恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 77
が、
さすがに、それはない…
さすがに、それは、ありえない…
それは、この五井の若き当主の目を見て、思った…
その五井の若き当主の目が、笑っていた…
楽しそうに、笑っていたからだ…
とても、女を口説く目では、なかった…
誰もが、女を口説くときは、真剣…
真剣だからだ…
仮に、口では、笑っていても、目が笑っていない…
目は真剣…
まさに、目は、口ほどに物をいう…
それが、わかる事例だ…
それゆえ、この五井の若き当主が、私を口説いていないことが、わかった…
この高見ちづるを口説いていないことが、わかった…
当たり前のことが、わかった(苦笑)…
と、同時に、気付いた…
と、同時に、考えた…
今日、私が、ここに、呼ばれた理由について、考えた…
私が、この五井の若き当主に、呼ばれた理由…
それには、あの米倉正造が、絡んでいるに、違いない…
100%、絡んでいるに、違いない…
なぜなら、今、この五井の若き当主は、私に米倉さんとは、飲み友達と言ったからだ…
だから、あの米倉正造に頼まれて、私をここに、呼んだに違いない…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…さあ、立ち話も、なんですから、中に入りましょう…」
と、五井の若き当主が、言った…
「…長話が、過ぎました…」
五井の当主が、笑った…
それから、私を導いた…
私を導いて、大きな建物の中に、入った…
私は、建物の中に入って、当たり前だが、以前、ここへやって来たことを、思い出した…
この諏訪野のお屋敷にやって来たことを、思い出した…
そして、なぜ、これまで、そんなことを、忘れていたのか?
なぜ、こんな大きなお屋敷に、招かれたことを、忘れていたのか?
今さらながら、思った…
今さらながら、考えた…
それは、やはり、防衛本能…
私が、この五井の若き当主に、説明したように、防衛本能…
無意識に、自分を守ろうとしたのだろうか?
そう、考えた…
ひとは、誰でも、忘れたい記憶…
覚えていたくない記憶を忘れることがある…
意識せずに、無意識に忘れることがある…
あるいは、忘れることができる…
要するに、自分の都合の悪いことは、なかったことにするのだ(笑)…
辛い記憶や、自分に都合の悪い記憶は、なかったことに、することで、無意識に、自分を守っている…
そういうことだ…
そして、この五井の若き当主自身が、いみじくも、言ったように、この五井の若き当主、諏訪野さんの存在感が、思ったよりも、薄い(苦笑)…
それも、あるだろう…
いや、
それも、大きいに違いない(笑)…
存在感があれば、嫌でも、覚えているものだからだ…
そして、そんなことを、考えていると、
「…どうかしましたか?…」
と、五井の若い当主が、私に質問した…
私は、迷わず、
「…場違いだなと、思いました…」
と、告げた…
「…場違い?…」
「…ハイ…」
「…なにが、場違いなんですか?…」
「…私が、ここに招かれるのが、場違いだと、思いました…」
「…それは、どうして?…」
「…私は、平凡…平凡な女です…失礼ですが、私と諏訪野さんでは、身分が違います…」
「…身分ですか?…」
「…ハイ…」
「…だったら、高見さん、アナタは、空が飛べますか?…」
「…えっ? いきなり、なにを?…」
「…ボクは、飛べません…当然、高見さんも、飛べませんよね? だから、同じです…同じ人間です…」
「…」
「…ボクにあって、高見さんに、ないもの…それは、金と家柄です…」
「…お金と家柄…」
「…そうです…」
五井の若き当主が、言う…
が、
私は、真逆に、それこそが、大事なんじゃと、言いたかった(笑)…
率直に言って、ルックスのたいして、よくない男でも、女でも、お金さえあれば、周囲から、チヤホヤされる…
仮に、男なら、ひと並み以下のルックスでも、美人と結婚できる…
そんな事例は、枚挙にいとまがない…
世間に、ありふれた事例だ…
その逆もしかり…
ルックスの良くない女でも、イケメンと結婚できる…
まさに、金の力…
金の持つ魔力というやつだ…
だから、金こそ大事…
金こそ、なによりも、大事なんじゃと、言いたかった…
が、
それを、察したのか、諏訪野さんが、
「…お金があっても、できないことは、いっぱいありますよ…」
と、告げた…
「…現に、寿さんの病気は、治らない…どんなに、お金を積んでも、治らない…お金が、役に立たない事例です…」
「…」
「…お金があるのは、嬉しいことですが、それでも、お金で、解決できないことは、世の中にいっぱいある…」
五井の若い当主が、力を入れる…
私は、五井の若き当主のその言葉を聞いて、いかに、寿さんが、この五井の若き当主にとって、大事な存在だと、思った…
なにより、大の男が、ぬけぬけと、女のことを、語る…
しかも、語る男が、日本有数のお金持ち…
だから、余計に、思った…
思ったのだ…
それゆえ、
「…寿さんが、お好きなんですね?…」
と、言った…
当たり前のことだ…
が、
この五井の若き当主の反応は、違った…
違ったのだ…
「…いえ、好きというのも、ありますが、それ以上に、さっきも、言いましたが、彼女は、大切なひとからの預かりものです…だから、大切に、しなければ、なりません…」
と、語った…
が、
それを、言えば、好きとか、嫌いとかではなく、大切な預かりものだから、大事にするということではないか?…
つまりは、好きは、二の次…
大切なひとからの預かりものだから、大切にする…
そういうことだ…
たしかに、寿さんは、美人…
誰が、見ても、美人だ…
それに、なにより、性格も悪くなさそう…
たしか、以前、話したときに、そう感じた…
それを、思い出した…
ただ、惜しむらくは、寿さんは、若くはない…
寿さんは、私と同じくらいの年齢…
三十代前半だろう…
そして、今、目の前の五井の若き当主は、四十代前半…
つまり、私や寿さんより、十歳ぐらい年上…
なにを言いたいかと、言えば、この五井の当主の立場なら、寿さんより、もっと、若くて、きれいな女と結婚できるだろうということだ…
寿さんは、たしかに、美人だが、すでに、三十代前半と、決して、若くはない…
おまけに、病気持ち…
だから、面倒を見るのは、大変だ…
なにより、お金がかかる…
だから、例えば、一般のひとが、寿さんと、結婚できるといっても、躊躇するだろう…
寿さんの治療にお金がかかるからだ…
ドラマや、小説ならば、好きになった女だから、一生面倒を見ると、簡単に言うが、現実は、そうはいかない…
自分の収入から、考えて、どうにも、面倒をみきれない場合もあるだろう…
なにより、愛情は、冷めるものだ…
若い時は、いいが、年齢を、重ねるにつけ、愛情は、薄れる…
極端な話、愛情よりも、惰性というか…
馴れ合い…
人生の伴走者に過ぎなくなる…
だから、ハッキリ言えば、見捨てるというと、言葉は、悪いが、別に、この女でなくても、いいか?と、なる…
もちろん、全員ではない…
が、
そういう人間が、多いのが、事実…
また、そんなことがなくても、離婚が多いのが、現状を表している…
離婚の原因は、それぞれだと、思うが、それにしても、離婚が、多過ぎる…
だから、仮に、寿さんと結婚しても、離婚する男が多いだろう…
治療に、お金がかかり過ぎるからだ…
それゆえ、見方を変えれば、寿さんは、最良のパートナーを得たことになる…
最良のスポンサーを得たことになる…
寿さんの高額な治療費を払ってくれるスポンサーを得たからだ…
また、それ以上に、寿さんを大事にしてくれるからだ…
誰もが、そうだが、自分は、他人に大事にされたい…
が、
現実に、他人に大事にされるのは、難しい(苦笑)…
それは、さっきも、例に挙げた離婚率によく現れている…
本当に、大切ならば、簡単に離婚は、しないものだからだ…
よく、
「…ボクといっしょに、いるよりも、ボクと別れて、ほかのひとと、結婚した方が、キミのためだ…」
と、言って、恋人や奥さんに別れを提案する男が、いるが、それは、大抵、言葉だけ…
こういった場合は、大抵が、自分が、新しい彼女ができたから、それまでの、恋人なり、奥さんから、別れたいのが、大半だ…
決して、言葉通りの意味ではない(爆笑)…
まあ、それを、鵜呑みにする女も、滅多にいないと、思うが(爆笑)…
いずれにしても、寿さんは、恵まれている…
実に、恵まれていと、思った…
だから、私は、この五井の若き当主に、
「…寿さんは、幸せですね…こんないいひとと、巡り会えて…」
と、言った…
至極、当然のことを言った…
が、
途端に、この五井の若き当主の顔色が、変わった…
と言っても、怒ったわけではない…
ただ、至極、真面目な顔で、
「…いえ、寿さんは、ただのボクの秘書です…恋人だとか、将来、結婚するかとは、ありません…」
と、言ったからだ…
これには、驚いた…
驚愕したと言っていい…
当然、寿さんは、この五井の若き当主の恋人…将来の奥様だと、思ったからだ…
だから、驚いた…
驚いたのだ…
すると、
「…そもそも、寿さんとは、男女の関係もなにもない…ただの預かりものです…大切なひとからの預かりものです…」
と、告げた…
仰天の事実を告げた…




