恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 71
そして、私が、そんなことを、考えていると、前沢が、
「…そうか、そんなことは、ないか…」
と、独り言を言うように、呟いた…
「…ボクの勘は、自分で言うのも、おかしいけれど、結構当たるんだが…」
前沢が、首をひねる…
私は、それを、見て、
…ホント、勘が鋭い!…
と、思ったが、まさか、それを、口に出すわけには、いかない…
だから、黙って、目の前のコーヒーをすすった…
「…で、高見さんは、米沢さんが、高見さんを、嫌う理由が、わかったの?…」
直球で、来た…
まさに、直球で、来た…
私は、一瞬、どう言おうか、悩んだ…
悩んだ、結果、出てきた言葉が、
「…カラダの大きさじゃないですか?…」
という言葉だった…
「…カラダの大きさ?…」
前沢は、私の言葉に呆気に取られたようだ…
私の言っている意味が、わからなかったらしい…
「…小さい女は、男のひとから見て、可愛く見えます…真逆に、大きい女は、可愛く見えない…だからじゃ、ないですか?…」
私が指摘した…
すると、どうだ?
前沢が、考え込んだ…
それから、前沢が、真顔で、
「…高見さん、本気で、言っているの?…」
と、聞いてきた…
「…えっ? どうして、ですか?…」
「…だって、カラダの大きさなんて、そんな理由で…」
「…そんな理由?…」
「…そうだよ…そんな理由だ…」
前沢が、言う…
が、
その言葉に、私は、カチンときた…
文字通り、頭に来た…
「…所長は、女心がわからないんです…」
「…女心?…」
「…女は、男のひとに、可愛く見られたいんです…でも、カラダの大きな女は、可愛くない…だから、小柄な女を目の敵にするんです…小柄な女は、可愛いから…」
私が、強く言うと、前沢が、呆気に取られた…
実に、呆気に取られた表情になった…
それから、独り言を呟くように、
「…そうかな…ボクは、個人的な好みで言うと、背が高くて、スタイルのよい女の方が、好きだけれども…」
と、ポツンと言う…
が、
その言葉は、痛かった…
実に、痛かった…
文字通り、私の痛いところを突いたからだ…
だから、痛かった…
私の弱みを突いたから、痛かった…
弱みというのは、私の背の大きさ…
私は、身長、155㎝と小さい…
だから、背の高い女性が、苦手とまでは、言わないが、正直、微妙なところ(苦笑)…
若いときは、それほど、考えなかったが、大人になって、男のひとが、背が高く、色気ムンムンの女のひとを見て、デレデレする様子を見て、気付いた…
気付いた=考え込んだ…
大げさに、言えば、裸とまでは、言わないが、水着を着ていて、私と彼女のどっちを選ぶかと、問われれば、間違いなく、彼女を選ぶだろう…
背が高く、色気たっぷりの女を選ぶだろう…
そんな簡単なことが、大人になって、わかってきた…
二十代後半の、三十路近くになって、わかってきた(涙)…
我ながら、トロい…
実に、トロい…
が、
言い訳をするならば、たまたま、私の身近に、そんな背が高くて、色気ムンムンの女性が、いなかったことが、大きい…
だから、それまで、気付かなった…
自分は、美人だから、自分が、一番だと、思っていた(爆笑)…
しかし、そんな私のプライドを粉々に砕く出来事があった…
以前、勤めていた、金崎実業で、会社仲間と、飲みにいったときに、そんなタイプの美人が、現れたのだ…
すると、当然のことながら、男たちは、皆、背が高く、美人で、スタイルの良い女性に、デレデレ…
傍から、見ていて、みっともないほど、デレデレだった(爆笑)…
そして、そのときに、悟った…
女の敵は、女と言うけれども、背が高く、スタイルの良い、色気たっぷりの女には、私は、勝てないという事実を、だ…
そんな単純な事実に、気付いた…
だから、痛かった…
今の前沢の発言が、痛かった…
正直、背が高く、色気ムンムンの女に、顔で勝っても、カラダで負ける(涙)…
そんな単純な事実に、気付いた瞬間だった…
だから、つい、前沢に、
「…所長、そんなことを、女性の前で、言っちゃダメですよ!…」
と、たしなめるように、言った…
「…ダメ? …どうして、ダメなの?…」
「…日本の女性は、小柄な女性が、ほとんどです…だから、そんなことを、言うと、どんな職場でも、女を敵に、回しますよ…」
私が、勇んで言った…
すると、前沢が、ニヤリと、笑って、
「…高見さん、もしかして、自分のことを、言っているの?…」
と、ニヤリとした…
「…どういう意味ですか?…」
「…高見さん…たしかに、美人だけれども、カラダが、小さい…だから…」
前沢が、痛いところを、突いてきた…
私が、気にしているところを、ズバリと突いた…
それから、
「…そう言えば、あの米沢さんは、大柄で、いわゆる、セクシー系の美人だ…だから、もしかしたら、高見さんが、彼女を嫌うから、条件反射で、米沢さんも、高見さんを、嫌うんじゃ…」
前沢が、言った…
思いも、かけないことを、言った…
私は、唖然としたが、思い当たることが、あった…
文字通り、あった…
要するに、私は、あのタイプが、苦手なのだ…
男ウケする、あの米沢京子のようなタイプが、苦手なのだ…
私では、勝てない!…
と、内心、思ってしまう…
だから、苦手なのだ…
それゆえ、おそらく、態度に出てしまう…
例えば、彼女を見る目が、なんとなく、冷ややかな目で、見てしまう…
また、彼女を前に笑えば、その笑いが、どこか、ぎこちないというか…
ひきつった笑いになってしまう…
要するに、嫌いなのを、必死になって、隠そうとしているから、余計に目立つ…
いわゆる、演技が、下手というか…
かえって、下手な演技が、目立つ…
だから、それを、見て、相手も、気付く…
私に、嫌われた相手もまた、自分を好きでないことに、気付く…
まさに、悪意の悪循環…
悪循環に、ほかならない(苦笑)…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんな私にダメ出しするように、前沢が、
「…高見さんが、米沢さんを、嫌うから、米沢さんも、それに、気付いて、高見さんを嫌うんだよ…あるいは、米沢さんが、高見さんを、嫌うから、高見さんも、嫌うんだよ…違う?…」
そう言われると、ぐうの音も出なかった…
が、
すぐに、続けて、
「…まあ、それが、一般論だけれども、高見さんを米沢さんが、嫌うのは、そうじゃないと、思う…」
と、真顔で、言った…
そして、さらに、
「…あの米沢さんには、まだまだ謎がある…」
と、宣言した…
「…謎ですか?…」
「…どうして、M商会のような小さな会社にやって来たのかとかね…」
「…」
「…彼女の経歴は、完璧とまでは、言わないが、M商会に入社したことで、明らかに、格落ちするんだ…」
「…格落ちですか?…」
「…要するに、会社のランクが下がる…」
「…」
「…会社のランクが下がれば、結婚の障害になるだろう…大きな会社にいる社員の方が、通常、給与も、いいし、安定している…だから、その中から、将来の夫を選んだほうが、安定した人生を送れる…そうだろ?…」
「…」
「…つまり、大きな会社から、M商会にやって来たのは、それだけで、大きな謎があるということだ…」
前沢が、断言した…
そして、それを、最後に、会話が、途切れた…
今日の会談で、主要な話題は、尽きたということだ…
私も、前沢も、それが、わかった…
わかったから、お互いに、無言で、コーヒーをすすった…
他に、話題が、ないからだ…
だから、無言で、コーヒーをすすった…
「…とにかく、調べてみるよ…」
コーヒーをすすりながら、前沢が、言った…
「…調べる?…」
「…米沢さんのことだ…」
「…」
「…正直、あの経歴を見たら、個人的にも、興味が湧いてきた…一体、なんの目的で、今の会社に入ったのか? すこぶる興味が湧いてきた…」
前沢が、コーヒーをすすりながら、断言する…
そして、私も、同じだった…
前沢の言葉で、余計に、米沢京子に、興味が、湧いてきた…
そして、私が、コーヒーをすすっていると、
「…高見さんは、結婚しないの?…」
と、いきなり、前沢が、言ってきた…
まさかの、いきなりだった…
まさか、いきなり、前沢から、そんなことを、言われるとは、思ってもみなかった…
だから、私は、危うく、コーヒーを吹き出しそうに、なった…
あまりにも、いきなりだったからだ…
私は、急遽、態勢を立て直して、
「…どうして、ですか?…」
と、聞いた…
「…どうして、いきなり、そんなことを…」
「…うん…まあ、高見さんにとっちゃ、迷惑な話だろうが、結婚は、早いほうが、いいよ…」
前沢が、ポツリと、漏らす…
「…高見さんに、とっちゃ、迷惑極まりない話だろうけれども、若さが、あるうちに、早く結婚した方が、いい…」
「…それは、わかってます…」
「…たしかに、わかっていると思う…高見さん、バカじゃないだろうからね…」
「…」
「…でも、ありがた迷惑を承知で、言わせてもらえば、結婚は、早い方が、いい…わかりやすく言えば、それは、テレビのドラマの主役と同じだ…」
「…ドラマの主役ですか?…」
「…40歳を過ぎて、女優さんが、ドラマで、主役を張るのは、難しいだろう…それと、同じだ…」
「…正直、ありがた迷惑な話だと思うよ…高見さんに、すれば…だからと言って、急いで、結婚して、こんなはずじゃなかったと言って、離婚すれば、元も子もない…」
「…そうですよね…」
「…まあ、そんなことを、言えば、ボクも、同じだ…」
「…所長も、同じ? なにが、同じなんですか?…」
「…まさか、ボクが、M商会の営業所で、所長をやっているなんて、数年前までは、考えても、みなかったよ…」
「…」
「…人生は、予定調和じゃない…ときどき、自分でも、考えたことのないことが、起こる…」
「…」
「…高見さんも、今は、結婚する気がないかも、しれないが、数年後には、結婚しているかも、しれないよ…しかも、高見さんが、思っても、みない相手と…」
なにやら、前沢が、予言めいたことを、言う…
私は、それを、聞いて、
「…だったら、よいのですが…」
と、曖昧に、答えた…
「…人生なんて、わからないよ…数年先だって、どうなるか、わからない…自分でも、想像もしていない展開になることだって、ある…」
「…」
「…人生出たとこ勝負になることだってある…」
「…出たとこ勝負?…」
「…思いもかけない展開になって、自分でも、どうして、いいか、わからない…ちょうど、山に登って、道に迷って、右に行けば、いいか、左に行けば、いいか、わからないのと、いっしょだ…そのときに、判断するのは、ハッキリ言って、勘だ…」
「…勘?…」
「…根拠なんて、なにもない…出たとこ勝負…たまたま、右を選んだから、無事に帰還できたけれども、左に行ったら、どうなるか、わからなかったなんて、話は、あるでしょ?…」
「…」
「…ハッキリ言えば、運…じゃんけんと同じ…やってみなければ、勝つか負けるか、わからない…」
「…」
前沢が、意外なことを、言った…




