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恋かもしれない 恋愛偏差値ゼロ 第3部  作者: トモサン


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76/128

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 76

「…命ですか?…」


 つい、口から出た…


 普通なら、笑うところだ…


 が、


 笑えなかった…


 まったく、笑えなかった…


 なぜなら、この五井の若き当主の顔は、真剣そのものだったからだ…


 おおげさに、いえば、切腹を語るような…


 そんな悲壮な覚悟があるようにも、見えた…


 「…もちろん、大げさな言葉だということは、わかってます…彼女は、言葉を変えれば、大切な預かりものです…」


 「…預かりもの?…」


 「…そうです…」


 短く言った…


 が、


 その短い言葉に、万感の思いが、こもっているというか…


 かえって、印象深かった…


 「…だからこそ、彼女に、無理はさせられない…彼女には、長生きして、欲しい…」


 「…」


 「…それが、ボクの願いです…」


 五井の若き当主が、言う…


 至極、真面目な顔で、言う…


 だから、これは、笑えない…


 本当なら、そんな大げさなことを、言ってと、笑うところだが、笑えない…


 あるいは、突っ込めない…


 そして、私が、戸惑っていると、


 「…以前、お会いしましたね…」


 と、五井の若き、当主が、私に声をかけた…


 「…えっ? 会った?…」


 思わず、口に出した…


 素っ頓狂な声を出した…


 五井の若き、当主の前で、とんでもないことを、言ってしまった…


 本当なら、


 「…お会いしました?…」


 というところだ…


 敬語を持ちうるところだ…


 それが、


 「…えっ? 会った?…」


 なんて、生まれがわかる…


 お里が知れるところだ(苦笑)…


 「…ハイ…お会いしましたよ…忘れましたか?…」


 五井の当主が、ニッコリと微笑む…


 私は、それを、聞いて、思い出した…


 ゆっくりと、思い出した…


 たしかに、私は、ここへ、来た…


 あの寿さんと、いっしょに、クルマに乗って来た…


 そして、今のように、この五井の若き当主に会った…


 なぜか、それを、忘れていた…


 すっかり、忘れていた…


 それゆえ、なぜだろう?

 

 どうして、忘れていたのだろう?


 真っ先に、思った…


 真っ先に、考えた…


 きっと、それは?


 それは、防御本能?


 無意識のうちに、自分を守るため?


 そう、思った…


 そう、気付いた…


 なぜ、そう、思ったのか?


 それは、平凡…


 私が、あまりにも、平凡な人間だからだ…


 私が、あまりにも、平凡な女だからだ…


 だから、あまりにも、自分とかけ離れた存在を前にすると、萎縮するというか…


 つくづく、自分が、ちっぽけな人間に見えてくる…


 それゆえ、自分を守る意味で、無意識に、忘れた…


 この五井の若き当主と以前、会ったことを、忘れた…


 そう、思った…


 そう、気付いた…


 そして、寿さんのことを、覚えていたのは、私が、女だから…


 私が、寿さんと、同じ女だから、自分以上の美人を覚えていた…


 いや、


 忘れることが、できなかった…


 そういうことだろう…


 誰でも、そうだが、普通に、日常生活を過ごしていれば、身近に、イケメンも美人もいないものだ…


 金持ちもまた、いないものだ…


 バブル以前の一億総中流と言われた時代のように、みんなが、あまり収入=生活に差がない時代ほどではないが、少なくとも、表面上は、それほど、生活に差があるとは、思えない…


 まあ、あくまで、表面上に過ぎないが(笑)


 つまり、なにを言いたいかと、言えば、誰もが、身近に、優れた人間は、いないということだ…


 ルックスも、生活も、優れた人間は、いないものだ…


 現に、私を例にとっても、そう…


 私が、これまで、美人と言われ、ハッキリ言えば、調子に乗っていたのは、身近に、私以上の美人が、いなかったことが、大きい…


 もちろん、私並みの美人は、見たことがある…


 私と同じレベルの美人は、たまに、見たことがある…


 が、


 あくまで、たまに、だ…


 街を歩いていたり、地元のスーパーで、たまに、見たことがある…


 しかしながら、寿さんのようなタイプの美人は、見たことが、なかった…


 寿さんのような目鼻立ちの整った正統派の美人は、見たことがなかった…


 それに、寿さんには、品がある…


 それが、大きかった…


 いくら、イケメンや美人でも、写真で、見るときは、カッコイイとか、キレイとか、言っても、現実に、間近で、会ったとき、全然、印象が、違うことがある…


 それは、現実に、会ったときに、男なら、頼りなかったり、おしゃべりだったり、あるいは、軽かったりして、写真で見たときと印象が、違う…


 そういうことだ…


 真逆に、写真では、とりたてて、イケメンでも、美人でも、なかったが、実際に会ってみると、男なら、堂々として、頼りがいがあったり、または、女なら、やはり、しっかりしていたり、人当たりが、良かったり…


 つまりは、写真では、わからなかったことが、実際に会ってみれば、わかると、いうことだ…


 率直に言って、寿さんのような目鼻立ちの整った美人を、私は、街中で、見たことが、一度もなかったとは、言わないが、寿さんには、見るからに、品があった…


 気品があった…


 おおげさに、言えば、どこかの、王族とか、貴族といっても、おかしくない気品があった…


 だから、寿さんは、特別…


 特別、私の印象に、残ったのだと、思う…


 あるいは、簡単に、忘れることが、できなかったのだと、思う…


 真逆に、目の前の五井の若き当主のことは、忘れた…


 すっかり、忘れていた…


 たしかに、長身で、イケメンだけれども、忘れていた…


 それは、なぜか?


 思うに、それは、存在感なのだろう…


 どんなに、イケメンや美人でも、案外、自分の記憶に残らないものも、多い…


 真逆に、一度会っただけなのに、印象が残る人物もいる…


 イケメンでも、美人でもない…


 ルックスが、平凡にも、かかわらず、だ…


 要するに、存在感が、あるのだろう…


 だから、一度会っただけなのに、覚えている…


 一度会っただけなのに、忘れられない…


 そういうことだろう…


 それゆえ、目の前の五井の若き当主のことは、忘れていた…


 存在感がないゆえに、忘れていた…


 そういうことだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…ボクは、案外、存在感が、薄いのかな…」


 と、目の前の、若き五井の当主が、笑った…


 だから、さすがに、マズい…


 さすがに、覚えていなかったというのは、マズい…


 すぐに、思った…


 だから、すぐに、


 「…そんなことは…」


 と、言った…


 「…そんなことは?…」


 五井の若き当主が、薄ら笑いを浮かべながら、私をからかうように、言う…


 「…そんなことは、ありません…」


 私は、力強く言った…


 「…でも、以前、ボクと会ったことを、すっかり、忘れていたでしょ?…」


 「…それは、防御本能です…」


 私は、きっぱりと、言った…


 「…防衛本能?…」


 五井の若い当主の顔が、狐につままれたような表情になった…


 「…そうです…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…お金持ちの方と接すると、自分が、正直、惨めになるというか…すごく、ちっぽけな存在だと、つくづく思うんです…だから、たぶん、自分を守るために、無意識に、忘れていたんだと、思います…」


 「…でも、米倉正造さんのことは、覚えているんでしょ? 寿さんのことも、覚えているんでしょ?…」


 五井の若き当主が、私をからかうように、言う…


 「…米倉さんとは、覚えていないくらい、何度も、お会いしました…だから、覚えています…寿さんは、物凄い美人なので、忘れることは、ありませんでした…」


 言いながら、


 「…あ? どうして、米倉さんの名前が、ここで、出たんですか?…」


 「…友達なんです…飲み友達…」


 五井の若き当主が、気さくに、言う…


 「…いい男ですよ…彼とは、気が合う…」


 その言葉で、以前、寿さんが、この五井の若き当主と、あの米倉正造が、飲み友達であることを、私に告げたことを、思い出した…


 「…たしかに、高見さんの言う通り…寿さんは、あの通りの美人だし、米倉さんは、高見さんと、何度も会ったんじゃ、忘れることは、ないかも、しれない…」


 五井の若き当主が、笑みを浮かべながら、言う…


 「…ボクも、寿さんが、美人であることは、認めます…高見さんも、美人だから、きっと、余計に、寿さんのことが、忘れられないんでしょ?…」


 「…どうして、ですか?…」


 「…自分が、美人だと、やはり、自分と同じ美人は、気になるものですよ…」


 「…」


 「…変にライバル意識を持ったりね…」


 五井の若き当主が、笑う…


 が、


 それは、なかった…


 さすがに、それは、なかった…


 だから、


 「…ライバル意識なんて…さすがに、それは、ありません…」


 と、きっぱりと言った…


 きっぱりと断言した…


 「…私なんて、寿さんの足元にも、及びません…」


 私が、言うと、


 「…でも、寿さんは、そうは、思っていませんよ…」


 「…ウソ?…」


 「…ウソじゃ、ありません…」


 「…私をからかっているんですか?…」


 私は、口を尖らせて、反論した…


 155㎝の私は、私より、はるか長身の五井の若き当主を見上げて、反論した…


 すると、五井の若き当主が、


 「…たしかに、寿さんが、あなたに嫉妬するのは、わかる…」


 と、言った…


 「…えっ? …私に嫉妬? ウソ?…」


 「…ホントです…失礼ですが、高見さんは、怒った顔も可愛い…寿さんには、できないことです…」


 「…」


 「…寿さんは、美人ですが、可愛くは、ない…だから、可愛い、高見さんに嫉妬するんでしょ…」


 五井の若い当主が、説明する…


 私は、その説明を聞きながら、


 …もしかして、私は、今、この当主に、口説かれている?…


 …日本を代表する五井の当主に、口説かれている?…


 と、思った…


 同時に、


 …まさか?…


 …まさか、そんな夢みたいなことが?…


 とも、思った…


 思ったのだ…


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