恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 74
…寿綾乃?…
…どこかで、聞いた名前だ…
一体、どこで、聞いたのだろう?
考えた…
と、その答えは、すぐに、出た…
「…私は、五井家にお世話になっているものです…」
と、電話の主が、続けたからだ…
それで、思い出した…
その電話の主と、以前、一度、会ったことを、思い出した…
なにより、その電話の主は、美人…
私でも、これまで、会ったことのあまりない美人だった…
女の私でも、驚くほどの美人だった…
美人と呼ばれている私でも、到底叶わない美人だった…
私は、自分で言うのも、なんだが、可愛い系が、入った美人…
しかしながら、あの寿さんは、可愛さのない美人というか…
目鼻立ちのしっかりした正真正銘の美人だった…
芸能人でいえば、若い頃の近藤サトさんに、似ている…
いわゆる、隙のない美人というか…
完璧な美人だった…
私は、それを、今、思い出した…
だから、急いで、
「…たしか、以前、一度、お会いした…」
と、告げた…
すると、
「…覚えて頂いて、ましたか? 嬉しいです…」
と、いう言葉が、返ってきたが、その言葉は、機械的というか…
いかにも、お世辞という感じだった…
いわゆる、社交辞令…
単なる、社交辞令に、過ぎなかった…
その言葉が、言いなれているというか…
抑揚のない、その言葉が、物凄く、言いなれていると、思った…
まるで、秘書…
誰かの秘書のような感じだった…
そして、一方で、そんなことを、考えながらも、
「…失礼ですが、今日は、一体、なんのご用事で…」
と、言った…
自分でも、挑戦的…
なぜか、自分でも、自分の言葉に、挑戦的だと思った…
なぜか、寿さんに、挑戦的だと、思った…
おそらく、それは、寿さんは、美人だから…
美人と呼ばれた私、高見ちづるの目から、見ても、叶わない美人だったからだ…
だから、自分でも、無意識に対抗意識が出た?
叶わないと知りながら、対抗意識が出た?
と、思った…
自分で、自分が、寿さんに、叶わないと、わかっているにも、かかわらず、対抗意識が出たのかも、と、思った…
同時に、笑えないと、思った…
なにが、笑えないのか?
これでは、これまで、散々、以前、学校や会社で見た、自分が、頭やルックスで勝てない、相手に、嫌味や悪口を言ったりする連中と、同じ…
まるで、同じだ…
散々、彼ら、彼女らの悪口を言ってきたにも、かかわらず、自分もまた、彼ら、あるいは、彼女らと同じ、行動をしている…
そんな自分に気付いたからだ…
が、
私に言わせれば、これは、条件反射…
自分が、これまで、美人と呼ばれてきたことに、対する条件反射というか…
勝てないとわかっているにも、かかわらず、つい対抗しようとする…
頭では、勝てないとわかっているにも、かかわらず、つい、対抗しようとしてしまう…
まるで、ボクサーか、なにかのよう…
同じように、ボクシングをしている…
だから、無意識に、自分と比べてしまう…
無意識に、自分より、強いか、弱いか、比べてしまう…
それと、似ている…
ふと、そう、思った…
ふと、そう、気付いた…
が、
私が、頭の一方で、そんなバカなことを、考えているにも、かかわらず、電話の向こう側の寿さんは、冷静な声で、
「…今日、お電話したのは、五井家の当主、諏訪野伸明氏が、ぜひ、一度、高見さんに、お会いしたいと、申しまして…それで、お電話さしあげました…」
と、言った…
「…えっ? 私が、五井家の当主と…ですか?…」
驚いた…
思わず、素っ頓狂な声を上げた…
いや、
驚いたという言葉では、言い表せない…
ハッキリ言えば、びっくり仰天した…
それほどの、驚きだった…
「…な…なんで、私なんかと…そんな凄いひとが…」
思わず、口から出た…
いや、
口に出さすには、いられなかった…
いや、
それだけではない…
そもそも、この寿さんは、どうして、私のスマホの電話番号を知っているのか?
それが、わからなかった…
それが、疑問だった…
謎だった…
だから、それに、気付くと、
「…あの…失礼ですが、一体、どうして、私の電話番号をお知りになったんでしょうか?…」
と、聞いた…
聞かざるを得なかった…
「…一体、誰から?…」
私が、続けると、
「…当主の諏訪野伸明が、米倉正造氏から、窺ったと…お聞きしました…」
と、これも、また、仰天することを、言った…
思わず、
「…ウソ?…」
と、いう言葉が出た…
我ながら、はしたないというか…
ほぼ初対面の人間に対して、物凄く、礼儀知らずと、思った…
が、
後の祭り…
後から、言っても、後の祭りだった…
「…いえ、本当です…」
という冷静な声が、すぐに、返って来た…
寿さんの冷静な声が、電話の向こう側から、返って来た…
それを、聞いて、思った…
私は、この寿さんに、ルックスでも負け、態度でも、負けていると、思った…
心底、思った…
これは、正直、屈辱…
我ながら、屈辱だった…
屈辱以外の何物でも、なかった…
そして、そんなことを、考えていると、電話の向こう側から、
「…それで、近日、高見さんと、諏訪野が、一度会う日時をセッティングしたいのですが…」
と、続けた…
…ウソ!…
と、思わず、声に出しそうになったが、今度は、こらえた…
二度までも、バカなことを、言うわけには、いかない…
寿さんに、人格まで、疑われるのは、ごめんだ…
ルックスで、負け、性格で、負けるのは、ごめんだ…
ルックスで、勝てないのだから、せめて、性格で、張り合うしかない…
性格まで、悪いと、寿さんに、判断されれば、私には、もうなにも、ないからだ…
寿さんに、対抗できるものが、なにも、ないからだ…
だから、
「…わかりました…」
と、言った…
すぐに、言った…
そう言わなければ、性格まで、悪いと、寿さんに、思われるのが、嫌だったからだ…
だから、すぐに、言った…
すると、私の言葉を受けて、すぐに、寿さんが、
「…ありがとうございます…」
と、言ってきた…
しかし、それは、機械的と言うか…
なんの感情もこもっていなかった…
むしろ、感情を押し殺しているようにも、聞こえた…
「…それでは、土日ならば、よいのでしょうか?…」
寿さんが、続ける…
私は、その言葉に、
「…ハイ…」
と、続けた…
たしかに、土日なら、会社は、休み…
なにより、会社が、休みでも、私に予定はない(笑)…
これと言った予定は、なに一つない…
33歳にも、かかわらず、男のひとと、デートの予定もない…
まあ、だから、いまだに、結婚もできないのかも、しれない…
自虐的に、そう、思った…
もちろん、普段なら、そんなことは、思わない…
が、
電話の相手は、あの寿さん…
私なんて、足元にも、及ばない美人だ…
散々、子供の頃から、美人と、周囲から、もてはやされてきた、私から、見ても、私なんか、全然、叶わない美人…
それゆえ、そんな美人を前にすると、自分でも、つい、すねるというか…
素直になれなくなる…
つい、性格が、ひねくれてくる…
そう、思った…
そう、気付いた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…それでは、土日なら、いつでも、構わないのでしょうか?…」
と、電話の向こう側から、聞いてきた…
私は、即座に、
「…ハイ…」
と、答えた…
たぶん、寿さんが、最後まで、言い終わらないうちに、答えた…
物わかりのいい女を演じようと、思ったからだ…
性格のいい女を演じようと思ったからだ…
が、
すぐに、それは、失敗…
失敗だと、気付いた…
それでは、金目当て…
お金持ち目当てだと、誤解されかねないと、気付いた…
いや、
誤解ではない…
ずばり、そのもの…
自分で、自分を言うのも、なんだが、お金持ちだから、すぐに、了承したと、思った…
が、
それを、寿さんに、悟られるのは、嫌…
私以上の美人の寿さんに、悟られるのは、嫌…
なぜなら、寿さんに、心の中で、
「…あの程度のルックスなのに、相手が。お金持ちなら、すぐに、OKして…どうにか、なるとでも、思っているのかしら?…」
と、思われるのが、嫌だったのだ…
だから、言って、失敗だと、思った…
言って、しまって、後悔した…
が、
今さら言っても、後の祭り…
後の祭りだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…では、今週の週末の土曜日では、どうでしょうか?…」
と、寿さんが、言ってきた…
私は、即座に、
「…ハイ…」
と、だけ、答えた…
今さら、私が、なにを、言っても無駄…
私風情の女が、寿さんに、勝てるはずもない…
対抗するのが、無駄…
バカげている…
そう、気付いたからだ…
そんな私の心の中を、わかっているのか、どうか、わからないが、
「…ありがとうございます…」
と、寿さんが、機械的に告げた…
私は、すでに、グロッキー寸前…
寿さんを、前にして、勝手に、寿さんと闘って、グロッキー寸前だった(爆笑)…
すでに、疲れ切っていた…
「…では、当日、お迎えに上がらせて頂きます…」
と、いう言葉で、電話が切れた…
正直、電話が、切れて、ホッとした…
これ以上、寿さんと、闘いたくなかった…
自分だけ、勝手に、寿さんと、闘って、消耗した…
いや、
自滅した…
そんなことは、もうごめんだった(涙)…




