恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 72
前沢が、思いもかけないことを、言った…
ひょっとして?…
ひょっとして?…
もしかしたら、私の経歴に気付いている?
私が、水野グループ総帥の水野良平の紹介で、今のM商会に入社したことに、気付いている?
いや、
それだけではない…
私と米倉家との関係にも、気付いている?
そう、思った…
今の前沢の発言から、そう、思った…
それに、なにより、私のルックス…
私は、米倉のお嬢様、米倉好子さんに、ルックスが、そっくり…
ほぼ、そっくり…
姉妹レベルで、似ている…
だから、もしかしたら、そのことに、気付いたのかも、しれない…
好子さんと透の結婚と離婚は、日本中で、放送された…
テレビ、ネット、紙媒体…
あらゆるメディアで、流された…
だから、もしかしたら、私と、米倉の関係…
そして、私と水野の関係に、気付いたのかも、しれない…
考え過ぎかもしれないが、そう、思った…
うがち過ぎかも、しれないが、そう、考えた…
そして、そう考えていると、
「…いずれにしても、物事は、なるようにしか、ならない…考えても、仕方が、ないことかも、しれない…」
と、前沢が、言った…
私は、すかさず、
「…それは、私の結婚のことですか? それとも、別の…」
と、聞いた…
聞かざるを得なかった…
この前沢が、私が、水野や米倉と関係があるのを、どれだけ、知っているか、知りたかったからだ…
だが、前沢の返答は、
「…物事全般だよ…」
と、いうものだった…
「…世の中、どうなるか、さっぱりわからない…コインだったら、表か、裏…サイコロだったら、一から、六の六通りのどれかになるが、ひとの運命は、わからない…」
「…」
「…ひょっとして、二十年後、三十年後は、高見さんが、M商会の社長とまでは、言わないが、役員になっていても、おかしくない…」
「…役員? まさか?…」
「…そのまさかだ…世の中、一寸先は闇…なにが、起こるか、わからない…今の有名企業のリストラなんて、最たる例だ…まさか、入社したときに、二十年後、三十年後に、自分が、首を切られるなんて、誰も、思っちゃ、いないだろう…世の中、なにが、起こるか、わからない、最たる例だ…」
「…」
「…とにかく、物事は、なるようにしか、ならない…」
前沢が、力を込める…
力を込めて、力説する…
「…そんな状況で、一番、大切なのは、なにか、高見さん、わかるかな?…」
「…わかりません…」
「…愛されることだよ…」
前沢が、そっけなく、言った…
きっと、
「…愛されること…」
と、言ったのが、自分でも、照れるのだろう…
なにしろ、前沢は、40代…
40代の男だ…
女子高生じゃ、あるまいし、真顔で、
「…愛されること…」
と、言ったのが、自分でも、恥ずかしいのだろう…
そう、思った…
だから、わざと、ぶっきらぼうに、言った…
だから、わざと、そっけなく、言った…
そういうことだ…
前沢が、続けて、
「…愛されれば、誰かが、助けて、くれるかも、しれない…」
と、言った…
「…助けて…ですか?…」
「…あるいは、困ったときに、手を差し伸べてくれるかも、しれない…」
「…手を差し伸べて…」
「…自分が、好きな相手が、困っていれば、誰もが、手を差し伸べたいと、思うだろう…力を貸して、やりたいと、思うだろう…どんな些細なことでも、自分が、できることを、してあげたいと、思うだろう…」
前沢が、力説する…
私は、そんな前沢を見て、
もしかして?
もしかして、この前沢…
この前沢という男は、もしかして、このM商会に、誰かの紹介で、入ったのでは?
と、思った…
大体が、こんな話で、力説する場合は、本人が、自分の経験を語っている場合が、多い…
いや、
多いではない…
ほとんど、すべてと、言っていい(笑)…
だから、力が入る…
自分の経験したことだから、力が、入る…
他人の経験した話ではない…
自分の経験した話だから、力が入る…
そういうことだ…
そして、私が、そう、思っていると、
「…高見さんは、美人だ…」
と、いきなり、言った…
いきなり、話を変えた…
だから、私は、仰天した…
なんで、いきなり、私が、美人だという話になるのか?
さっぱり、わからなかったからだ(苦笑)…
だから、言った…
「…所長、どうして、いきなり、そんな話に?…」
と、言った…
すると、前沢が、
「…美人は、目立つ…」
と、真顔で、言った…
「…それが、一体?…」
「…つまり、美人は、自分が、思っている以上に、大勢のひとから、見られていると、いうことだ…」
「…」
「…だから、敵も、作りやすい…もちろん、味方も、だ…」
「…敵? 味方?…」
「…そうだ…例えば、高見さんが、昔、高見さんを好きになった男を、振ったとする…」
「…それが、一体?…」
「…高見さんは。美人だから、大勢の男のひとに、誘われたかも、しれないが、振られた男の中には、根に持つ男もいるに違いない…」
「…」
「…つまり、それが、敵だ…」
「…敵?…」
「…高見さんが、数年後に、結婚して、子供が、生まれて、その子供が、学校に通うようになったとき、例えば、その子供の同級生の親が、高見さんが、昔、振った男だったり、あるいは、子供の通う学校の教師が、高見さんが、昔、振った男だったり、する可能性は、あるだろ?…」
「…それは…」
「…それが、原因で、子供が、イジメにあう可能性だってある…つまり、自分が、昔、高見さんに、振られたことへの逆恨みだ…」
「…」
「…真逆に、たいしたことでもないのに、味方を作ることだってある…」
「…えっ?…」
「…例えば、ボクが今、高見さんと、こうして、いっしょに、コーヒーを飲む行為が、それだ…」
「…ウソ?…」
「…高見さんは、たいしたことだって、思ってないかも、しれないが、ボクは、嬉しいよ…」
「…嬉しい?…」
「…この40オヤジでも、嬉しい…でも、これが、中学や、高校、大学と、学生時代なら、もっと、嬉しい…」
「…」
「…要するに、思い出…美しい思い出…楽しい思い出…」
「…思い出?…」
「…中学生や高校生のときのほうが、美人と、いっしょに、コーヒーを飲むことが、この歳のときより、ずっと嬉しい…そして、高見さんと、いっしょに、コーヒーを飲んだことが、美しい思い出になっていることがある…楽しい思い出になっていることがある…」
「…」
「…それで、そんな男が、もし、高見さんが、困っていることが、わかれば、力になってくれるかも、しれない…手を貸して、くれるかも、しれない…」
「…」
「…もちろん、打算は、抜きにね…誰もが、自分が、好きだったひとが、困っているのを、知れば、なんとか、してやりたいと、思うのが、普通だ…」
「…」
「…そして、そのひとたちが、高見さんの味方になってくれる…高見さんが、意図しなくてもね…」
「…」
「…とにかく、美人は、目立つ…だから、自分では、気付かないだろうが、本人が、思ってもみないほど、影響力があると、いうことだよ…」
「…影響力…」
「…有名政治家や、有名芸能人といっしょだ…大げさに、言えば、一挙手一投足を見られている…だから、常に、それを、念頭に置いて、行動することだ…」
前沢が、言う…
真顔で、言う…
私は、考え込んだ…
前沢の言葉に、深く、考え込んだ…
たしかに、前沢の言うことは、わかる…
痛いほど、わかる…
美人は、目立つ…
どこに、行っても、目立つ…
どんな場所でも、目立つ…
これは、イケメンよりも、目立つ…
なぜなら、女の方が、男よりも、華やかだから…
だから、ルックスのいい男より目立つ…
そういうことだ…
そして、これが、芸能人だとする…
例えば、天下のキムタクを例にとれば、キムタクが、どこにいても、誰といても、あそこに、キムタクがいると、わかれば、目立つだろう…
そして、キムタクが、どんな話をするか、などと、聞き耳を立てる輩が、大勢いるだろう…
だから、気を抜けない…
どこに、いても、誰と、いても、気を抜けない…
常に、ひとから、見られているからだ…
だから、気を抜けない…
美人も、また、それと、同じだ…
美人といっても、大抵は、一般人…
天下のキムタクには、遠く及ばないが、それでも、身近にいる人間にとっては、影響力のある人間となる…
身近にいれば、男女ともに、つい、気になる存在だ…
つまり、目立つ存在だ…
だから、余計に、気を付けなければ、ならない…
常に、自分の影響力を考えなければ、ならない…
そういうことだ…
たしかに、学生時代、私にコクッた男を袖にした経験は、数知れず(苦笑)…
その中には、当然、私に恨みを抱いている男は、いるに、違いない…
つまり、敵…
私は、意識せずに、敵を作ったことになる…
意識せずに、私は、復讐される可能性もなきにしも、あらずと、いうことだ…
十年前、いや、二十年近く前でも、普段は、私のことを、考えることのない男でも、なにかのきっかけで、私と再会して、そのときに、私に振られた屈辱を思い出す男も、いるに、違いない…
それを、思えば、私は、十分、男から、恨みを買っている覚えがある…
十分過ぎるほど、ある(苦笑)…
誰かに、恨みを買った覚えがある…
私は、あらためて、思った…
身に染みて、思った…




