った…
が、
私は、それを、見て、
…これが、生まれなのかな…
と、思った…
…これが、生まれの差なのかと、思った…
私たち、一般のひとが、怒るところでも、怒らない…
感情を抑制しているというか…
普通のひととは、違う…
私のような庶民とは、違う…
率直に言って、私は金持ちに知り合いは、いない…
例外は、あの米倉と水野の人たちだけ…
しかしながら、そのひとたちも、知り合って、まだ一年と経たない…
だから、金持ちに知り合いは、いないに等しい…
それゆえ、喜怒哀楽の感情が違うのかな?
と、思った…
あるいは、
喜怒哀楽の沸点が、違うのかな?
と、思った…
沸点というのは、怒るところや、泣くところ…
その感情を出す、ところが、違うのかなと、思った…
つまりは、抑制している…
天皇陛下を見れば、わかるように、滅多なことでは、怒らないに違いない…
自分の立場を考えて、感情を抑制しているからだ…
それと、同じかも、しれない…
そして、なにより、生まれ…
お金持ちの家に生まれ、生活の苦労がない…
その違いだ…
お金の苦労がないゆえに、性格が、歪まない…
私の学生時代に、家が貧乏だったクラスメートが、いたが、明らかに性格がよくなかった…
あるいは、持って生まれたものかも、しれないが、どうしても、家が、貧乏だと、そのせいか?
と、思ってしまう…
と、考えてしまう…
もちろん、家が貧しくなくても、性格が良くないものも、いる…
が、
家が、貧しければ、どうしても、家が、貧しいからかな?
と、思ってしまう…
誰も、思っていても、さすがに口にできないが、そう考えてしまう…
そういうことだ…
そして、そんなことを考えている間に、建物の中に入った…
この五井の若き当主に続いて、建物の中に入った…
が、
建物の中に入ることで、余計に、私は、緊張が、高まった…
さっき、この五井の若き当主に告げたように、つくづく、自分が、場違いな場所に、やって来たと、思ったのだ…
それゆえ、緊張が、マックスまで、高まった…
自分でも、ビックリするほど、高まった…
きっと、そんな私を見て、五井の若き当主は、察したのだろう…
私が、緊張をしているのを、察したのだろう…
「…高見さん…そんな、怖い顔はしないで下さい…」
と、私に笑いかけた…
「…それでは、緊張が、ボクにまで、伝わってしまう…」
と、続ける…
「…それじゃ、まるで、ボクが、これから、高見さんに、なにか、するみたいじゃ、ないですか?…」
と、笑った…
が、
私は、笑えなかった…
緊張で、笑えなかった…
もちろん、この五井の若き当主が、私の緊張を和らげるために、冗談を言ったのは、わかる…
わかるのだ…
が、
笑えなかった…
なぜか、自分でも、ビックリするほど、緊張していたからだ…
そして、そんなに、緊張した様子の私を見て、
「…高見さんが、こんなに、緊張するなんて…米倉さんから、聞いた高見さんの姿と、違うな…」
と、笑った…
実に、楽しそうに、笑った…
が、
その
「…米倉…」
と、いう名前を聞いて、私の緊張が、一気に解けたというか…
「…米倉…」
と、いう名前を聞いて、一気に覚醒した…
普段の私に、戻った…
この、
「…米倉…」
と、いうのは、間違いなく、あの米倉正造のことに、違いないからだ…
だから、一気に覚醒した…
私の意識が覚醒して、緊張から、私を開放したというか…
緊張をぶっ飛ばした(笑)…
この場に、あの米倉正造の名前が出ることで、私は、緊張など、していられない…
あの米倉正造に、対抗するためには、緊張など、していられなかった…
その気持ちから、一気に、緊張が、吹っ飛んだ…
それが、正しい(笑)…
そして、それが、私の表情に出たのだろう…
目の前の五井の若き当主が、仰天した…
「…まさか、ここで、米倉さんの名前が出たことで、高見さんの顔色が、そんなに、変わるとは、思いませんでした…」
と、苦笑した…
それまでの笑いとは、違って、苦笑…
まさに、苦笑いを浮かべた…
「…高見さんにとって、米倉さんは、そんなに、特別なんですか?…」
と、直球で聞いた…
まさに、直球で聞いた…
それゆえ、私は、
「…ハイ…」
と、頷いた…
力強く頷いた…
「…米倉さんは、特別です…」
と、力を込めて、言った…
「…ただし、それは、恋愛対象とかでは、全然ありません!…」
と、力を込めた…
「…恋愛感情ではない?…」
と、驚いた表情で言う…
私は、即座に、
「…ハイ…」
と、答えた…
「…だったら、一体、米倉さんは、高見さんにとって、一体…」
と、五井の若き当主が、言うと、最後まで、言い終わらないうちに、
「…敵です!…」
と、言った…
断言した…
「…敵?…」
呆気に取られた表情で、言う…
「…そう…敵です!…宿敵です!…」
私が、勇んで言うと、目の前の五井の若き当主が、
「…」
と、絶句して、言葉を失った…
すでに、なんて答えていいのか、わからなかったようだった…
たしかに、そうだろう…
私が、彼の立場で、私に、
「…どういう、ご関係ですか?…」
と、聞いて、相手が、
「…敵!…宿敵です!…」
と、答えられたら、どう返答して、いいか、わからない…
当たり前のことだ…
ここは、時代劇の撮影所でも、なんでもない…
「…どういう、ご関係ですか?…」
と、誰かに、聞いて、
「…敵!…宿敵です!…」
と、答えられれば、返答に、困る…
そういうことだ(爆笑)…
現に、目の前の五井の若き当主は、狼狽した…
どう答えて、いいか、わからない様子だった…
少しの間だが、明らかに、戸惑っていた…
が、
すぐに、立ち直り、
「…とりあえず、座って下さい…」
と、私に椅子を勧めた…
私は、彼の言う通りにした…
五井の若き当主の言う通りに、椅子に座った…
が、
すでに、私が、ここで、椅子に座る前に、たいがいのことは、話した気がした(笑)…
すでに、この目の前の五井の当主が、口を開かずとも、この当主が、どうして、私をこのお屋敷に呼んだのか、わかった気がした…
それは、なぜか?
それは、あの米倉正造の名前が出たから…
だから、わかった気がした…
なぜ、この目の前の大金持ちのボンボンが、私を呼び出したか、わかった気がした…
そして、私が、そんなことを、考えながら、椅子に座っていると、そのボンボンが、
「…似ている…」
と、驚きの声を上げた…
「…実に、似ている…」
聞かずとも、私が、誰に似ているかは、わかった…
あの米倉正造の妹の好子さんに、似ているからだ…
聞かずとも、わかった…
それより、なにより、目の前の五井の若き当主は、その好子さんと、いっしょに、いるところを写真週刊誌に撮られたではないか?
また、なにより、好子さん、自身から、この目の前の、五井の若き当主を、
「…なんとか、したかった…」
と、言うのを、聞かされた…
好子さん、自身が、この若き当主を、どうこうしたいわけではなく、すべては、米倉のため…
米倉の経営する大日産業のためだ…
米倉は、すでに、負債は、なくなったが、再建の道筋は描けていない…
再建は、前途多難…
再建のためには、やはり、スポンサーが、ついていた方が、安心だ…
そして、そのスポンサーが、五井なら、文句なし…
日本、いや、世界に名の知れた五井だ…
その五井が、米倉の再建に力を貸してくれれば、言うことなしだからだ…
それゆえ、好子さんは、この五井の若き当主に近付いたのだろう…
米倉の再建に力を貸してもらうために、近付いたのだろう…
しかしながら、そんな目的は、誰の目にも、見え見え…
だから、この五井の若き当主は、好子さんに、手を出さなかった…
当たり前のことだ(笑)…
なにより、この五井の若き当主の身近には、あの寿さんが、いる…
若い頃のフリーアナウンサーの近藤サトさんに似たルックスの寿さんが、いる…
それゆえ、いかに、あの好子さんが、美人でも、この五井の若き当主に、好子さんの色仕掛け?は、通用しないに違いない(笑)…
さすがに、あの寿さんを、身近に、見ていれば、あの寿さんに、勝てる美貌の持ち主は、
滅多にいないからだ…
私は、この五井の若き当主を目前にしながら、考えた…
考えたのだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、この五井の若き当主が、突然、
「…好子さんより、高見さん、アナタの方が、上です…アナタの方が、キレイです…」
と、いきなり、言った…
いきなり、私を口説いた…
仰天した…




