恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 70
彼女だけが、笑わなかった…
彼女、米沢京子だけが、笑わなかった…
それを、見て、
…ヤバい…
と、思った…
もしかしたら、私と、前沢の関係に、気付いている…
関係というのは、もちろん、男女の関係ではない(笑)…
私が、前沢を通じて、彼女、米沢京子の情報を得ようとしている…
その目的に、気付いた?
そう、思った…
そう、考えた…
しかし、それは、思い込みというか…
単に、私に後ろめたい気持ちがあるからかも、しれない…
前沢を通じて、彼女、米沢京子の経歴を聞き出したいと、考えた、私の後ろめたい気持ちがあるかも、しれない…
いずれにしろ、後戻りは、できない…
賽は投げられた…
私は、この後、予定通り、前沢と会うことになった…
待ち合わせの場所に、着いたのは、私が早かった…
やはりというか…
前沢は、管理職…
管理職といっても、ひとつの営業所を任されただけの、中間管理職に、過ぎないが、平社員の私より忙しい…
だから、私より、先に、会社を出ることが、できない…
それゆえ、私の方が、待ち合わせの店に早く着いた…
が、
前沢もまた、思ったよりも、早くやって来た…
ちょうど、私から、遅れて、二十分後にやって来た…
前沢は、開口一番、
「…遅れて、申し訳ない…」
と、詫びた…
私は、すぐに、席を立ち、
「…いえ、私こそ、わざわざ、お呼びだてして、申し訳ありません…」
と、告げた…
それから、すぐに、本題に入った…
二人とも、席に、座って、すぐに、
「…今日、お話ししたかったのは、米沢さんのことです…」
と、告げると、前沢も、すでに、わかっている様子だった…
「…そんなことだろうと、思ったよ…」
と、応じた…
「…ボクも、彼女のことは、すでに、調べた…」
「…調べた?…」
「…そう、調べた…」
前沢が、言う…
それから、
「…高見さんは、なにを、注文する?…」
と、聞いた…
私は、即座に、
「…家に、食事が、用意してあるので、コーヒーか、なにかで、いいです…お腹にたまるものを、食べると、家で、食べれなくなるので…」
と、言うと、前沢も、
「…ボクも、同じだ…」
と、応じた…
「…ここで、お腹いっぱいに、なったら、家族に怪しまれる…」
と、笑った…
私は、それを、見て、
「…所長も、冗談を言うんですね…」
と笑った…
「…冗談? 冗談じゃないよ…」
と、至極、真面目な表情で、言う…
それから、タッチパネルで、コーヒーを二つ、頼んだ…
そして、コーヒーを頼み終えると、
「…いや、高見さんのような美人とは、こんな用事ではなく、会いたかった…」
と、笑った…
「…こんな用事ですか?…」
「…そうだ…こんな用事だ…」
前沢が、至極、真面目な口調で、言う…
それから、カバンの中から、資料を取り出した…
いや、資料というと、大げさ過ぎるが、要するに、彼女の経歴を書いたものを、プリントアウトしたものだった…
おそらくは、人事部から、もらったのだろう…
私は、それを、見て、驚いた…
まさか、この前沢が、人事部の持つ、個人情報というか…
そんな情報を持ってくるとは、夢にも、思わなかったからだ…
普通は、
「…人事部に問い合わせて、見たが…」
とでも、言って、伝聞を伝えるに過ぎないからだ…
伝聞、つまり、聞いたことを、告げるに過ぎないからだ…
だから、驚いた…
そして、前沢が、
「…彼女の経歴だ…」
と、言って、私に、プリントアウトしたペーパーを渡した…
そこには、彼女、米沢京子の経歴が、書いてあった…
どこどこの高校や、大学を出て、どこそこの会社に勤めて、今の会社に入った経歴が、書いてあった…
私は、それを、見ても、なんとも、思わなかった…
っていうか、そもそも、高校の偏差値が、わからない…
よほど、有名な高校でもない限り、自分の出身地の高校でも、ない限り、普通は、わからないものだ…
わかるのは、大学…
大学名を見れば、偏差値がわかる…
ある程度、名の通った大学なら、おおよその偏差値はわかる…
そこに書かれていたのは、誰もが、知る有名大学だった…
だから、不審はないというか…
別段、不思議に思わなかった…
が、
私が、それを、見終わったのを、見て、前沢が、一言、
「…おかしいね…」
と、告げた…
「…おかしい? …なにが、おかしいんですか?…」
「…就職した会社だ…」
「…会社ですか?…」
「…そうだ…」
「…なにが、おかしいんですか?…」
「…その大学の偏差値では、その会社は受からない…」
前沢が、断言する…
「…受からない?…」
「…そう、受からない…」
前沢が、断言すると、コーヒーが、運ばれてきた…
私は、まず、コーヒーを飲んだ…
前沢もまた、まずは、運ばれてきたコーヒーを飲んだ…
そして、私は、コーヒーを半分近く、飲んでから、
「…だったら、どうして、受かったんでしょうか?…」
と、聞いた…
「…縁故だろう…」
前沢が、そっけなく答える…
「…縁故?…」
「…要するに、コネだ…誰かのコネがあれば、採用する…そういうことだ…」
「…」
「…それに、こう言っちゃ、なんだが、彼女は、美人だ…高見さんとは、違うタイプのね…さらに、カラダも大きくて、スタイルもいい…」
前沢が言う…
言葉には、しないが、肉体営業というか…
ちっぽけな私と違い、カラダも使うことが、できると、言外に、匂わせた…
さすがに、私も、前沢の言いたいことは、すぐにわかった(苦笑)…
それは、さておき、コネの正体は、やはり、あの米倉平造だろうか?
私は、考えた…
他に、思い浮かばない…
私が、知るのは、平造だけだ…
平造ならば、間違いなく、受かるだろう…
平造の推薦なら、間違いなく、受かるだろう…
大日産業取締役社長の推薦だ…
この日本で、知らぬものは、いないとまでは、言わないが、大抵は、知っている…
そんな人物の推薦があれば、断るわけには、いかない…
合格させるのみ…
他に手段が、ないだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私が、考えていると、
「…高見さんは、心当たりがあるようだね…」
と、前沢が、言った…
「…心当たり?…」
「…そうだ…」
「…どうして、そう思うんですか?…」
「…ボクが、今、米沢さんの大学では、米沢さんが、最初に就職した会社は、コネでも、なければ、入れないと、言うと、すぐに、納得した顔をしたからね…だから、誰か、心当たりが、あると、思って…」
「…」
「…そして、その心当たりの人物が、もしかしたら、米沢さん…彼女が、高見さんを憎む理由じゃないかな…」
前沢が、言った…
ずばり、的中させた…
私は、内心、驚いたが、まさか、それを、口にするわけには、いかない…
私は、笑いながら、
「…そんなこと、ありませんよ…」
と、言った…
「…そうかな?…」
「…そうです…」
私は、断言した…
すると、前沢は、さすがに、なにも、言わなくなった…
私は、それを、見て、考えた…
自分では、気付かなかったが、どうやら、私は、世間から、強い女だと、思われているらしいことを、あらためて、考えた…
私も、学生時代までは、あまり、実感が、なかった…
よく、友人から、
「…高見は、強いから…」
と、言われたが、実感は、なかった…
正直、まるで、なかった(苦笑)…
が、
歳を取り、なんとなく、わかってきた…
なにが、わかってきたかと、言えば、一言で言えば、誘いにくい…
男のひとが、私を誘いにくいという事実に、気付いた…
女は、弱いほうが、いい…
いや、
中身ではなく、見た目が、弱いほうが、いい…
そのほうが、男のひとが誘いやすいという事実に、気付いた…
見た目が、弱いというのは、中身は、強くても、構わないということだ(笑)…
男のひとの側に立って、考えてみれば、強い女ほど、厄介な存在は、いない…
なにか、自分が、言っても、反論でも、されたら、自分が、すぐに、追い込まれる(笑)…
だから、なるべく、そんな女には、近付ないほうが、無難…
たとえ、その女が、どんな美人でも、用事が、なければ、近付かないほうが、無難だと気付いた…
そして、そんな、誰もが、わかりきった事実に、私が、気付いたのは、二十代も、後半になってから…
三十路を迎えた頃に、ようやく、気付いた…
そして、それは、たぶん、男も同じ…
同じだ…
なにが、同じかと、いえば、強い女は、コリゴリだと、いうこと…
それゆえ、私は、自分でいうのも、なんだが、学生時代は、モテた…
自分で、言うのも、なんだが、モテモテだった…
それは、私が、美人だったから…
だが、歳をとって、めっきり、男のひとから、誘われなくなった…
それは、たぶん、男が、気付いたから…
女は、顔でないことに、気付いたから(笑)…
顔よりも、性格が、大事だと、気付いたからだ(爆笑)…
私自身は、自分の性格が、悪いとは、思わないが、気が強いのは、自分でも、自覚しているつもりだ…
そして、男にとっては、それが、問題…
実に、問題だと、気付いた…
男も、若いときは、気付かない…
つい、誰もが、顔から選ぶ…
男も、女も、まずは、異性の顔から、判断するからだ…
が、
しかしながら、少し歳をとってくれば、顔だけではない…
中身に目が、向いてくる…
そういうことだ…
その結果、私は、遠慮された…
男のひとから、遠慮されたと、気付いた…
私の気の強さから、男のひとから、遠ざけられたと、気付いた…
今、目の前の前沢の反応を、見て、あらためて、気付いた(苦笑)…




