恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 75
そして、電話が切れてから、ふと、気付いた…
…迎えに、来るって、私の家を、知っているのだろうか?…
と、気付いた…
私のスマホの電話番号を、米倉正造から、聞いたと言っていたが、正造は、私の家に来たことは、一度もない…
が、
おそらく、調べることは、できる…
だから、事前に、正造は、私の家を調べた可能性が、高い…
正造自身は、一度も、私の家にやって来たことはないが、知っている可能性は高い…
私は、考えた…
私は、思った…
同時に、気付いた…
五井家の当主は、どうして、私に会いたいのだろうか?
ふと、そのことに、気付いた…
まさか、私と付き合いたいわけでは、あるまい…
まさか、私と結婚したいわけでは、あるまい…
ふと、そんなバカなことを、考えた…
なぜ、そんなバカなことを、考えたのか?
それは、私が、米倉好子さんに、似ているから…
姉妹レベルで、似ているから…
五井の当主が、あの米倉正造と、知り合いということは、当然、正造の妹の好子さんを、知っているだろう…
仮に、好子さんと、面識がなかったとしても、好子さんが、あの透と、結婚して、その後、離婚したことは、知っているに違いない…
なにしろ、米倉好子さんと、水野透の結婚は、日本中の話題になった…
それを、契機に、それまで、米倉と水野の名前を知らないものも、知ったに違いないからだ…
そして、それとは、関係なく、五井の当主は、当然、好子さんのことは、知っていたはずだ…
正造の知り合いならば、知っていたはずだ…
そして、私が、好子さんと、よく似たルックスの持ち主であることは、すでに、正造から、聞いているはずだ…
だから、私に会いたいのか?
そう、思った…
好子さんは、美人…
私同様、美人だ…
あの寿さんとは、違うタイプの美人だ…
いわゆる、可愛いが、入った美人だ…
あの寿さんのように、目鼻立ちの整った完璧な美人ではないが、かえって、その方が、好きな男も、いる…
いわゆる、女の好みの問題だ…
わかりやすく言えば、モデルのような長身で、スラリとした美人を好きな男も、いれば、小柄で、可愛い妹系を好きな男もいる…
その違いだ…
だから、もしかしたら、あの五井の当主も、それと、同じ…
同じで、可愛い系の美人が好きなのかも?
ふと、そう、思った…
ふと、そう、自分有利に、思った(笑)…
それゆえ、私に会いたい…
米倉好子さんに、似た私と会いたい…
そう、思った…
いや、
そう、思うことにした…
なぜなら、そう考えなければ、辻褄が合わないからだ…
なにしろ、五井の当主の身近に、いるのは、あの寿さん…
フリーアナウンサーの近藤サトさんの、若い頃に似た、完璧な美人の寿さんだ…
私なんか、到底、及ばない美人の寿さんが、身近にいる…
それなのに、私と会いたいというのは、寿さんと、私が、違ったタイプの美人だから、会いたい…
そう、考えるのが、普通だからだ…
それとも、寿さんに、飽きた?
その五井の当主と寿さんが、男女の仲なのか、どうかは、わからないが、身近にいれば、誰でも、いるのが、普通になる…
だから、今さらとなる…
どんな美人でも、三日で飽きるからだ(笑)…
だから、今さらとなる…
そして、だから、私に会いたい?
私が、寿さんと、違ったタイプの美人だから、会いたい?
そう、思った…
自分勝手に、思った…
自分に都合が良く、思った…
なにしろ、ルックスでは、寿さんに、勝てない…
だから、正攻法では、対抗できない…
それゆえ、奇策というか…
野球で言えば、変化球…
直球で、勝負できないからだ(爆笑)…
だから、変化球のように、もしかしたら、五井の当主も、寿さんに、飽きた?
正統派の美人の寿さんに、飽きた?
仮に、五井の当主が、寿さんと男女の仲であろうとなかろうと、身近に、寿さんを見過ぎて、飽きた?
そう、思った…
そう、自分勝手に、思った…
そう、自分有利に、考えた…
だったら、もしかしたら、私にも、チャンスがある?
この高見ちづるにも、五井家の当主と結婚できるかも、しれないチャンスがある?…
なぜか、そう、思った…
なぜか、そう、考えた…
誰も、なにも、言っていないにも、関わらず、そう、考えた(爆笑)…
いわゆる、暴走列車ではないが、勝手に、自分の中で、妄想が広がってゆく…
限りなく、広がってゆく…
もはや、夢見る少女…
もうすぐ、34歳になる、夢見る少女だった(爆笑)…
週末の土曜日…
約束通りに、自宅に、クルマが、迎えに、来た…
クルマは、黒のベンツだった…
クルマの名前が、わからない私でも、ベンツぐらいは、わかる…
いや、
私に限らず、誰にでも、わかるとまでは、言わないが、知っている人間が、多いと思う…
私は、迎えに来た運転手の方に、
「…どうやって、私の住所を調べたんですか?…」
と、聞こうとして、やめた…
なぜなら、私の家に、迎えに来た運転手の方に、そんなことを、聞いても、知るわけが、ないからだ…
きっと、寿さんか、誰かに、聞いたのだろうと、思った…
だから、聞くことをやめた…
運転手の方も、無口だった…
「…お迎えに上がりました…」
と言う言葉は、最初に言ったが、後は、無言…
ほぼ、無言だった…
必要最低限のことしか、しゃべらない様子だった…
あるいは、そう、言われているのかも、しれない…
このクルマを、差し向けた五井の当主に、言われているのかも、しれない…
そう、思った…
どうしても、しゃべれば、つい、余計なことを、話しかねない…
だから、しゃべらない…
必要最低限のことしか、しゃべらない…
そういうことだ…
私は、そう、思った…
私は、そう、気付いた…
が、
それは、わかるが、それでは、地獄というか…
正直、気まずい…
クルマの中で、二人きり…
しかも、相手は、男…
だからといって、変な気分になるわけでも、なんでもないが、やはり、無言なのは、困る…
かえって、緊張して、しまう…
これから、五井家の当主に会うことに、緊張して、しまう…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
が、
文句を言うわけにも、いかない…
運転手の男性も、仕事で、やっているのだ…
おそらくは、彼が、むやみに、しゃべらないのも、また、仕事なのだろう…
仕事=業務の一環なのだろう…
私は、そう、思うことにした…
また、自分自身に、そう、思わせることに、した…
そうで、なければ、辛い…
正直、この沈黙が、辛かったからだ…
この沈黙が、地獄だったからだ…
だから、ようやく、
「…着きました…」
と、言って、五井家のお屋敷に着いたときは、嬉しかった…
なにより、ホッとした…
これ以上、車内で、二人きりで、いるのは、嫌だったからだ…
だから、ホッとした…
そして、私が、クルマから、降りると、あろうことか、クルマの近くに、男のひとが、待っていて、私が、降りたのを、見て、
「…今日は、お呼びだてして、申し訳ありません…」
と、声をかけてきた…
私は、まさか?
まさか、このひとが、五井の当主?
なのかと、思った…
直感で、思った…
すると、すぐに、
「…五井家の当主、諏訪野伸明です…」
と、言って、頭を下げた…
この私に頭を下げた…
この高見ちづるに、頭を下げた…
これは、驚き…
いや、
驚きなんて、ものじゃない…
ビックリ仰天だった…
天下に知られた五井…
その当主が、この高見ちづる風情に頭を下げたのだ…
まさに、夢…
夢物語…
まるで、天皇陛下に、頭を下げられるようなもの…
ありえないことだった…
あっては、ならない現実だった…
が、
すぐに、現実に引き戻された…
それは、寿さん…
寿さんの存在が、気になったからだ…
あの寿さんの存在が、気になって、仕方が、なかったからだ…
だから、つい、
「…寿さんは…」
と、いう言葉が、口から出た…
つい、出てしまった…
気になって、仕方がなかったからだ…
だから、今日、電話で、私を呼び出した寿さんを、つい、探してしまった…
どこにいるか、探してしまった…
そういうことだ(笑)…
すると、即座に、反応した…
「…寿さんは、いません…」
と、若き、五井家の当主が、反応した…
「…彼女は、体調が、あまりよくないのです…」
と、続けた…
私は、その言葉で、
…そう言えば、以前、一度、寿さんと会ったとき、やはり、体調が悪いと言っていた…
…寿さん、自身が、言っていた…
それを、思い出した…
そして、私が、そんなことを、思い出していると、
「…失礼ですが、寿に、なにか、用事でも…」
と、五井の若き当主が、私に聞いてきた…
当たり前だった…
私は、
「…いえ、今日、ここに、伺うにあたって、寿さんから、電話を頂いたんで…それで、今日は、ここにいらっしゃらないのかと、思って…」
と、言った…
「…彼女は、病気です…」
と、短く言った…
「…だから、体調が、よくありません…それゆえ、ボクも彼女には、休んでいて、もらいたいのですが、彼女が、どうしても、働きたいと…それで、簡単なことを、彼女に、お願いしているのです…」
「…そうだったんですか?…」
「…彼女は、ボクにとっても、大切なひとです…」
と、歯の浮くことを、言う…
しかしながら、この五井の若き当主には、そのセリフが似合った…
まるで、ドラマや映画の中のセリフだが、そのセリフが、違和感なく言える…
ある意味、稀有なことだった…
普通は、あまりないことだった…
「…彼女は、大げさに言えば、ボクの命です…」
五井の若き、当主が、とんでもないことを、言った…




