恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 68
そして、私が、振り返った先には、当然のことながら、彼女、米沢京子の姿があった…
彼女は、クールビューティというか…
顔色一つ変えずに、
「…所長、おはようございます…」
と、答え、続けて、
「…昨日の研修ですか? 実に有意義でした…」
と、告げた…
私は、唖然とした…
一体、どの口が言うのか?
ハッキリ言いたかったが、さすがに、言うわけには、いかない…
さすがに、口にするわけには、いかない…
すると、
「…そうか…有意義だったか…それは、よかった…」
と、前沢が、答えた…
それに、応じて、米沢京子が、
「…ハイ…また、研修が、あれば、ぜひ、研修を受けたいです…」
と、答えた…
臆面もなく答えた…
私は、どの口が言うんだと、思った…
よく、そんなことを、言えるなと、思った…
が、
次に、彼女は、私に振った…
私、高見ちづるに振った…
「…ですよね…高見さん?…」
と、私の顔を見ながら、振った…
私の顔を、笑いながら、見て、言った…
私は、
「…ハイ…米沢さんの言う通りです…」
と、言うしかなかった…
なかったのだ…
完敗…
文字通り、私の完敗だった…
私、高見ちづるの完敗だった…
昨日に、引き続き、私の完敗だった…
呆気に取られると、同時に、悔しくて、仕方がなかった…
彼女、米沢京子に完敗したのが、悔しくて、仕方がなかった…
正直、近年、こんなに悔しかったことは、ない…
こんなに、惨めな思いをしたことは、ない…
そう、思った…
心の底から、そう、思った…
私としては、珍しい…
実に、珍しい感情だった…
自分で、自分に驚いた…
率直に、言って、いつ以来だろうか?
覚えがない…
それほど、こんな悔しい思いをしたことは、なかった…
こんな惨めな思いをしたことが、なかった…
私は、敵を作る人間ではない…
決して、敵を作る人間ではない…
それゆえ、学生時代から、敵を作らなかった…
会社員時代も、敵を作らなかった…
以前、勤めていた金崎実業時代も、敵を作らなかった…
だから、こんな仕打ちを受けた覚えがない…
いくら、考えても、ない…
繰り返すが、それは、私が敵を作らないから…
だから、他人から、変な仕打ちをされた覚えが、ない…
そして、私が、敵を作らないのは、性格による…
意図的に、敵を作らないのでは、ない…
ただ、敵ができない…
あるいは、いないのだ…
真逆に、敵を作る人間は、いつでも、作る…
必ず、作る…
学校や、会社に限らず、どこに行っても、作る…
それは、大抵が、性格に難が、ある場合が、大半…
いや、
ほとんど、すべてと言っていい(爆笑)…
要するに、性格が悪い(爆笑)…
だから、周囲の人間が、距離を置く場合が、大半だからだ…
そして、本人が、自分が、性格が悪いと、気付かない場合の大半が、自分と同じ性格の悪い人間とつるんでいるから…
だから、気付かない…
周囲の人間は、皆、距離を置くが、当人たちは、いつも数人で、つるんでいるから、気付かない…
そういうことだ…
それゆえ、周囲に、自分と同じような性格の悪い人間が、いない場合は、悲劇…
悲劇となる…
なにしろ、学校でも、会社でも、しゃべる人間が、周囲にいない…
だから、学校なら、欠席…
会社なら、辞めるという選択になる…
が、
そういう人間は、稀…
ごく少数に過ぎない…
大半は、神様ではないから、性格が、滅茶苦茶よくもないし、悪くも、ない…
それが、普通だからだ…
なにしろ、そんなに性格が悪くては、社会生活が、営めない…
どこに行っても、半端モノというか…
周囲に溶け込めなければ、仕事もなにも、続かないからだ…
そして、それは、もしかしたら、遺伝?
親の遺伝かも?
と、最近は、考えるようになった…
学生時代は、そんなこと、考えたこともなかったが、最近は、考えるようになった…
それは、きっと、私が、歳をとったから、考えるようになった…
少しは、大人になったから、考えるように、なった…
それが、真実だろう…
すでに、学生時代の友人たちとは、誰一人、つながっていないが、風の噂で、誰それが、結婚したとか、近所のスーパーで、学生時代のクラスメートが、旦那とおぼしき男といっしょに、いる姿を、見たことがある…
当然、その中には、子連れもいた…
なにしろ、私は、33歳…
もうすぐ、34歳になる…
だから、かつての友人やクラスメートが、結婚して、子供がいても、おかしくはない…
そんな年齢だ…
だから、だろう…
若い頃には、考えたこともないことを、考えるようになった…
つまりは、母親目線というか…
まだ、結婚もしていなし、子供もいないにも、かかわらず、母親目線…
なぜか、母親目線で見るようになった(笑)…
それゆえ、誰が、見ても、性格に難がある男や女がいれば、このひとの親は、一体、どんな親なんだろう?
とか、
一体、どんな環境で育てば、こんな性格になるだろうとか、考えるようになった…
そして、その延長線上で、この米沢京子のことを、考えた…
正直、これまでは、なぜ、彼女が、私を目の敵にするのか、謎だったが、昨日、その理由がわかった…
彼女が、私を目の敵にする理由がわかった…
要するに、私が、平造に好かれているのが、気に入らないのだ…
自分が、私にとって代わりたい…
私のように、平造に好かれたい…
それが、私を嫌う理由だ…
ほぼ承認欲求に近い…
平造に認められたい、承認欲求に近い…
そして、それが、わかったのが、なにより、嬉しかった…
コナンや金田一ではないが、謎が解けたのが、嬉しかったのだ…
しかしながら、敵に見られるのが、辛い…
敵認定されるのが、辛い…
正直、この年齢まで、敵を作った記憶がない…
だから、どう対処していいのか、わからない…
それゆえ、困った…
これから、彼女、米沢京子に、どう対応していいか、わからず、困った…
困ったのだ…
そして、そんなことを、考えながらも、一日が始まった…
正直、会社の業務は、退屈…
退屈、極まりない…
最初は、慣れるのに、戸惑ったが、慣れてみれば、なんということはない…
基本は、入力業務が、中心…
パソコンに、データを入力する作業が、中心だからだ…
だから、すぐに慣れる…
正直、慣れてみれば、退屈…
退屈、極まりない…
が、
人間関係は、そうは、いかない…
まだ、転職して、一か月弱…
まだまだ、とても、人間関係に慣れたとは、言えない…
職場に溶け込めたとは、言えない…
だから、むしろ、この業務が、楽だった…
なにが、楽かと、言えば、集中できるから…
ひとと話すことなく、集中できるから、楽だった…
なまじ、べらべらと喋って、敵を作る可能性も、低い…
べらべらと喋ることで、私の性格を嫌がるものも、いるに違いない…
おしゃべりは、ある意味、最大の敵というか、禁句…
べらべらと喋ることで、自分が、どんな人間か、周囲に、知らしめることになるからだ…
そう言えば、以前にも、いた…
前に勤めていた金崎実業にも、いた…
仕事をしながらも、常に、口を動かす輩がいた…
なにをしても、どんなときも、口を動かしている…
とんでもなく、おしゃべり…
だから、自分の情報が、丸見え…
あるいは、自分の性格が、丸見え…
そして、その丸見えの性格が、良ければ、いい…
真逆に、悪い(笑)…
だから、いつも、特定の性格の悪い同僚と」つるんでいた…
いつも、性格に難のある人間たちと、いっしょにいた…
それゆえ、周囲の人間たちは、一定の距離を置いていたのだが、当人たちは、気付かない…
世の中、そんなものだ(笑)…
いっしょに会社にいるときは、普通に接するが、彼ら、彼女らが、辞めても、誰一人、連絡は取らないだろう…
同じ職場だから、仕方なく、接している…
それが、真相だからだ…
そして、そんなことが、起こるのは、彼ら、彼女らが、いつも、他人の悪口を言っているから…
だから、誰にも、彼ら、彼女らが、性格が、悪いことが、わかる…
真逆に、言えば、喋らなければ、わからない…
性格が、いいか、悪いか、わからない…
今、振り返れば、彼ら、彼女らは、私の教師だった…
半面教師だった(爆笑)…
彼ら、彼女らのようになっては、いけない…
彼ら、彼女らのような、性格の悪いひとたちと接しては、いけない…
そう、思わせた、反面教師だった…
彼ら、彼女らが、今、どこで、なにをしているか、知らないが、きっと、どこでも、ひとの悪口を、言っているだろう…
それも、すべて、彼ら、彼女らが、おしゃべりだから、わかる…
おしゃべりだから、性格の悪いことが、わかる…
しゃべらなければ、わからない…
それを、反面教師にすれば、しゃべらなければ、いい…
あまり、しゃべらなければ、いい…
しゃべらなければ、どんな人間か、わからない…
だから、しゃべらなければ、いい…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そう考えると、それを、実行している人間が、私以外に、この職場に、いることが、わかった…
それは、ほかならぬ、米沢京子…
彼女だった…




