恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 73
そして、私のそんな思いが、表情に、出たのだろう…
「…その様子では、覚えがあるみたいだね…」
前沢が、優しく、語りかける…
「…まあ、当然といえば、当然だよ…高見さん、美人だから…男に誘われた経験が、ないわけは、ないだろうから…」
「…」
「…でも、だから、気をつけることだよ…」
前沢が、念を押す…
「…高見さんは、美人だから、気をつけることだよ…」
何度も、念を押した…
そして、前沢のその言葉を聞きながら、
…ひょっとして、今、私を口説いている?…
そんな思いが、脳裏をかすめた…
が、
それは、一瞬だけ…
ほんの一瞬だけだ…
むしろ、前沢が、そんなに、強く念を押すことで、かえって、疑念が、深まった…
かつて、前沢が、かつて、そんな目にあったのかも、という疑念が、深まった…
だから、それを、口にしようか否か、一瞬、考えた末に、恐る恐る、前沢に聞くことにした…
「…ひょっとして、所長は、以前、そんな経験が、おありなんですか?…」
私が、聞くと、前沢が、ドキッとした…
明らかに、顔色が、変わった…
それから、薄笑いを、浮かべながら、
「…ボク自身は、ないよ…」
と、告げた…
「…そうですか?…」
「…でも、身近に見たことはある…」
「…」
「…以前、勤めていた会社でね…見たことは、ある…」
「…」
「…それを、見て、驚いたよ…人間は、そんなに、根を持つものなんだと、驚いた…」
「…」
「…だからかな…美人を見ると、つい、言いたくなる…つい、忠告したくなる…余計なお世話と思ってもね…」
「…そうですか?…」
「…幸い、こんなことを、言っちゃ、なんだが、高見さんは、小娘と、世間で、呼ばれるほど、若くはない…それに、性格も悪くない…だから、言える…」
しみじみと言う…
私は、それを、聞いて、
「…ありがとうございます…」
と、頭を下げた…
「…だから、気をつけることだ…常に、自分の行動が、他人にどう見られるか、気をつけることだ…」
そして、その言葉を最後に、店を出た…
家に帰ると、考え込んだ…
…ホントに、前沢の言葉は、他人を見たから、言ったのか?…
考え込んだ…
…自分のことでは、なかったのか?…
考え込んだ…
が、
いくら、考えても、答えは、出ない…
当たり前だった…
だから、考えるのを、やめた…
別のことを、考えることに、した…
別のことというのは、あの米沢京子のこと…
あるいは、
水野透のことだ…
透が、言った、水野グループが、サウジアラビア政府と組んで、事業を行うと発表したのは、ホントに、五井に対抗するためだろうか?
五井の若き、当主に対抗するためだろうか?
あらためて、考え込んだ…
たしかに、透の立場からすれば、別れた奥さんが、自分以上の大金持ちで、自分以上のイケメンと、親密な写真を撮られたことで、五井の当主を意識しないといえば、ウソになるだろう…
その一方で、そんな理由で、五井に対抗するために、水野グループが、サウジアラビア政府と、いっしょに事業を立ち上げるか?
疑問に思った…
透の父親の良平の言うように、それは、明らかに、水野グループの身の丈を超えたことだからだ…
あまりにも、無謀…
あまりにも、身の丈を超えている…
それが、わからない透では、あるまい…
透は、たしかに、軽い男だが、バカではない…
よく世間では、外見だけでしか、そのひとを、判断できない人間も多い…
要するに、見た目…
あのひとは、いつも、堂々としているから、凄い…
威厳があるから、将来、きっと偉くなるに、違いない…
などと、いう意見だ…
それは、それで、一つの意見ではあるが、それでは、まったく、中身に触れていない(爆笑)…
真逆に、良い高校や良い大学を出ても、頼りなさそうに、見えたり、威厳がなかったりすると、
「…ホントに、あのひとが、東大を出たの? なにかの、間違いじゃないの?…」
とか、
「…きっと、あのひとが、入学した年は、入りやすかったのよ…」
とか、悪口三昧…
とにかく、悪く言いたい(笑)…
つまるところ、その人間を嫌いなのだろう…
あるいは、その人間が、頭が良いことを、認めたくないのだろう…
なにより、その人間が、優れていることが、理解できない…
単純に、見た目だけで、判断する…
真逆に言えば、見た目だけでしか、判断できない…
その頼りない人間の言動からも、その人間の頭の良さを、わからない…
なぜ、わからないのか?
それは、自分自身の頭が悪いからに、他ならない…
偏差値40では、東大生が、身近にいても、その東大生が、どんなに、凄いのか、まるで、わからないに違いない(爆笑)…
いわば、雲の上のひとだ…
自分と違い過ぎる…
だから、どれほど、優れているのか?
皆目、わからないのだ…
それゆえ、見た目でしか、判断するしかない…
ハッキリ言えば、見た目でしか、判断できる頭がない…
なにより、面白いのは、批判する人間の方が、頭が悪いという事実…
偏差値が、低い人間が、一生懸命、偏差値の高い人間の悪口を言っている…
しかも、偏差値の高い人間は、偏差値の低い人間の悪口は、一切、言っていない…
つまりは、相手は、なにも、言ってないにも、関わらず、一方的に、悪口を言っているわけだ…
そして、その理由はというと、ずばり嫉妬に他ならない…
自分は、頭が、悪い…
だから、相手が、なにも言わずとも、一方的に、頭のいい人間を悪く言う…
あるいは、憎む…
なぜなら、自分は、頭が悪いから…
それゆえ、頭の良い人間が、羨ましくて、仕方がない…
それが、頭の良い人間を憎む理由だ…
それゆえ、頭の良い人間にとっては、たまったものではない…
いわば、自分は、なにも、していないのに、勝手に憎まれている状況だからだ…
これは、美人も同じ…
イケメンもまた、同じだ…
要するに、優れた人間を一方的に、憎む輩が、稀にいる…
つまりは、悔しくて、仕方がないのだ…
自分が、優れていないからこそ、優れた人間が許せない…
だから、悔しくて、仕方がないのだ…
要するに、自分の力を認めることが、できないのだろう…
会社に入っても、自分は、出世が難しい…
あるいは、最初は、それが、わからなくても、徐々に、わかるように、なってくる…
だから、悔しくて、仕方がない…
自分より、頭の良い人間が、憎くて仕方がない…
そういうことだ…
もちろん、今、言った人間は、一部の人間に過ぎない…
学歴がなくても、そうでない人間が大半だし、学歴があっても、性格に難のある人間も、多い…
しかしながら、私の見るところ、学歴のない人間の方が、むやみやたらに、ひとの悪口を言う人間が、多い…
私の見るところというのは、私が体験したことということだ…
そして、私が、今、言ったことと、同じような体験を、あの前沢は、したのだろう…
だから、私に注意しろ、と警告したのだ…
と、話を元に、戻そう…
透のことだ…
透は、見る限り、頼りないが、バカではない…
だから、どうして、透が、サウジアラビア政府と組んで、プロジェクトを立ち上げようとするのか?
わけが、わからない…
さっぱり、わからない…
そういうことだ…
やはり、嫉妬なのか?
考えた…
透の別れた妻であった、米倉好子さんが、五井の若き当主と、写真週刊誌に撮られたことが、屈辱なのだろうか?
考えた…
たしかに、屈辱かも、しれない…
私が、透の立場でも、屈辱かも、しれない…
それは、ちょうど、昔、あるいは、以前、付き合った男や女と、どこか、街中で、偶然、遭遇したとき…
そのとき、以前、付き合っていた相手の彼氏なり、彼女なりが、明らかに、自分より、上の相手なら、ショックを受ける…
それと、同じだ…
文字通り、見た目だけで、昔、付き合っていた、相手の、現在の彼氏なり、彼女なりを判断するのだが、それでも、一目見ただけで、イケメンとか、美人とかは、誰でも、わかる…
また、一目見ただけで、ガテン系なのか、事務系なのかも、大抵は、わかる…
なにより、頭の良し悪しも、大抵は、なんとなく、わかるものだ(笑)…
だから、ショック…
今、付き合っている…
あるいは、すでに、結婚している相手が、自分より、明らかに、優れていれば、ショックだ…
なにより、透の場合は、おそらく、写真週刊誌で、相手の素性を知ったに違いない…
好子さんの相手を知ったに違いない…
そして、その相手と言うのが、こともあろうか、五井の御曹司…
水野の御曹司である透にとっても、遥か、雲の上の存在…
水野とは、桁違いの財閥の御曹司だ…
透が、屈辱に感じても、おかしくはない…
そう、思った…
あらためて、そう、思った…
しかも、
しかも、だ…
その五井の御曹司は、イケメン…
透より、長身のイケメンだった…
これでは、透は、ショックだったに違いない…
家柄でも、ルックスでも、自分より、遥か、上の人物…
そんな人物と、自分の別れた奥さんが、写真週刊誌に、密会を撮られたのは、屈辱、意外の何物でもないからだ…
あらためて、思った…
透の立場に立って、考えて、あらためて、思った…
その結果、やはりというか…
やはり、透は、五井の御曹司に対抗するために、サウジアラビア政府といっしょに、水野グループが、共同プロジェクトをやると、発表したのだろうか?
考えた…
考え込んだ…
と、
ちょうど、そのときだった…
スマホの電話が、鳴った…
私は、慌てて、電話番号を見た…
どこから、かかってきたのか、電話番号を見た…
見たことのない、電話番号だった…
だから、出なかろうと、思った…
今の世の中、危険が溢れている…
それゆえ、知らない電話番号の電話には、出ないに限ると、思った…
が、
それは、一瞬…
一瞬だけ…
私は、今の会社に転職して、まだ一か月弱…
もしかしたら、会社関係のひとからの電話かも、しれない…
そう、思ったからだ…
以前勤めていた金崎実業の関係者なら、すでに、電話番号が、スマホに登録してあるから、かかってくれば、わかる…
しかし、転職したばかりのM商会の関係者は、まだ、スマホに登録してある人間は、数えるほど…
数えるほど、少ない…
だから、知らない電話でも、M商会の関係者である、可能性が、高いからだ…
それゆえ、電話に出た…
「…はい、高見ですが…」
と、電話に出た…
相手は、すぐに、
「…高見さん?…」
と、聞いてきた…
若い女の声…
たぶん、私と同じぐらいの世代の女の声だった…
「…そうです…」
私は、答えた…
「…私、寿と言います…寿綾乃と申します…」
電話の主が名乗った…




