恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 66
「…評価?…」
私は、絶句した…
そんなことを、思ったことは、一度もないからだ…
「…もちろん、評価というのは、学歴じゃ、ない…学歴も、もちろんだが、話していて、このひとの方が、自分が納得することを言うとでも、言うのかな…このひとの意見を聞いてみたいと、思わせることかな…」
「…」
「…おそらく、透くんは、好子と話していて、好子を、お嬢様だなと思ったのかも、しれない…事実、好子は、生粋のお嬢様だ…おそらく、苦労らしい苦労は、これまで、産まれてから、一度もしたことが、ない…だからかも、しれない…」
「…でも、透さんも、お坊ちゃまじゃ…」
「…透くんは、春子さんの子供じゃない…」
平造が、いきなり、言った…
「…それは、たぶん、高見さんも、知っているはずだ…」
平造が、言う…
たしかに、言われてみれば、わかる…
透は、愛人の子供…
父親の良平が、外で、作った子供だ…
それゆえ、本来なら、水野を継ぐ人間ではない…
水野の後継者たりえない…
しかしながら、良平は、妻の春子との間に、子供ができなかった…
それで、仕方なく、透を、正式な水野の後継者とした…
そして、そんな経緯からだろう…
透は、苦労した…
幼い透は、いきなり、水野本家に入り、水野家の正式な後継者となった…
いわば、学校で言えば、転校生というか…
会社で言えば、中途入社というか…
最初から、いるわけじゃないところに、入る…
それは、大変な努力を必要とする…
そして、それが、苦労となる…
そんな苦労をしていない好子さんを、透は、生粋のお嬢様だと、思ったのかも、しれない…
透の方が、好子さんよりも、数倍は、金持ちの御曹司となったにも、かかわらず、そう思ったのかも、しれない…
おそらくは、好子さんの言動から、そう判断したのかも、しれない…
私は、思った…
私は、考えた…
「…透くんは、苦労人だ…」
平造が、言う…
「…いや、苦労人というのは、言い過ぎかも、しれない…透くんは、生活の苦労は、していないと、思う…透くんが、水野家に入る前には、生母と暮らしていたが、生活に苦労したという話は、聞いていない…良平が、金銭的に支援したと思うからね…」
「…」
「…ただ、幼い透くんは、水野家に入ることに、よって、環境が激変したのは、確かだ…良平と春子さんの間に子供が、いれば、透くんが、水野の家に入ることもなく、水野の後継者になることは、なかった…透くんの将来が、激変したわけだ…」
「…激変?…」
と、米沢京子…
「…そうだ…透くんが、水野家に入らなければ…水野の後継者にならなければ、違った人生を歩んだだろう…自分で、自分の人生を選択できただろう…」
「…」
「…だが、水野家に入ることによって、その道はなくなった…」
平造が、言う…
悲しそうに言う…
私は、意外だった…
透が、水野の後継者になるのが、それほど、大変だと、平造が、見ているとは、考えもしなかったからだ…
すると、隣の米沢京子が、突然、
「…会長は、失礼ですが、透さんに、自分の姿を重ねてみて、おられるのでしょうか?…」
と、言ったのには、驚いた…
まさに、正鵠を射た発言だと、思ったからだ…
私は、驚いて、平造を見たが、平造は、淡々としていた…
淡々とした表情で、
「…その通りだよ…」
と、言った…
「…私は、分家の身分から、本家のお嬢様と結婚して、米倉を継いだ…そして、米倉を…大日産業を、大きくすることに、全力を注いだ…それは、決して、平たんな道のりではなかった…だから、米倉家が、代々、大日産業を経営していなければ、私は、自分の息子や娘に、会社の経営を委ねない…誰か、他の人間に継いでもらうよ…」
「…そんなに、大変なんですか?…」
と、米沢京子が、口を挟んだ…
平造は、頷いた…
「…大変だよ…」
平造が、米沢京子の言葉を肯定した…
「…決して、自分の息子や娘には、させたくない仕事だ…苦労するのは、目に見えてるからね…」
「…」
「…そして、それは、おそらく良平も、同じだ…」
「…水野さんも、同じ…」
と、米沢京子…
「…そうだ…良平も、本当なら、透くんに、後は、継がせたくなかっただろう…私も良平と長い付き合いだ…良平のことは、わかっている…」
「…」
「…でも、水野も米倉と同じ…代々、当主が、会社を世襲する…それを、止めることは、できない…」
「…」
「…だから、透くんには、水野の後継者の道しかない…正直、平たんな道ではない…楽な道ではないよ…」
「…」
「…最初の話に戻るが、透くんが、した苦労というのは、人間関係だ…」
「…人間関係?…」
と、私。
「…そうだ…幼い透くんは、水野家に入って、周囲に認めてもらうために、大変な努力をしたと、思う…それが、好子との差だ…だから、きっと、透くんが、好子を評価しないのだろう…好子は、透くんのような苦労はしていないからね…」
「…」
「…肉体的な苦労も辛いが、精神的な苦労もまた辛い…」
「…精神的な苦労…」
と、私。
「…子供たちのイジメがいい例だ…大人になっても、イジメられた記憶は、消せないと、言われている…透くんも、同じだろう…水野の後継者として、周囲に認めてもらうために、努力しているのだろう…」
「…」
「…まあ、透くんの努力を、きっと、良平は、見ているから、後継者としたのだろう…良平もバカではないからね…」
平造が、言う…
良平を評して、言う…
そして、それが、最後だった…
それで、今日の会見は、終了だった…
平造は、言いたいことを、すべて、言い終わったのだ…
「…では、これで…」
平造が、言った…
「…せっかく、熱海まで、来たんだ…なにか、熱海のおいしいものでも、食べて行ってくれ…」
そう、言って、部屋を出た…
私と米沢京子が、声をかける間もなく、あっさりと、部屋を出た…
正直、ちょっと、意外というか…
こんなに、あっけなく、部屋を出てゆくとは、思わなかった…
なにより、この部屋に残されたのは、私と米沢京子…
お互いが、お違いを嫌っている(苦笑)…
そんな女と二人きりで、いることは、できなかった…
二人とも、一瞬でも、早く、部屋を出たい…
そんな気持ちだったに、違いない…
が、
さすがに、それを言い出すのも、どうかと、思った…
私も、33歳の大人だ…
彼女も、また、ほぼ同年齢…
一歳か、二歳年下だ…
だから、二人とも、いい大人だ…
そんな二人が、
「…アナタは、嫌いだから、一瞬でも、アナタと、いっしょに、いたくない…」
と、言い出すのは、どうかと、思ったからだ…
だから、言い出せなかった…
だから、口に出せなかった…
私は、どうして、いいか、わからなかった…
私は、なんと言って、いいか、わからなかった…
そして、彼女、米沢京子もまた、黙ったまま…
なにも、言わなかった…
だから、気まずかった…
二人とも、非常に、気まずかった…
二人の間に、なんともいえない沈黙ができた…
正直、たぶん、どっちも、一目散に、この場から逃げ出したいに違いなかった(笑)…
が、
突然、米沢京子が、口を開いた…
私は、一体、彼女が、なにを、言い出すのかと、思った…
まさか、これから、私といっしょに、熱海の有名な観光地で、食事をしないかなどと、言うわけは、ないと、思った…
だから、余計に、なにを言い出すのか、気になった…
そして、彼女の口から、出た言葉は、一言、
「…気に入らない…」
という言葉だった…
私は、一瞬、
…えっ?…
と、思った…
が、
まさに、的確な言葉だった…
まさに、的を得た言葉だった…
敵?ながら、そう、思った…
心の底から、そう、思った…
そして、私が、そう思いながら、彼女、米沢京子を見た…
すると、彼女が、実に、憎らしそうに、私を見た…
まるで、親の仇か、なにかを見るように、見た…
「…ホント、気に入らない!…」
私を見て、大声で、怒鳴った…
「…なんで、アンタなの! なんで、アンタは、そんなに、会長に気に入られているの!…」
と、怒鳴った…
私の面前で、怒鳴った…
私は、呆気に取られた…
もちろん、私の悪口に、違いないが、呆気に取られた…
なぜなら、そんなに、親しくない人間に、まさか、こんな目の前で、悪口を言われたことなど、なかったからだ…
まして、今、私は、33歳…
彼女、米沢京子は、31歳か32歳…
そんな大人が、目の前で、私の悪口を言うとは、思わなかったからだ…
文字通り、面食らった…
あまりの展開に、声も出なかった…
呆気に取られたままだった…
すると、
「…気に入らない! ホント、気に入らない!…」
と、彼女、米沢京子が、何度も繰り返した…
「…ホント、気に入らない!…アンタって、女が、気に入らない!…」
と、大声で、怒鳴った…
私は、唖然とした…
どうして、いいか、わからず、唖然とした…
まさか、ここで、大声で、怒鳴り返すわけには、いかない…
いかに、頭にきても、そんなわけには、いかない…
そんなことは、できるわけはないからだ…
彼女は、その後も、私の悪口を言い続けていた…
ひとりで、言い続けていた…
私は、その姿を見ながら、慌てて、部屋を出ることにした…
こんな場所に、一時たりとも、いたくない…
逃げるに限るからだ…
私は、部屋を出て、ドアを閉めた…
周囲には、誰もいなかった…
私は、駆け足で、そこから、逃げ出した…
彼女、米沢京子が、追って来ないことを、確かめながら、逃げ出した(爆笑)…




